第2章 第14話 あたしのことは
今回はキリュウインさん視点ではありませんぞよ。
ひさびさに出会った、あたしが面白いと思えるヤツと別れて移動することしばし。あたしはある一軒の古びた居酒屋のような場所に来ていた。といっても酒を飲みに来たわけではない。ここに来たのは仕事のためだ。・・・が、仕事の他にももうひとつだけ用がある。それは・・・。
「ニシムラァ!!ニシムラはいるかぁ!?」
店の扉を開けてすぐ、店の奥に向かってどなる。今は営業時間外なので店の中には客は誰もいないから他人の迷惑を気にする必要はない。
あたしの声を聞きつけて慌ただしい足音と共に、店の奥からボーズ頭の男が急ぎ足でやってくる。そいつはあたしの前まで来ると、
「へい、お待たせしましたお頭。ニシムラの奴ですが、今は奥でカードをいじっておりますぜ。」
と答えた。あたしはひとつうなずくと、
「わかった。あたしは今からあいつに会ってくる。あいつに聞きたいことが出来たからな。」
と言って、店の奥に向かって歩き出す。そして職員用通路と書かれた扉をくぐろうとしたところで、ボーズ頭に振り返り一言+αを言っておく。
「もし誰か来てもそいつには『あたしは仕事に出かけている。』と伝えておけ。」
これは一言の部分。
「わかりやした。お頭!」
「それと・・・。」
「なんでしょうか?」
これから言うのが+αの分になる。これは何度も言っているのになぜ誰も直してくれないのだろうか・・・。
「あたしのことはオルガさんと呼べ。頼むから。」
ボーズ頭にそう言い終えると、返事を確認する前にあたしは扉をくぐった。
☆
この居酒屋はあたしたちのグループが拠点として使っている居酒屋だ。従業員は全てあたしたちのグループの構成員であり、あたしはそのグループのトップをやっている。何のグループかと言うと、アサシンを集めたグループだ。そんなところのトップをやっているせいか、構成員たちはあたしのことをボスだとかお頭だとか呼びやがる。その呼び方だと、なんだか自分が男みたいに思われてしまいそうでイライラするからあたしのことはオルガさんと呼べと何度も訴えているのになぜか誰もそう呼んでくれない。からかっているのだろうか。
ところでアサシンを集めたグループと言うと、闇にまぎれて『誰かから依頼された何の罪もない人物』を暗殺したり、こっそりと建物の破壊工作を行ったりするのだろうと思われるかもしれないが、あたしのグループはそのようなことはしない。いや、実際はするのだが、依頼があれば誰彼構わず暗殺したり建築物破壊をしたりするわけではない。あたしのグループが受ける依頼にはルールを設けている。それは依頼されたターゲットが、殺されるに足る理由、もしくは壊されるに足る理由を持っていると判断された場合のみその依頼を受ける、というルールだ。このルールを満たしている場合に限り、あたしたちは依頼を受ける。そんなふうに依頼を選り好みしていてグループの運営は大丈夫なのかと思われそうだが、これでもグループの運営はうまくいっているほうであると自負できる程度には成功を収めている。
移動しながら、自分の呼び名をなんとかして定着させる方法を考えていると、いつのまにかニシムラお気に入りの別室の前に来ていた。ノックもせずにあたしは扉を蹴り開ける。
「ニシムラ!お前に聞きたいことがある!」
いきなり扉が蹴り開かれたことに驚いた部屋の主が、手に持っていたカードをぼとぼとと取り落とす。このびっくりしてこちらをふりむいている黒髪エルフがニシムラだ。ひょっとしてカードマジックとやらの練習をしていたのか? だとしたら悪いことをしてしまったな。
「悪い、なにかの練習中だったか?」
思わずしゅんとした顔でそう聞いてしまうあたしの様子を見てか、ニシムラは手をぶんぶん振って慌てる。かわいいやつだ。あたしのことをボスなどと呼ばないあたりも特にいい。こいつだけは、素直にあたしの言うことを聞いてくれる。
「いえ、適当にカードをいじってただけです。気にしないで下さい! それよりどうかしたんですかオルガさん?いきなりここに来るなんて。」
こちらの事情を聞いてくるニシムラ。彼にとってもあたしの不意の襲来が不思議なんだろう。
「ああ、お前に聞きたいことがあってな。実は今日、こんなことがあったんだよ。」
そう言って、あたしはニシムラに先ほどの出来事・・・キリュウインがギラヴィというサマ野郎にポーカーを挑んだ話を切り出す。
「でな、そいつは手札がワンペアの状態のまま勝負に行くかと思ったら、あたしが見てる目の前でいきなりカードの端を親指で弾きだしたんだ。するとなぜかカードが一瞬で書き変わってな。ワンペアだった手札はフォーカードに書き変わり、見事イカサマ野郎どもをイカサマで倒したんだよ。」
「へぇ~、そんなことが・・・。キリュウインさん、ねぇ・・・。」
ニシムラも驚いているようだ。どうもあたしとは驚いている場所が違うような気がするがそれはニシムラもイカサマ道を修めているからこそだろうか。あたしは話を続ける。
「で、だ。その勝負の後そいつに直接話を聞いていろいろ教えてもらったんだが、肝心のカードを書き換えた方法だけは教えてもらえなかったんだよ。それがどうしても気になってな。本人がいないところでその方法を知ろうとするのもなんか悪いなとは思うんだが・・・ほら、あたしって分かんないことがあるとイライラしちゃうからさ。それで、『カジノキラー』と恐れられてるお前のところに来たわけだ。あらゆる不思議イカサマをやってのけるお前なら、なにかわかるんじゃねえかと思って・・・。」
そう言いつつ、ニシムラの方を見る。彼は信じられないものに出会ったかのような、そんな顔をしていた。
「オルガさん。そのキリュウインって人がやってのけたのってもしかしてこれですか?」
そう言いながら、ニシムラは床に落ちたカードを適当に5枚拾い、右手に扇状にひろげ、こちらに見せてくる。こちらがそれを見ていることを確認したニシムラは、左端のカードから順番に左手の親指ではじいていく。次々と書き変わっていくカードたち。
「お、それだそれ。なんだお前もできるんだな。」
これなら謎が解けるのも時間の問題だ。そう意気込んでいたところにニシムラは手を伸ばして待ったをかけた。
「それから、もし知ってたらそのキリュウインさんって人のフルネームを教えてほしいんですが・・・。」
「フルネームか・・・・・・確か、ショウ=キリュウインって名乗ってたな・・・。」
その瞬間、ニシムラの中で何かを確信したのだろう。彼は泣き笑いの表情になると、地べたに崩れ落ちた。
「ハハハ・・・まじかよ・・・・・・足立のやつ・・・この世界に・・・・・・・。」
ニシムラは謎の独り言をつぶやいている。大変だ、ニシムラが壊れやがった!
「おい、大丈夫か!? どうかしたのか!?なにがわかった!?」
あわててニシムラを抱き起こし、手近にあったソファに座らせる。彼は数度深呼吸して落ち着きを取り戻したようだった。
「すみません、取り乱しました。」
「かまわねぇさ。なにがわかった?」
落ち着きを取り戻したところでもう一度聞いてみる。
「足立・・・いや、ショウ=キリュウインでしたか。俺はあいつのことを知っています。たぶん、この世界のだれよりも。」
「そうなのか?」
「俺がもともとこの世界の住人ではないって話は以前しましたよね?」
「ああ。メンバーの多くは信じちゃあいねえみたいだがな。あたしは信じてるぜ。じゃねえとお前がおかしな知識ばかり持っていることとかに説明がつかねえしな。
・・・まさか、あいつも?」
「たぶん、俺と同じ世界からやってきたんだと思います。ここまで俺の知ってるやつと似てる奴がどこの世界にだっているはずがないですし。」
「なるほどな。言われてみりゃ、確かに奥義書を知らねえなんてこの世界じゃ考えられねえしなあ・・・。」
「そして俺のこの予想が確かなら、あいつが種を教えなかった理由も分かります。」
「そうなのか。なんで分かるんだ?」
「ここに来る前の世界であいつにマジックの全てを教え込んだのが俺で、あのカード書き換えのマジックの種だけは明かすなと俺が約束させたからです。」
「・・・は?」
一瞬、あたしの時が止まった。




