第1章 第3話 神はサイコロを振らない
今回は切りどころを逃してしまったので少し長いです。
気がつくと、僕は白い空間にあおむけに倒れていた。意識がぼんやりしていて視界もぼんやりとしているが、ひとつだけはっきりとわかることがある。そう、ここはあのセリフを言うべきタイミングだということ。そのセリフとはもちろん―
「知らない天jy」
「おぉー。目覚めて最初に言うセリフがそれとはなかなか面白いヤツが来たもんじゃのぉ。」
「・・・・え?」
誰もいないと思ってつぶやいたセリフに返事が返ってきたことにびっくりして意識が即座に覚醒。そしてノータイムで後ろを向く。
「なんてこった・・・。」
なんてことだろう。目を覚ましたら謎の白い空間に連れ去られていて目の前には青い袴のようなものと不思議な空気を纏った白髪の12歳くらいの少女。意味が分からなかった。だれかこの状況を説明してくれ。
「仕方ないのぅ。ならばこのワタシが説明してやろう。」
えっへん、という擬音語がつかんばかりに偉そうにふんぞり返る白髪少女。それを見て僕は、「この年で白髪なんてこいつはそんなに人生苦労してるのか。」と思わず思った。しかしその前に気になることがひとつ。
「ちなみにあなたはどちら様で?」
「ワタシか?ワタシはアオイ。見ての通り神様じゃ!気軽にアオイ様と呼んでくれて構わないぞ。」
見てのとおりと言われても神様だとはお世辞にも思えない見た目なのだが・・・。僕がそんな思いを抱いているとも知らず、自称神だという少女はマイペースに話を進める。
「説明を始めるまえにまずはおぬしに聞かねばならんことがある。」
「なんでしょう?」
思わず敬語になる僕。
「おぬしはどこまで覚えておるんじゃ?」
どこまでとはなんのことだろうか。
「ほれ、おぬしはタクシーに乗って帰る途中d」
「ああ、はい。そうですね。タクシーに乗って帰る途中でトラックが突っ込んできて・・・どうなったんですかね僕は。」
「おぬし・・・人のセリフを遮りおって・・・・・・。まあ、よい。率直に言うとあのときトラックに突っ込まれておぬしは死亡したんじゃ。本来ならそのまま輪廻の輪に従って、前世の記憶とはおさらばして別の誰かとして生まれ変わるというルートに入るはずなんじゃが・・・たまに若くして死んだ者が生まれ変わる前にこの空間に呼び寄せられることがあるのじゃ。」
「そうなんですか・・・。」
はじめて知った。勉強になるなぁ。
「まあそれはどうでもいいのじゃ。重要なのはそのあと。このままじゃとおぬしはまったくの他人として生まれ変わることになるのじゃが、この空間は言ってみれば現世と冥界のはざまのようなものでの、現実世界の影響下にないゆえに神が自分の力を自由に行使できる場所でもあるのじゃ。それゆえにここではさまざまなことができりゅのじゃ!」
「そうなんですかぁ! それはすごい。」
アオイが噛んだことには気づいていたが、そこはスルーする。ほら、僕は優しいからね。
噛んだことに突っ込まれなかったアオイは、「僕はアオイがセリフを噛んだことに気づいていない」と思ったのかどこか安心したような顔で話をつづける。
「そこで、じゃ。本来ならまだまだ人生を謳歌できるはずじゃったかわいそうなおぬし・・・名前なんじゃったっけ?」
「足立 昭二ですが。」
「しょーじをワタシの力で異世界、それも魔法が存在する異世界に転生させてやろうと思うのじゃ!」
「乗った!」
異世界?素敵じゃないか。異世界に行けば卒論をはじめとしたさまざまな重圧から解放される!でも問題がないわけじゃない。
「ひとつ聞きたいんだけど向こうの世界の言語ってどうなってるんです?『異世界行ったはいいものの言葉が通じずに詰みました。』なんて事態は避けたいんですけど・・・。」
「そこはぬかりないのじゃ。異世界にわたる際にはワタシが生み出したワームホールをくぐることになるんじゃが、その時に私の神様パワー☆がおぬしの脳に直接不思議作用を引き起こして異世界の言語の知識を吸収させるからのう、言葉の壁で詰むことはなかろうて。」
まじか。
「素晴らしい、素晴らしいよアオイ君! なんてことだ!あなたが神様だったんだね!」
「信じておらんかったのかおぬし!」
あっやべっ、やらかした。とりあえずここはさりげなく流してごまかそう。
「まあまあ、それは置いといて。異世界に転生するにあたってなにかしなきゃいけないことって何かありますか?」
「むー・・・。やらなければならないこと・・・か。ひとつだけあるぞ。『きゃらくたーさくせい』というものじゃ。」
「なにをするのかいまのでだいたい予想できたよ・・・。」
いろいろなゲームでよくある、ステータスのわりふり的なことを決定するのだろうが・・・。
はたして、予想通りにアオイは僕に一枚の紙を渡してきた。それを見てみると、紙には『異世界での名前』と書かれた空欄とその横に21歳・Lv30と記された部分、そして
HP:1000+?=??
MP:1000+?=??
筋力:500+?=??
防御力:500+?=??
素早さ:500+?=??
精神力:500+?=??
と書かれた項目が並んでいた。この時点で予想は確信にかわった。
アオイは神を、違った、紙をぺらぺらしながら説明する。
「HPは体力で、これが0になった者は例外なく死亡する。筋力はそのものずばり筋力でもあり物理攻撃力も示しておる。防御力はまんま物理防御力を示し、素早さは、まあ説明はいらんじゃろう。精神力は魔法に対する耐性であり自分の魔法の強さを示しておる。ちなみに先ほどの紙に記してあるボーナスポイントを割り振っていないもともとの値が、あちらの世界の一般人の平均値と同じ値じゃ。年齢は現実世界の時と同じく21歳、LVはあちらの世界の21歳の人物の平均である30に勝手にさせてもらうぞ。こればかりは融通がきかんからのう。
で、この紙に『異世界での名前』とそれぞれの項目について『ボーナスポイントをいくら割り振るのか』と『ボーナスポイントを割り振った結果の値』、まあつまり?と??の部分に具体的な値を記入して、記入したら封筒に住所、氏名、年齢、向こうでの職業、番組の感想をかいてこの宛先に応募するだけで準備完了じゃ! ちなみに異世界での名前は下の名前を先に言う風習になっとるから名前の書き方には注意するんじゃぞ。」
「この宛先ってどこだよ!」
いや他にもいろいろつっこみどころはあるけども。
「ワタシじゃ!」
「おまえかよ!」
とうとう神様におまえ呼ばわりをしてしまうにまで至ってしまった僕であった。
「くぅー、ワタシが子供っぽいからって舐めくさりおってからに・・・よろしい、神を馬鹿にしたものにはバチを当てる!それが古よりのルール! じゃから私もおぬしにバチをあてるのじゃ!」
「なん・・・だと・・・。」
職権濫用ってレベルじゃねーぞ!
「転生時のステータス強化の割り振りボーナスポイントをサービスして1000ポイントにしてやろうと思っておったがやめじゃ!罰として2D6×100ポイントだけにしちゃるもんねー!」
アオイが指をパチンと鳴らすと何もない空間から半透明の6面サイコロが二つ、アオイが突き出していた左の手のひらに落ちてきた。地味に凄い。ちなみに2D6とは六面ダイス2回分を意味する。しかしそれだと・・・。
「でもそれだとあんまりバチの意味ないよ?」
確かに期待値的にはボーナスが700ということになるから少し痛いが、しかしその程度ならセーフ・・・だと思い。
「そこは抜かりないのじゃ。このサイコロを使って振ってくれればそれでよいぞ。なにせこのサイコロはワタシの神様パワー☆によって普通に振れば2以下の目が出る確率が9割9分9厘になるようにできておるからのう!」
なんかフラグくせえセリフだなあとか思ったがそんなことに突っ込んでいる余裕はない。
「なんだそれイカサマ賽じゃないか! 普通のサイコロを要求する!」
「嫌なのじゃ!それではバチの意味がなかろう! そもそもボーナスポイントを割り振れる時点で常人よりは確実に強くなれるんじゃし、むしろチャンスをあげている分ワタシに感謝してもいいくらいじゃ!
さあ素直にそのサイコロを振るのじゃ!ふひひひ、己が手によって定められし命運を確定事項にするがよいわ! 1+1なんて結果になったら盛大に笑ってやるんじゃよー!」
「こ、こいつ・・・!」
「さあ、振るのじゃ!」
アオイにうながされるまま、僕は仕方なくサイコロを握った手を振りかぶった。