第2章 第23話 これは夢だ・・・
うつぶせに倒れながらもなんとか顔と右腕だけを上げて、ムーマ・エンドを焼き続けていたら、西村が目を覚ましたのがわかった。そこまではよかったが、そこからはよくなかった。西村は、起き上がりざまに僕の右手首をガシッと掴むと
「今すぐその魔法を止めるんだ! はやく!」
と言ってきたからだ。
怪しい。怪しすぎる。自分を覚めることのない眠りに落としたやつだぞ?そんなやつをなぜかばう? 西村が、眠っていた間に洗脳されたとしか思えなかった。
しかし、西村の目を見るととてもそうは見えなかった。なので、僕は西村の正気を確かめにかかる。どうやってかって? いくつか質問をするだけだ。非常事態ゆえ、この時だけ口調は厳しめでいかせてもらう。
「・・・これからいくつか質問をする。あなたはこちらの質問には全て『タコス』と答える事。いいな?」
「タコス。」
引っかからなかった。精神状態がおかしくなったわけではなく、落ち着いていると見ていいだろう。ならば次だ。
「では次の質問だ。ここからの質問は、『タコス』と答えなくてもいい。
僕は、出牛唆大学で人からなんと呼ばれていた?」
「素晴らしきイカサマ野郎。」
即答だった。人からこう言われても何とも思わなかったが、なぜだろう、西村から言われるとなぜかものすごくグサッと心に来る。自分で自分の心に傷をつけるとか何をやっているんだと思いたくなるが、ともあれ異世界に来る前の時点での僕に関する質問にも答えられたから、これでムーマ・エンドが意識を乗っ取って答えている可能性も消えた。最終確認に、僕は最後の質問を仕掛ける。
「では最後の質問だ。出牛唆大学に生息している森教授の年齢は?」
「そんなん知らんわ。」
「OK。本物だ。要求を飲もう。」
西村に異常はないと確認が取れたところで、仕方なく魔法の解除を試みる。『炎よ消えろ。』と念じたらあっさりとムーマ・エンドを焼き続けていた黒い炎は消えた。ムーマ・エンドは・・・生きていた。もっとも、かなり体力を失っているようだったが。この状態なら、何かあっても僕たちだけでムーマ・エンドを倒しきれるだろう。まあ、今の僕も、ムーマ・エンド並にとまではいかないが消耗しているので、倒すのは西村任せになってしまいそうだが。
「で、どうして魔法を止めさせたかを聞いてもいい?」
何があってあんなことを言い出したのだろうか。この世界に来て長いのなら、西村もあいつの危険性は十分知っているだろうに。
「こいつはな、世間で言われてるほど悪いやつじゃないみたいなんだ。」
「といいますと?」
西村の話をまとめるとこういう事だった。あのムーマ・エンドは、人を眠らせこそするが、それは見えないところで疲れをため込んでいる人たちの疲労回復促進を図ろうとしただけだったらしい。人を眠らせるスペシャリストのムーマ・エンドの催眠術をもってすれば、短時間で質のいい睡眠をとれるそうだ。大抵のムーマ・エンドは噂通りの悪いやつばかりだが、こいつは人に危害を加える目的で催眠術をかけたことはないそうだ。
で、本日たまたま僕たちとエンカウントしたムーマ・エンドは、西村を一目見て疲れをため込んでいることを察し、西村に10分程度の軽い仮眠を取らせるために催眠術をかけようとしたが、その時の西村はこのムーマ・エンドの狙いなぞ知る由もない。おかげで事態はここまでこじれてしまったというわけだ。ここまでの話は、全て、眠っている間に西村があのムーマ・エンドと会話して教えてもらったそうだ。
「それ、信じてもよさそうなの?」
「ああ。話してる時の態度で確信した。あいつは話の通じる良いヤツだったぜ。」
「そっか・・・。」
そういうことならば、これからやることは一つしかない。
「というわけで、今からこのムーマ・エンドを治療したいと思います。」
そして『傷つけてごめんなさい。』と伝えなければなるまい。
「俺もそうしたいところだけどさ、どうやって治療するんだ? モンスター用のポーションなんてこの世界には売ってないぞ。」
西村のその疑問は尤もだ。常識で考えれば治療手段はない。だが・・・。
「治療法なら、あるよ。」
「んなあほな。」
僕の思い通りに事が運ぶかは分からないが、今はこの可能性に賭けるしかなかった。
「僕たちが今いるこの世界は夢の中の世界である。これに間違いはない。」
「ああ。」
うなずく西村。
「そして、僕たちはそれを自覚している。つまり、今僕たちは明晰夢を見ていると言えるんだ。それならば・・・。」
「そうか!」
ここで西村は僕の狙いを悟ったようだ。そう、明晰夢を見ている状態ならば、その夢の中では自身が望んだとおりの物事を起こすことが出来る。自分が望んだ誰かを登場させることも出来るし、超人的な身体能力を発揮することも可能だ。もちろん、自分が望んだ物体を具現化することもだ。
「だから、今からイメージして作り出すんだ。モンスターに効果のある回復ポーションを・・・!」
そう思った瞬間には、既に僕の空いている左手は何かの瓶を握っていた。どうやらうまくいったようだ。
僕は瓶を開けると、その中身をムーマ・エンドに優しく飲ませた。




