第1章 第1話 卒業できるんですかあなたは?
「足立君、それで君は結局その研究を通して何がいいたいの?」
開口一番、僕の所属している研究室を受け持っている、もう一人の教授である森教授の口から放たれたのはそんな辛辣な一言だった。
「それは・・・・・・。」
言葉に詰まる僕。そんなこと、こっちが聞きたいくらいだ。所詮僕は僕の担当の教授である三田教授から言われたテーマで適当に卒業研究を頑張っているだけなんだから、今やっている研究の意義なんてわかるわけがない。この他にも森教授をはじめ、院生の先輩たちからいろいろと質問をされたが、情けないことに僕はそのすべてに答えることができなかった。
「・・・はい。じゃあほかに何か質問がある人?」
僕が質問に答えられずにいると、この状況を見かねたのか大学院生の先輩(チャンさんと呼ばれている人だ)が場を進める。しかし、その場にいる誰もが僕には質問にまともに答えることができないと判断したのか、それ以降質問は飛んでこなかった。そこですかさず、チャンさんが場を締めに入った。
「はい、じゃあ今日の発表練習は終わりです。」
その言葉を皮切りに、その場にいた同じ研究室生の全員が席を立っていく。
僕は、絶望に打ちひしがれたまましばらくの間うつむいていることしかできなかった。
☆
さて、今は気分が沈んでいるところなのであまりそういう気分ではないのだが、ここらで軽く自己紹介をしないと状況がよく伝わらないと思うので自己紹介をしよう。
僕の名前は足立 昭二。出牛唆大学4回生で、自転車をたくみに操り日々大学に通っている、どこにでもいそうな大学生だ。現在の状況は12月もすでに終わってしまい1月も残すところわずか、といったところ。そう、卒業論文の締切が間近に迫っているのだ。にもかかわらず、卒業研究はまともに進んでいないため、最近は日々奇声を発しながら過ごすようになってしまった。近頃は趣味であるカードマジックの練習をしつづけることでかろうじてSAN値を一定に保っている生活を送っているがそれもどこまで持つことか・・・。
そんな日々を送ってきた自分だが、今日の発表練習での過激な質問によってとうとうSAN値が一ケタになるまで減ってしまった。それゆえ今日は発表練習後も研究室に残り、手作りボールを使って研究室内で重さん(同じ研究室生だ)とキャッチボールをえんえんとしつづけ、ころ合いを見て重さんと帰ることにした。
「はあ~、つらい・・・・。」
僕は思わずつぶやいた。ほんと、なにもかもをほっぽりだしてどっか遠くに消えてしまいたくなる。
「あ、じゃあ俺は電車で帰るから。お疲れ。」
一緒に帰り道を歩いていた重さんが駅の前で別れを告げる。すかさず僕も
「お疲れさんです!」
とカラ元気を絞りだして返事をする。人間、挨拶が大事だ。
うーい。と返事をしてこちらを振り向かぬまま手をひらひらさせつつ改札をくぐる重さん。地味に絵になっているのは彼のセンスの高さのなせる業か。
僕はキャッチボールによる心地よい疲労と質問攻めによる精神的ダメージのせいか、どうにも自転車で帰る気が起こらなかったため、タクシーを呼んで帰ることにした。
2017,6,1 セリフの前と後に空行を入れるようにしました。