魔法に魅入られた少女1
久しぶりの投稿です。
「……」
「……」
学校の帰り道だった。阿部と途中で別れ、近隣公園で飲み物でも飲もうと考えていた。もう時間は日も暮れた午後八時。公園には誰もいないと考えていた。
しかし実際に公園に着くと、中心には金髪のメイド服少女が立っていた。
お互い目と目を合わせた長い沈黙が続く。風が吹き付け、公園に生えている桜の木々から桃色の花弁が舞っていく。
その花弁が彼女の後方で鮮やかに舞い、月夜の光が花弁の隙間から微々たる光をもたらし、神秘的で非現実的な世界観を僕の視界にもたらす。何故こんなにも鮮やかなな世界観に引き込まれるのだろうか。
それは……彼女の服装がなぜかメイド服で、しかもその女の子がとても甘美な顔立ちでメイド服がとても映えているからだろう。
…後ろで結ばれてもなお肩下まで伸びる艶やかな金髪、「お人形さんみたーい!」と心の底から言えるような整った顔立ち。155cmも無いくらいの背丈。外国人…というよりはハーフだろうか?
依然お互いは目を合わせたままだ。
無意識に知らない人と目が合った時の行動は二種類あると思う。とっさに目をそらすか、軽く会釈などの相手への合図を示すか。
僕は前者だ。人見知りなのかどうか分からないが、無意識に目が合ったとしても、それが恥ずかしいものだと自分自身感じてしまうからだ。
しかし今回はニつのどちらにも当てはまらない。目を合わせたままなのだ。まあチラチラと四肢を見たりもしているが。
それは多分相手があまりにも奇抜で目が惹かれるいるからだろう。
だから現にこうやって目を合わせたままで──あれ、目が険しくなってる。流石に不躾で差し出がましかったか。
「えっと……あのー……コスプレか何かですか?」
沈黙の視線の交錯に耐えかねた質問。もっと他にいい質問があっただろ……、と自分を蔑む。こうゆう事に慣れていない為としておこう。
彼女の目は険しいままだ。そのまままた長い沈黙が来るのかと思い、彼女を無視して帰ろうと考えた矢先だった。
「……君の性別を教えてくれない?」
質問の返答は質問だった。
自分が中性的な顔立ちであり、やや不健康そうな体であるのは主観的に見てもわかっていた。だが性別を聞かれるなんてことは初めてだ。僕の声も彼女は聞いたはずなんだけどな…。男である自信が欠けそうだ……。
「そっかあ、男かあ~」
今僕達は公園のベンチに座っているのだが、ベンチの半分しか使わず彼女は僕に寄って来て、僕を感慨深く見つめている。
「何か、質問したそうな顔だね? いいよ、質問。どんどん聞いて?」
僕の異様な視線に流石に気がついたのか彼女は僕に質問をするように諭す。彼女の表情は笑顔だった。
「……ここで何をやってたの?」
一番の疑問だった。同時に全ての疑問を含む質問でもあった。メイド服で夜に公園にいる理由など僕には皆目検討もつかない。
「人探しだよ」
「人探し? こんな時間にそんな格好で?」
この回答はまだ逸脱した回答では無かったのかもしれない。
「うん。そうだよ」
彼女はにこりと微かに微笑んで言葉を続ける。
「まずこの格好の理由。この格好でこの髪の色。人目に入ったら嫌でも目に付くでしょ? あとは君の質問は、人探しをする時間帯について、かな? あのね、私は別に夜に人探しをしている訳じゃないんだ。考え方が違うんだよ。私は夜に人探しをしているんじゃなくて、ずっと人探しをしていたの。そう。ずっと、ね。」
確かにその格好なら誰だって目に止める。ずっと探していたのなら、この時間帯まで人探しを継続しているのも頷ける。
だけど、それとは別に、僕の頭の中に一片の違和感が生まれた。
目に付くようにしている。それはつまり、人を探しているのではなくて、人に見つけてもらおうとしているのではないだろうか。そしてそれは、ある一つの可能性を僕の脳裏に過ぎらせる。
「私はね、私を見つけてくれる人を探しているの。でも、もうそれは達成されたんだ」
「それって……君は幽霊ってことか?」
人に見つけてもらう。ずっと探している。それらを聞けば自ずとわかってしまう。そして、僕がその待ち人だと……。
だが正解は少し違った。
「私は幽霊じゃないよ。ちゃんと生きてるし、ご飯も食べる。今もお腹空いてるもの」
彼女はいつの間にか真剣な顔になっていた。
「私は魔女。人に認識されない、魔女なの」
「運命の人。私をたすけて──」
彼女は魔法をかける魔女じゃない。魔法をかけられた少女だった。
必死な表情の彼女の右手には、分厚い本があった──。
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