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第3章 第8話 くろいねこのはなし


 少し、昔の話をしよう。僕が大学生になるよりも2,3年ほど前の話だ。

この頃は、日本に空前のマジックブームが起こっていた時だった。マジック人気が凄まじく、『マジックグッズの売り上げが、例年と比較してグンと上がった』と、どこかのテレビ番組が紹介していた記憶がある。あの当時は、いろんなマジック特番が何本も組まれたものだった。昔からマジックを見るのが好きだった僕は、テレビ欄を確認し、マジック番組は逃さず録画して、それを何度も見ていたのを覚えている。

 そんな『マジック時代』とも言うべき時代で、『世界最高のマジシャン』と称賛された人物がいた。そのマジシャンの名は『ブラック=キャット』。本名不明。国籍は日本。性別は男で、年齢は40代後半くらいだろう。彼はさまざまなマジックを得意としていた。テーブル上で演じるようなクロースアップマジックから、大掛かりな舞台で演じるようなイリュージョンまで。彼のマジックは独創的であり、芸術的だった。『コインを手の中から消す』という行為ひとつ取っても、他のどのマジシャンも比較にならないほどに美しく、鮮やかだった。それは、『彼が表舞台に表れた時、マジックにおける『芸術』の頂点と言うものを世界は初めて目撃した』と言えるほどに、だ。

 それほどの芸術家だった彼は、どういうわけか『弟子をとる』という行為を絶対にしなかった。ある番組の取材でブラック=キャット本人がそう語っていた。では、彼は己の技術を後世に残す意思がなかったのかというと、実はそうではない。彼は、自分の家族だけには自分の技術を惜しみなく教えていた。赤の他人には自分の技を教えるつもりがなかったというわけだ。もっとも、この事実を知っている人間はほとんどいないが。

 そして、ある時を境に彼はパタリと姿を消す。何の予告もなく唐突に、だ。一説では、『マジックのネタを考えるためにしばらく消えることにしたのだろう』だとか言われていたが、真相は闇の中だ。一つ言えるのは、結局彼は二度と舞台に帰ってくることはなかったということだけだ。そのまま無情に時は過ぎ、一向に世に現れる兆しのないマジシャンのことなど、ついには誰も気にしなくなってしまった。当時は『ブラック=キャット』を知らない人間を探すことが難しかっただろうが、今では『ブラック=キャット』の名を知っている人間を探すことの方が難しいかもしれない。

 『ブラック=キャット』が世間から忘れ去られたことで、彼が生み出した芸術の数々も闇に葬られることになってしまった。彼の技術を教わった人間がいることなどその当時は誰も知らなかったというのもあるが、彼の技術の継承者全員が、晴れ舞台に出ることを良しとしなかったからというのもあるだろう。

 

 それでも、僕は覚えている。彼の名前を。彼のマジックを。そして、僕は知っている。彼のもっとも得意なマジックが『サンダーチェンジ』であるということから、そのタネまでも。なぜなら・・・。



 『ブラック=キャット』から技術を教わった人間である西村遊稀から、僕はマジックを教わったからだ。


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