第3章 第9話 カミングアウト
今回も回想です。
「俺さ、世界最高のマジシャンの息子なんだぜ?」
ある時、言おうか迷うそぶりを少し見せてから、西村は僕にそうカミングアウトした。僕が西村に師事してからだいたい半年くらい経った頃の事だから、『ブラック=キャット消失』から5年後の話になる。僕が異世界に渡る事になる1年前、と言い換えてもいい。
「世界最高のマジシャンって・・・『ブラック=キャット』のこと?」
僕はそう聞き返した。とてもではないが簡単に信じられる話ではなかった。数年前に突如行方知れずになってしまった世界トップの凄腕のマジシャンの関係者が、こんな身近にいるわけがないと思ったからだ。
西村は、そんな僕を見て口元を笑みの形にゆがめた。まるで主人公の永遠のライバルが、「それでこそ俺の見込んだ通りの男だ。」とか言っているときに浮かべる笑みのようだった。
「そう、それ。その名前をよく知ってたな。もうずいぶん聞いてない名前だろ?」
西村が聞いてくるが、その通りだった。この名前を口にする事すら久しぶりだった。いわんや、耳にすることをや、だ。
でも、僕が彼の名前を忘れることはありえなかった。なぜなら・・・。
「まぁね。でも、『ブラック=キャット』は、僕をマジックの世界に導いてくれた人だから。どれだけ経っても忘れないと思うよ。」
マジックを見るだけではなく、こんなマジックを演じられるような人間になりたい―
『ブラック=キャット』のマジックを初めて見たときにそう思った。あれほどのマジックを演じられる人間になるんだ、とその日に強く決意した。まぁ、まだまだそのレベルにはたどり着けていないのだけども・・・。
「そうか・・・。足立になら、教えてもいいかもな・・・。」
「何を?」
尋ねた僕の言葉ののちに、一つの決断を下した様子で西村は僕に宣言した。
「これから、俺がお前に、マジシャン『ブラック=キャット』の技術を全て叩き込む。闇に葬られた、ホンモノの技術を全部だ。」
「え・・・。」
それは、あまりに唐突で。
「ただし、ここでの話は一切他言無用だ。そして教わった技術は安易に誰かに教えるな。いいな?」
予想外な出来事だった。
西村の鬼気迫るほどの迫力に、僕は気圧されるようにしてうなずいた。それを確認した西村はいつもの表情に戻ると、
「じゃ、今日のレッスン開始だ。」
と、いつもと変わらない態度で僕にマジックを教えはじめた。その日から、教えられるマジックの内容は格段に複雑なものになっていった。
☆
それから、また時は流れる。
さまざまなマジックを教わった。
『ブラック=キャット』の得意マジック、『サンダーチェンジ』さえも教わった。
『西村が事故に巻き込まれて死亡した』と森教授から聞かされた。
マジックから距離を置いた。
青い鳥からの手紙で、西村からマジックを教わるということの本当の意味を知った。
そして、ふたたびマジックと向き合った。
奴が闇に葬った『ブラック=キャット』の技で、奴に復讐するために。
それゆえに僕の技は・・・一度は手放し、磨きなおしたその技は、本家のような輝く芸術にはなりえない。
なぜなら、僕のそれは、復讐心が生んだ悲しい技だなのから。




