第2章 第28話 外法な魔法
あれから宿に帰り、マリーに『書くものが欲しい。』とジェスチャーで言われた僕は、宿の自分の部屋にて、部屋に備え付けられていた紙とペンを渡した。その結果、マリーは筆談によって僕と会話をすることに成功し、マリーの主食となるものが判明したのであった。なんと、ムーマ・エンドという種族は、一日に一度、生物が寝ているときに見る夢を主食に食べるだけであるらしい。そちらも予想外だったが、マリーが異世界文字を書けることはさらに予想外だった。まあともかく、これでマリーの食事問題も解決したと言えるだろう。
疑問も解けてすっきりした僕は、マリーを連れて宿屋1階の食事スペースで遅めの夕食をとり、お風呂に入り、就寝準備を整えて眠りにつくのだった。
☆
「・・・よ。・・・・・・・・のじゃ・・・。」
その日に見た夢の始まりは、そんな声だった。どこかで聞き覚えのある、なんだか懐かしい声だ。
「・・ーじよ。・・・・・目覚めるのじゃ・・・。」
どうやら、誰かが僕を呼んでいるようだ。呼ばれているなら、起きなければならないだろう。眠い目をこすって、僕は起き上がることにした。
「おお、目覚めたか、しょーじよ! ワタシを覚えておるか?」
そこにおられたのは、いつかも見た、青い袴と不思議な空気をまとった見た目12歳くらいの少女。この独特のしゃべり方。間違いなくあの神様だろう。
「うん。アオイ、久しぶりだね。元気にしてた?」
「ああ。別れてからそんなに日は経っておらん気もするが、元気にしておったぞ。おぬしも元気そうで何よりじゃ。」
久しぶりに会う孫を見るおじいちゃんのような目でこちらを見てくるアオイ。なんだか妙に照れくさくなる。
「うん、おかげさまで楽しく異世界生活を送らせてもらってるよ。」
そりゃあもう、こうして再会するまでにいろいろありましたよ。
「それはなによりじゃ。ワタシもおぬしをこの世界に送り込んだ甲斐があったというものじゃな。このままおぬしと楽しくおしゃべりしたいところなんじゃが、そういうわけにもいかんのじゃ。今回おぬしの夢にワタシがこうして出てきたのには事情があるのじゃ。おぬしにあることを伝えねばならなくての。」
顔を曇らせるアオイ。僕はなにかやらかしたのだろうか・・・。
「今日、おぬしはある魔法を習得したじゃろう。『Deadly Blaze』という魔法じゃったか?」
「うん。」
うなずく僕。
「あの魔法には発動に条件があってな。一つは術をかける相手に深い恨みの念を抱いていること。もう一つは、おぬしの最大MPの8割を代償に払わないといけないということじゃ。発動するだけでもかなりの負担が術者にかかるわけじゃな。ほれ、これを見てみるのじゃ。」
そういってアオイが差し出したのは、僕の冒険者カード。裏面を確認してみると、確かに僕のMPがごっそり減っているのが確認できた。どうりであのあと異様にだるさがあったわけだ。
「『Deadly Blaze』は、相手の魔法防御や魔法抵抗を無視して、相手の最大HPに応じた割合ダメージを継続して与え続ける炎を生み出す魔法じゃ。自分の意志で消さぬ限り、この炎は消えることはない。この魔法は、言ってみれば『己が憎しみの炎で相手を焼き滅ぼすこと』をまんま実現するための魔法と言えるわけじゃな。」
それは、えげつないな。マリーにそんなものを食らわしてしまったことに心が痛む。
「編み出してしまったものはしかたないが、この魔法は外法の技じゃ。誰かにかけるのは絶対にしてはならぬし、たとえモンスター相手でも、この魔法はなるべく使わないようにするのじゃ! よいな!」
僕の両肩に手を置き、真剣な目でこちらを見てくるアオイ。そこに冗談は一切ない。僕はアオイの目をしっかりと見つめてうなずきを返す。
「わかればよいのじゃ。
それと、今のとは別で、もうひとつおぬしに伝えねばならんことがある。」
なんだろう。
「『Deadly Blaze』のような、おどろおどろしい字体で書かれた魔法やスキルは、全てが魔族しか利用しないとされるものなのじゃ。これはあちらの世界では常識じゃからな。『Deadly Blaze』を覚えたことは、誰にも知られないように気を付けるのじゃぞ。」
「・・・うん。わかったよ。」
『Deadly Blaze』を覚えていることがきっかけで僕が魔族だと誤解されるのは避けたいしね。
「うむ。私から伝えておきたいことはこれで全部じゃ。今言ったことを忘れるでないぞ。
では、さらばじゃ!」
そういって神々しい光とともに消えるアオイ。この夢もマリーは食べたのだろうなあと思いながら、僕は目が覚めるのを待った。
2017,8,12 誤字修正しました。




