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第3章 第53話 決着

この人たちはいったい何日トランプ勝負をしているんだ

 右手を伸ばした先は、机の隅に置かれたカードの束だった。デッキと呼ばれるものである。プレイヤーにカードが配られた時点で僕の役割は終わった、などとコイツは思っていそうだが、何のことはない。僕やフリナックさんが手札交換を要求するだけで、僕たちはコイツに残業を強いることができるのだ。


この冒頭のやりとりから察せられるように、僕はあの手札を破棄することを選択した。【交換を挟むことで手札が平均値から強くなる確率】と【交換を挟むことで手札が平均値から弱くなる確率】は本来まったくの同一だ。

だが、【あの手札から少し弱い(手札4枚の数字の合計が3下がる)程度の手札が来る】ことくらいは問題ない、と考えれば話は別。【交換実施後の手札】という事象全体で見れば、本来マイナス扱いになっていた部分がプラスマイナス0という評価値になるため、手札交換をした方が良い。という結論に達したというわけだ。

そうして引き込んだ僕の手札は、ハートのA、クローバーの3、ハートの10、クローバーのQだった。

理想的配牌。交換を実行して正解だった。これなら、取りに行ける。


この間フリナックさんはというと、手元のカードではなく僕の方をじっと見ていたようだった。僕が初期手札の段階で長考を開始した時点で、向こうはすでにその手札で勝負に行くかを決められる手札だった、ということか。ここは、かなり強いセットが来ていたと考えるべきだろう。

そうなると、ますますカード交換をしたのは正解だったというわけだ。最初の中途半端盛り合わせな手札では、いいところ1勝2敗の展開までしか持っていけなかっただろう。


「僕はカード交換をしましたが、フリナックさんは大丈夫ですか?」


 ここまで交換をしてこないならする気はないのだろうが、念のため確認。


「ああ、問題ないよ。」


 ですよね。


「では、運命の最終ラウンド、開始ですね。」


 ここを読みきった者が、このゲームの勝者だ。





 最初に動いたのは、フリナックさんだった。


「私はこのカードを伏せるよ。」


 伏せられた手札は1枚。強弱はともかく、ここはほぼそれしかないだろう。


「・・・・・・。」


 カードを伏せたあとは、高みの見物とばかりにニヤニヤこちらを見つめる。見切れるものなら見切って見せろ、と言う無言の挑戦というわけだ。

 そういうことなら、ここの読みは外したくない。


 10,Qあたりを切れば、ここはおそらく勝てる。だが、それをした先に未来があるかというと、怪しいところだろう。ここで10を突っ込んだら1,3,Qでもう一勝する必要がある。1で勝つのは現実的ではないため、3+Qで勝つ必要が出てくるが・・・これは少し厳しい。


 となると、1,3あたりを切ることになるが・・・これもありきたりの手で、読まれている感が否めない。それだけで、出したくなくなる一手だ。


 だが、【出したらまずい】と【出したくない】のどちらを出すかと聞かれれば、無論・・・。


「ここはこれでしょう。」


 迎え撃つようにカードをセット。装備カードの使用はお互いになしのため、このまま勝負に入る。


「僕のカードは、ハートのA・・・!」


 ここでJokerが来てくれればラクだが、さすがにそんな奇跡はない、か・・・?


「ほう、これは面白いね。私のカードは、これだ。」


そういってフリナックさんが見せつけたカードは・・・


「スペードのA。」

「スペードのA!?」


第三ラウンド第一セットは、まさかのAによる引き分けという結果となった。


「・・・そうきましたか。」


 ここはとりあえずそう言っておく。


「お互い、考えることは同じというわけだね。

初手はこちらが先に動いてしまったし、今度は君に先手を譲るよ。さあ、ここはどう仕掛けるかな?」


 この展開も、あちらさんとしてはあくまで想定内ということか。


「そうですね・・・。」


 しばし、黙考。初戦を引き分けたため、ここを負ける前提の3出しで受け、返しの第三セットで10+12で戦って勝つと仮定すれば、全体の勝負としては1勝1負1分けのドロー。勝利でこそないが、敗北でもないので悪くない結果と言えるかもしれない。

 

 しかし、この勝負。勝てる可能性があるのならば勝っておきたい。ヌホクリーデお嬢様の本性を(おそらく)一目で見抜いた観察力と大貴族の一角を勤め上げる頭脳の持ち主が相手だが、僕の読みがそれに匹敵するかどうか・・・見極めることこそが、今回の勝負の狙い。フリナックさんが、僕に計りきれる人物かどうか、ここで見極める。


 であればこの勝負は、やはり勝たなければならないだろう。そのためには、安易に3出しなどしている場合ではない。ここは・・・。


「僕のカードは、これです。」


 僕が選んだのは、クローバーのQ一枚出し。さあ、どう出る・・・?


「【引き分けも出来るがそれではダメだ。】

 今君はそう考えているんじゃないかな?」


 カードではなく口を先に出してきたフリナックさん。

 これは、探りに来た、というやつか?


「いえ、【引き分けで終われるならそれでもいい】と考えていますよ?」


普段だったら。


「はは、そうかそうか。

 ・・・なら、ここはこれでよさそうだね。」


 こちらの返事を聞いた直後にカードをセットしてくるフリナックさん。

その一枚が放つプレッシャーは凄まじかった。


 あの一連の会話だけでこちらのカードの強さに目星がついたのか・・・?

その自信、確かめてやるぜ。


「これでも、僕に勝てそうですか?」


 手札から3を装備カードとして追加セット。これならどうだろうか?

 挑発するように追加されたそのカードを見ても、フリナックさんは笑みを絶やさない。そして、場に新たなカードをセットすることもなかった。


「装備カードを使うようだね。僕はこのまま勝負に出てもいいけど、本当に君はそれでいいのかな?」


 動じていない・・・だと? あのカード、まさかJokerか? こちらの2枚をJoker一枚で突破されたら絶望しかない。あるいはこのセットを捨てるつもりでいるため、ここでカードを消費してくれれば万々歳、といったところか・・・。


 どちらにせよ、そういうことならここでカードを浪費するわけにはいかない。


「そうですね・・・。いえ、やはりここはカードを戻しましょう。」


 なんでもなかったかのように、装備カードを手札に戻す。

これで、僕はもう装備カードを戻すことは出来なくなった形になる。


 このまま、お互いカード1枚ずつで勝負になるかと思われたが・・・ここでもフリナックさんは仕掛けてきた。


「そういうことなら、私はこのカードを追加することにしよう。」

「・・・!」


2枚がかり! 今僕が出しているQは強いカードではある・・・が、2枚を相手にしても勝てるかと問われると、厳しい印象だ。装備カードの追加をこちらもするべきかもしれないが・・・向こうはこちらがカードを追加したのを見た後で、装備カードを手札に戻せる。そう考えると、こちらはうかつに装備カードを付けなおすことは出来ない。こちらが装備カードを付けなおした後で、向こうは使用した装備カードを回収。第二セットを捨てた後で、回収した装備カードを第三セットで使用して勝負に出れば、1枚 VS 2枚の勝負を強いられ、結果的には引き分けENDに持ち込まれる。それではいけないのだ。

最初、こちらの装備カード使用揺さぶりに動じなかったことを考えると、こちらが今場に残しているカードが「強いカード」であることは察しているとみるべきだろう。それをギリギリで超えるくらいの数値を向こうは今の2枚で用意していると見るのが自然だ。

この状況から勝利をもぎ取るには・・・あれしかない。


「・・・本当にいいんですか?」


 少しの焦りを含んだ、この反応。勝つためには、ここをそれで乗り切る必要がある。

 この、【1枚 VS 2枚】の状況こそを望んでいたと思わせるのが重要。多少わざとらしくてもかまわない。むしろそれが、いい。


 Joker1枚であちらの2枚を突破しようとしている可能性を、向こうは考慮せざるを得なくなるからだ。


「・・・ふふ、そうか。『このまま勝負に出てもいい。』か。」


 こころなしかうれしそうに笑うフリナックさん。


「・・・。」


 何の笑いなんだそれは。


「なら、ここは私も一枚勝負をするしかないね。」


 フリナックさん側から装備カードが外される。またしても、1枚vs 1枚の構図となった。


「では、勝負と行きましょう。」


 言って、僕はカードをめくる。クローバーのQ。一方フリナックさんが出していたのは・・・。


「さすがに君も私と同じように、ここでJokerは来ていなかったようだね。」


 スペードのQだった。


「・・・まさかここまで同じカードが来ていたなんて、意外ですね。」


 なにせ不正をしていないのだから、驚きもひとしおだ。


「それはその通りだね。

しかし、驚いてばかりもいられない。長かった私たちの勝負に、いよいよ決着をつけようか。」

「・・・そうですね。」

「では、君のカードを見せてくれ。私のカードはこれだ。」


 こちらのカードが3+10の2枚に対し、フリナックさんが見せてきたカードは・・・ダイヤの5とハートの7だった。


各勝負の時の手札ですが、実際にトランプを適当に引いて決めていました。

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