第2章 第26話 終わりの終わり
行きも帰りも走り続けた甲斐もあって、なんとか日が落ちる前に西村達のもとに戻ることが出来た。呼吸することすらがツラい。日頃の運動不足が祟ったと言えるだろう。
「お疲れ。目当てのものは買えたのか?」
僕の労をねぎらいつつ、西村が訪ねる。その傍らでは、ムーマ・エンドが少し不安そうにこちらを見つめている。
「うん、無事に買えたよ。ほらこれ。」
そう言って僕が見せつけたのは、先ほどのタコのぬいぐるみだ。
「これでなにをするんだよ?」
「ムーマ・エンドに、このぬいぐるみに憑依してもらおうかなぁって考えたんだけど・・・。」
ほら、よくあるじゃん? 幽霊が、すぅぅっと何かの中に入り込んでくやつ。あれを、このぬいぐるみの中に入り込む感じでムーマ・エンドにやってもらう。そうすれば、僕はこの『ムーマ・エンド入りタコのぬいぐるみ』を持ち歩くだけで、ムーマ・エンドを街に連れて行くことも自由に出来るのだ。
「それ、ムーマ・エンドはやれるのか? 俺はムーマ・エンドに憑依能力があるなんて聞いたことないぜ?」
「たぶんいけると思うんだけど・・・。やれそうかい?」
ムーマ・エンドにぬいぐるみを向け、これに憑依してほしい旨を身振り手振りを交えてお願いする。するとムーマ・エンドは、
「きゅ。」
と一声鳴き、ぬいぐるみの口のあたりから、吸い込まれるようにして中に入っていった。すると、ぬいぐるみがうっすらと黒くなり、僕の手を離れて浮き上がる。そしてこちらを向いたかと思うとまばたきをし始めた。
完全にホラーである。
「ムーマ・エンドかい?」
ぬいぐるみに向けて確認をとる僕。一見するとぬいぐるみをお友達にしている人のような感じになってしまっているがそんなことは気にしない。
ぬいぐるみからは、
「きゅ~。」
という鳴き声とともにうなずきを返してもらえた。うまくいったようだ。
「「おおーー・・・。」
僕も西村も、驚きの声を思わずあげてしまう。ともあれ、これでミッションコンプリートだ。
「じゃあムーマ・エンドさんや、これからは人前に出る時はそのぬいぐるみに入ることにしよう。ぬいぐるみに入ったら、僕の肩の上に乗ることにしてくれ。」
これで他人の目は欺ける。まぁ、『ぬいぐるみを肩に乗せて歩く20歳の図』が完成してしまうことになるがそれはそれ。なんか言われたら『このぬいぐるみは、僕が魔法で奇跡的に命を宿らせることが出来た、僕の大切な相棒なんです。』とでも言おう。世界は広い。ぬいぐるみをかたわらに置いている魔法使いだって、探せばこの世界のどこかにいそうだし、魔法によって生きていると言ってしまえば、ぬいぐるみがまばたきしたり浮いたりしても不思議はない・・・はずだ。
「では、今日のところは帰ろうか、西村さんや。」
「ああ。」
そうして、僕たちは、各々帰路につく。長い長い一日が、とうとう終わったのだった。
2章はもう少し続きます。




