慈悲
2話目です。
「──これでホームルームを終わるー。号令ー」
「……起立。……礼」
機械的に行われる事務連絡と、それを締めくくる無機質な号令でホームルームが終わる。それと同時に放課後がやってきて、個人はそれぞれ帰路につきはじめる。
「海人、俺らも帰ろーぜ」
安倍がいつものように帰りを急かしてくる。
「……帰るか」
僕は席を立って荷物を持ち、安倍の方を見向きもせずそのまま教室を出ていく。
「おいまて、まだ俺の荷物の準備が終わってない! 先に行くな!」
「わかったよ。待っとけばいいんだろ」
「すまん、なるたけ早く済ませるから」
阿部の支度を待つ間、周りを見渡してみる。
もう教室に残っている人数は少数となり、辺りは静寂に包まれてきている。
放課後の教室は何かと寂しさを感じる気がする。
授業中にはピリッとした空気。静かだが、人のいると実感できる空間だ。休憩の時間帯は和やかな空気。賑やかで、人の活発さを実感できる空間だ。
だが、放課後は違う。人がその空間にいないのだ。人がいない空間。それは人の息遣いが聞こえない、無機質なものだ。冷たく感じる。だから寂しさを感じる気がするのかもしれない。
今も同じような気分でいる。今日が終わったと証明してくれているような、そんな寂しさだ。
「……なあ、高校と中学の放課後では、何か違うところってあるか?」
「そうだなあ。まず放課後が来るのが遅くなっただろ? あとは…、まあ色々あったりなかったり。海人はどうなんだ?」
「僕も同じようなもんかな。それにしてもお前、早く帰ることしか頭にないのかよ」
「否定はできん。それでも海人には言われたくねえよ、海人自身も同じような考え方なんだろ?」
両者苦笑い。
阿部の支度が終わったようで、鞄を肩にかける。教室を出て、他愛ない会話を続けながら帰路についていく。
(気にならなかった、か。)
中学では、その学校近辺の家々に住んでいる子供が通うため、人との交流の輪というものは作れりやすい。交流の輪を作れなくても、身近にいる同世代の人間がいることで、一人になることは少ない。
だが高校は違う。いくら地元校だからと言って、遠い地方から来る人達もいる。しかも受験と言う形で、出身校がよりバラけることになる。そうすると、交流の輪は作りにくくなる。身近にいる同世代の人が全員他の学校にバラけている場合、実質その人は一人になってしまうのではないだろうか。
僕達が教室を出る時、教室にはまだ人がいた。鹿島麗奈だ。HRを終えて放課後になっているのに、一人で本を読んでいた。
阿部はそれを気にしなかった。わざとではなく、本能的な意味で。
彼女は、多分今一人なのだろう。読書という趣味にのめり込むことで、その焦燥感を取り払おうとしている。その行動がより彼女を空気のような存在にしているとしたら。
それは僕にとって儚く見える。消えてしまいそうで、守りたくなるような存在に。
だからなのだろうか。僕は彼女を可哀想だと思った。彼女の居場所を確立させてあげたいと思った。詳しい理由は僕にはわからない。
それでも一つ、わかることがある。
これはただの慈悲であり、自己満足なのだ。
短くてすみません。
3話が長くなりそうなので、2話目は短く切らせてもらいました。
@yukkiri33
更新情報などはここに記載してます