第1章 第5話 ダイスロール
物語に入る前に、ここで、サイコロを一回振るという事象について考察してみよう。
サイコロに何の細工もなされていない場合、適当にサイコロを振ったならば、1から6までの目が出る確率は、論理的に考えればそれぞれ1/6となる。厳密には、サイコロの目というものはそれぞれの面に彫られているため、面ごとで質量が微妙に変わってくることになってしまい、重心がずれる。それゆえ、どの面もまったく同じ確率で出るというわけにはいかず、ほんの少し出目に偏りがあるそうなのだがそこは気にしなくていい程度の誤差であるとしてここでは置いておく。
では、次に確率を操作されたサイコロの場合を考えてみよう。例として、1か2が出る確率を9割、その他の目が出る確率が1割であるサイコロを仮定して考察していこうと思う。
先と同様、適当にこのサイコロを振ったならば、確率に従って高確率で1か2の目が出ることになる。しかしそれは、『それをランダムに試行した場合』の結果だ。つまり・・・。
☆
―かかった。
イカサマ賽だと聞いた時は焦ったが、確率を操作しているだけで、普通のサイコロと変わらないならば僕の勝ちだ。これでボーナスポイントは1200ポイントだ。
「じゃ、振るよー。」
言いながらサイコロの面の位置を手の中で微調整。これで準備は整った。サイコロを、ゆっくり手を開きつつ手刀をするような感じで手放す。そして手を開いて腕を振り下ろし切ったその瞬間、今度は手首を基点として手のひらを腕の進行方向とは逆方向に素早く引くことでサイコロに強烈な回転を与える。
どちらのサイコロにもある回転速度を等しく与え、ある同じ高さからサイコロをリリースすれば、それぞれのサイコロは、まず3の面と5の面の境のエッジ部分が地面に当たる。そこから4回跳ねたところでサイコロの前進運動が止まり、その時に上側に出ている面(仮にこれをA面としよう。)をそのまま上に保ちつつ、その場で3回転半ほど左回転する。そこでサイコロの全ての運動は止まり、出目はA面になる。サイコロを振り始めてから出目が決定するこの瞬間までに、ランダム的要素は一切存在しない。A面が出るように、サイコロのすべての動きを物理法則に基づききちんと演算し、その結果に沿うようにコントロールして投げているからだ。
つまり、サイコロが物理法則に干渉してくるようなトンデモサイコロでない以上、いかにアオイさん特製サイコロといえども、A面が6になるように最初の面の位置を調整してから振れば、その目はかならず6と6になる。理屈で証明されている以上、こればかりは覆らない。ふっふっふ、悪いなアオイさんよ、その素敵な笑顔を驚愕に歪ませてやるぜ。
サイコロは何回か地面をはねて止まる。はたして出た目は・・・・・・・6と6であった。
「な、なんじゃとお!?」
目をむいて驚きをあらわにするアオイ。ここまでのリアクションをとる人物と言うのも珍しい。
「わーすごいぐーぜんだなー。1厘の事象が起きて僕もびっくりだよー。」
なんかセリフが棒読みっぽくなっちゃったけど今のアオイはそこに気づく余裕もないようだった。僕はさわやかな笑顔を浮かべて、口をOの字に開けているアオイを見てみる。『こんなのありえないんじゃよー!』とか言いだしそうな顔をしていた。
「こ、こんなのありえないんじゃよー!」
ほらやっぱり。
「まー、でもものっそい偶然とはいえ出たもんはしょうがないよね。じゃあボーナスポイント1200ポイントの割り振りを少し考えてみるよ。」
「ぐぬぬぬ・・・」
そこまで思い通りにいかなかったのが気に食わないのだろうか・・・。
「むうぅぅぅぅ・・・まあ、そうじゃな。じゃあ割り振り方が決まったらそれをさっきの紙に書いてワタシに見せてくれ。そこまでできたらあとはワタシの仕事じゃ。」
「おーけい。」
さあて、1200ポイントをどう割り振ろうかなぁ・・・?
2017.6.11 本文を少し修正しました。