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第2章 第12話 仕掛けはございませんぞ?

 

「なあなあおい、あれどうやったんだよ。あたしに教えてくれよ。」


 ギャンブル会場をあとにし、さあどこかで昼飯でも食おうかと思い、歩き出そうとしたところで僕は先ほどの野次馬Aさんに冒頭のセリフとともにしがみつかれた。「じゃあどこかいい昼飯を出してくれる場所を教えてくれたらそこで教えてあげるよ。」と言ったら、嬉々として近所の定食屋に僕をつれていってくれた。二人で仲良く店に入り、僕は刺身定食を、野次馬Aさんはみそカツ定食を注文する。そして注文を取った従業員がどこかに行くのをみはからってから、野次馬Aさんは早速切りだしてきた。


「で、どうやったんだ。」

「ナンノコトデスカ?ヤジウマAサン?」

「とぼけんじゃねえよ!あれだよ。トランプを書き換えたあれ! それと野次馬Aさんってなんだよ!あたしはオルガだ! で、おまえはなんて名前だ?」

「ショウ=キリュウインですが。」

「じゃあキリュウイン!はやく教えろ!あたしは気が短いんだ。」


 そう言いつつ、腰のあたりにセットされているナイフのようなものの柄に手を伸ばすやじ・・・オルガさん。怖い人だ。これ以上いったら僕の命が危ない。


「わかりました、じゃあ説明しますね。」

「はじめっからそうしろよまったく。あ、そうだ。なんだったらさっき買ってきといたこの新品のトランプ使って説明してくれても構わねえぜ。それと、敬語で話されると知らねえやつらにあたしが親分でおまえが子分みたいに思われそうだから勘弁な。」


 や・・・オルガさんがそう言いつつ、羽織っていた上着の内ポケットからトランプが入っているであろうケースを取り出し、僕に差し出してくる。


「ん、わかった。じゃあそうするよ。どこから説明してほしい?」

「もちろん最初から最後まで。」

「おーけい。」


 渡されたトランプを受け取り、開封する。適当にトランプを混ぜた後、一度手を止める。


「まず、さっきの勝負ではギラヴィがカードを切ってから一度僕にデッキ(トランプの束)を渡した。実はこの時点でギラヴィの勝ちはほぼ決まっていたんだ。」

「そう言い切るってことは、やっぱ奴はイカサマをしてたってことで良いんだな。」

「その通り。ギラヴィがしたイカサマは簡単。自分がシャッフルをしているときに、カードの上から5枚を自分が欲しい手札―今回はフラッシュ5枚だね―にそろえた後、さりげなくその5枚を自分の右手に握り込むんだ。そして、『手札交換が終わった後の5枚のカード』と『隠し持っている5枚のカード』を手札公開する前にすり替えておく。こうすれば事前に強い手札がいくらでも作れるからね。まあ、あまり強い手札ばっかり作り続けるとイカサマを疑われるから、ほどほどの手札にする必要があるけどね。」


 そう説明しつつ、カードを上から5枚めくる。出てくるのは、ダイヤのカードが5枚。これを一度テーブルのわきに置く。

 あとそれとは別で、こちらに配られるカードが『やつが握りこんだカードに勝てない役』になるようになんらかの仕込みがされていたと思う。だがそのことについては、何が来たところで後に書き換わる事になるからいいかと思い、説明をスルーする。


「なるほどな。だからあたしがおまえに「あいつはもう32勝してる。」って言った時に笑ったんだな。もうあいつはそんなに強い手を作れないって思って。」

「そ。だからこっちは『出来たら不自然じゃないけどそこそこ強い役』を作れば確実に勝てると思ったんだ。そこで僕はフォーカードを作る事にしたんだ。作り方は簡単。こっちも、最初にカードを表向きで並べたよね? この時に事前に自分の欲しいカード5枚の位置を把握しておくんだ。それで、自分が欲しいカード全部を1度目のシャッフルが終わった時点でカードの束の一番上に持ってくるんだ。ばれないようにね。で、2回目のシャッフルは、シャッフルしてるように見せかけて、実際はトランプの束の上から5枚が動かないようにシャッフルする。これは仕込んでいることをごまかしてイカサマをしていないアピールをするためのシャッフルだね。そして、カードをギラヴィに返す時に自分が仕込んだ5枚をひそかに右手に隠し持つんだ。まあ、今回はフォーカードを作るつもりだったから4枚しか仕込まなかったけどね。

 実演すると、こんな感じかな。」

 

 説明しながら、8のカード4枚を探し出し、わきにどかす。そのあとカードの束を裏返し、4枚をそれぞれデッキの適当な個所に裏向きで突っ込んでいき、シャッフルする。一度手を止めて上から4枚をオルガさんに見せる。出てきたのはさっきと同じく8が4枚。その後、適当にシャッフルするふり(フォルスシャッフルと言うそうだ)をしたあと、再びカードの上から4枚をめくる。またも正確に出てきた4枚の8を見てオルガさんははぁーと溜息をつく。


「おまえすげえな。」


 ほめられてしまった。


「おそれいります。」


 とりあえずそう返しておく。


「じゃあ、どっちもカード交換に意味は全くなかったんだな。」

「うん。お互いになにが来ても事前に持ってたカードと入れ替えるだけだからね。ただ、いきなり強い役が手札にそろってたら怪しいから、向こうも手札交換を演出として入れたんだろうね。」


 なるほどなるほど・・・。とうなずくオルガさん。


「だがまだふたつ分かんねえことがある。おまえがカードを書き換えた方法と書き換えをやったタイミングだ。なんで最後の最後に書き換えを実行したんだ? おまえなら、いつでもカードをすり替えられただろう?」


 ああ、そこか。


「カードの書き換えを最後にやったのは、カード交換が終わった後の僕の手札をオルガさんが見てたことに気づいたからなんだ。オルガさんが見ていないところでカードをすり替えたってオルガさんはちょっとしか驚かないでしょ? せいぜい『こいついつのまに・・・』くらいしか驚かなかったと思うんだ。でも・・・。」


 ここで一度言葉を切る。


「いざ手札を公開しようというタイミングになったら絶対にオルガさんはもう一度僕の手札を見る。当然だよね。勝負が始まる前にあれだけ自信満々に勝つって宣言したのにまだ手札は弱いままなんだから。で、オルガさんが僕の弱いままの手札を見ているまさに目の前で魔法のようにカードを書き換えてやれば

その驚きはより大きいものになる。奇跡が起こったんじゃないかって思えるほどにね。だから最後の最後にすりかえる必要があったんだ。」


 きっとオルガさんもさぞびっくりしたことだろう。そうじゃなきゃやった甲斐がないというものだ。


「いや、まあたしかにお前の言う通りすごくびっくりしたけどよ。その最後にやったすり替えはどうやったんだ? マイクマンのやつが魔法検知機に反応がねえって言ってたから魔法じゃねえんだろ?」


 こくりとうなずく僕。


「最後にやったすり替えはサンダーチェンジって呼ばれてる技なんだ。こうやって手に持ってるカードを親指ではじくと、カードが書き換わるんだ。」


 実際に適当にトランプの山からカードを5枚とり、左端から順にカードをはじき、先ほどオルガさんに見せた4枚の8にカード4枚をかえていく。


「で、それはわかったけどそのやり方が知りてえんだよ。どうやるんだ?」


 目をすごくキラキラさせてオルガさんが問いかけてくる。でも・・・。


「・・・こればっかりは教えられないんだ。」

「なんでだよ!?ここでお預けはあんまりだろ!?」


 テーブルをバンバンやって駄々っ子のように喚き散らすオルガさん。彼女には悪いなと思うけど、でも・・・。


「これは、僕にこの技を教えてくれた人との約束なんだ。絶対にタネを教えるなって。」

「・・・・・・どうしても教えられないのか?」


 しずかに僕はうなずく。僕の顔を見て何かを察したのか彼女ははーと息をつき、


「わかった。そこまでいうならしょうがねえ。あたしもこれ以上言わねえよ。なにか事情があるんだろ。」


 と言ってくれた。ありがとう。と僕は返す。


「じゃあ、これでこの話は終わりな。さあ、飯にしようぜ!」


 そう彼女が言うと同時に食事が運ばれてくる。どうやら足音で従業員が近付いてきていると判断したようだ。

 僕は、彼女の配慮に感謝しつつ食事を開始することにした。




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