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第2章 第39話 どこへ行こうというのかね?


 ガタツがいつ来るかわからない極限の緊張下で、ソレに気付けたのは僥倖だった。ペンの頭をカチカチして芯を出したり引っ込めたりする機構を採用しているボールペンには、大抵バネを使用することでその機能を持たせている。であれば、この部屋に置かれていたボールペンをバラせば、バネが手に入る可能性が高い。そしてバネが手に入ったのならば、それを引き延ばせばクリップの代わりに利用できるかもしれないと思い至った。そこまで気付ければ、あとは時間との勝負。急いでボールペンを解体し、中のバネを取り出す。そしてそれを引き延ばして針金状にし、手錠をはずす。外した手錠は、すぐにでも相手にかけられる状態にして右手と服の袖部分を利用して隠し持っておく。隙を突いてガタツに嵌めるためだ。ここまでの動きを、なんとかギリギリで間に合わせることができた。手錠を隠して2秒後くらいにガタツは部屋に戻ってきたから、本当にギリギリだった。


「マジシャンに一番必要なものって、なんだと思いますか?」


 唐突に真意の読めない質問をぶつけることで、ガタツの脳を小さなパニック状態に陥れる。そうなれば、人間の動作は一瞬止まる。そのタイミングで仕留める。

 僕は右手と左手をほぼ同時に動かす。最短距離を最速で。まず左手で先にガタツの左手首を押さえ、その数瞬後に右手に仕込んだ手錠を奴の手首にはめる。奴の手首に手錠をはめたら、右手を引くように戻して手錠の反対側の輪っか部分を掴み、それを机の脚の部分にはめる。これでガタツは左手首を起点に机に固定されたことになる。今はめた手錠が机の脚に届かなくなるように、ガタツに左腕を強引に動かされたらその時点でこちらの終わりであった。力では、ガタツに勝てそうもなかったからだ。そのため、逃走のためには奴が動く前に手錠を机にはめて拘束しておく必要があった。だが僕はマジシャン。素早い動きを要求されるのはよくあることなので成功させる自信はあった。


「なっ・・・!」


 机の脚に手錠をはめたところで、ようやくガタツは現状を把握し、反射的に驚きの声を上げつつ左手を引っ込める動作をする。だが、それでは遅い。もう既に手錠ははまっている。


「貴様! どうやって手錠を!?」


 ガタツがわめくが、僕はこれをスルー。少し大回りして机、というかガタツを避けて、出口へと走り、扉を開け、蹴り閉める。


「なっ!? お前!?」


 手錠を外して部屋を飛び出してきた僕を見て、ドアの前にいたのであろう見張りAが僕を取り押さえようと襲いかかってくる。だが、問題はない。


「マリー!」


 僕の意図を素早く察し、マリーは見張りAに向かって催眠術を仕掛ける。永遠に覚めない眠りにつかせるタイプのものではなく、軽い眠りにつかせるタイプのものを、だ。

 催眠術は成功。見張りAは白目を剥きつつ、床に倒れる。白目を剥いた瞬間に、僕は軽く首筋にチョップを入れておく。これで、彼は『自分はチョップで気絶した』と勘違いしてくれるだろう。彼もいずれ目覚めるし、このことが原因でムーマ・エンドの存在が露見することもないだろう。

 

 僕は、速やかに来た道を戻り、冒険者ギルドの受付があるスペース近くまで走る。このドアを開ければギルドの受付がある部屋に出るが、ここから走って出てきては怪しまれてしまう。なので、急ぎたいのはやまやまだが速度を落とし、普通にドアを開けて受付スペースに躍り出て、いつもと変わらないペースを意識して歩く。一応、いつでも走り出せるように準備だけはしているが。

 奥での騒ぎはここまで聞こえてこなかったようで、誰も僕に怪しい目を向けてくるものはいなかった。最後まで油断せずに歩き、僕は冒険者ギルドの建物から出る。なんとか無事に冒険者ギルドから逃走を果たせた。一つ目の角を曲がって裏路地に入り、もう人目を気にせず走り出す。目指すべき隠れ先は、一つしかなかった。


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