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フーノ村

よろしくお願いします。

 フランとシュラを加えた六人の旅は比較的順調だ。まず、私かねねが御者をして(シャルに教えてもらった)、シャルとシュラが護衛の形を取る。これだけで大分盗賊に襲われる頻度が減った。

 それでも襲ってくる盗賊はいたが、当然返り討ちにしながら進み、漸くロストマイン領に入った。


「やっとロストマイン領なのです!村までもう少しなのです!」

「三ヶ月ぶりぐらいか?」

「そうなのです!」


 フランとシュラが楽しそうに話している。仲良いなぁ。さすが幼馴染。

 うん?何か来る。


「魔物だ」


 シャルが短く警告を放つ。


「ねね」

「んっ、視認した。『氷槍(アイススピア)』」


 ひゅん!グサッ!


 終了。めんどくさいから素材は剥ぎ取りに行かない。因みに、Cランク魔物の黒狼(ブラックウルフ)だったらしい。


「ねね、また魔法の精度上がってない?」

「旅に出てから魔法使う頻度が増えたから」


 やはり慣れは重要だな。私百メートル離れたらねねに勝てないんじゃないかな。


「相変わらず非常識な魔法だな。まだ五十メートル以上距離あったぞ」

「シュラは気を抜き過ぎだ。護衛を兼ねてることを忘れるな」

「あっ、すいません。シャルさん」


 随分素直になったな。毎晩シャルにしごかれてるからかな?鍛えたらシャルに匹敵するらしく、近衛騎士団に欲しいって言ってた。


「村での生活ってどんなだったの?」

「ランドルスが近くにあるから成り立ってるような村だよ。魔物の素材や農作物をランドルスに売って生活が成り立ってる」

「シュラ君はすごいなのです。十才で魔物を狩ったり、魔法が使えたりなのです」

「フランはシュラに教えてもらったんだよね」

「そうなのです!でも言っていることが難しくて……。たしか、火の魔法はさんそ?を使う。とかなのです。私は頭が悪いのでシュラ君の言っていることが解らなかったなのです」

「完全に理解しなくても、魔法は使えたからいいじゃないか」


 シュラが苦笑している。ちょっと待て、それって……。リューナとシャルも理解していないが、当然私とねねは解る。


 この世界の魔法は、物理法則より上位の存在だが、物理法則を完全に無視するものでもない。

 例えば、火炎球(ファイアボール)は火種も何もないのに、いきなり火の玉が現れる。これは(私とねねの個人的見解)魔力の炎だ。なので、酸素が無くても燃える。だが、焚き火をするには、魔力の炎で木材に火を移し、酸素を送り込む。所謂酸化反応だ。魔力が無くて、木材が燃え尽きたら火は消える。つまり、魔力の炎に酸素を送り込むと、より高い火力が得られる。

 魔力というフィルターがあるから解りずらいだけで、物理現象は反映されていた。

 物理法則を理解している方が魔法の上達は早くなる。理解していれば。だ。

 王都には物理のぶの字も無かった。それなのに、辺境の村人がそれを知っている理由は明々白々だ。

 シュラは元私達の世界の住人。もしくは、そのような人が近くに居た。

 これは……。後でリューナと相談だな。


「何ワケわかんないこと言ってるのよ。ねぇ、ねね」


 ねねは小考して答える。


「そう。魔法は生まれ持った魔力量が物を言う」


 ねねも分かってくれたか。


「はいはい、分かってますよ」


 シュラは言われ慣れてるのか、手をヒラヒラさせて答えた。

 というか、私達見て日本人って気付かないの?いや、シュラが元日本人じゃない可能性もあるのか。いや、でも……。あぁ、ローエン王国に黒髪黒目がいるんだった。

 わからん!!まぁいい。私達が召喚されたことはどうせ秘密なんだ。シカトだ、シカト。

 いきなり考え出した私を、ねね以外がどうしたのかと見てくる。


「イチどうしました?」

「いや、何でもないよ。それより、そろそろ野営の準備をしないと」

「そうですね。では次適当な場所があればそこで野営をしましょう」


 それからシュラの言動に意識がいくようになったのは、仕方の無いことだろう。


 あの会話から七日後、フーノ村がもうすぐという所で事件が起きた。


「市、シュラを見すぎ」

「えっ、そう?でも気になるじゃない」


 一応リューナにも相談して、放置という方針になっていたのだが、気になるものは気になる。

 小声で話している私とねねに、フランが訝しげな目を向ける。


「イチさん……。もしかして、シュラ君のこと好きになったなのです?」


 フランが物凄い爆弾を落としてきた。

 え~?!ちょ止めてよ!


「ちょっとほんと勘弁して!そんなんじゃないから!」

「でも……。ここ最近ずっとシュラ君を見ている気がするなのです」

「いや、その何て言えばいいか……」

「ダメなのです~!シュラ君はフランの……。フランの……」

「ちょ!わかってるってば!声でかい!」

「寝とるとは、市も中々やる」


 うっさいねね!何でこんな異世界で昼ドラみたいなことしないといけないのよ!


「幼馴染の絆を引きちぎる悪女……」

「ちょっとほんと黙って」


 フランが泣きそうになってるじゃない!


「俺がどうかしたのか?」


 ほら~!シュラにまで聞こえてるじゃないの!


「うっさい!何もないからあっち行け!」

「ハイハイ」


 肩を竦めるシュラ。やれやれ系主人公か?!いや、そうじゃなくて!私まで変な考えになってるじゃない!落ち着け私。


「大丈夫よフラン。私が、というより私達はシュラを好きにはならないから!」

「絶対なのです?」

「絶対!」


 漸く納得したフラン。あ~疲れた。

 シャルと模擬戦する方が余程楽だ。


「おっ、見えてきたな」


 あれがフーノ村か。長閑な感じだなぁ。

 畑が目に入り、農夫がこちらに気付いた。


「ありゃ、シュラとフランじゃないか」

「ただいま」「ただいまなのです!」

「王都に行くって飛び出してもう帰ってきたのかい?やっぱり王都は厳しかったかい?」

「厳しいなんて物じゃなかったな」

「あのシュラが素直に認めるとは……。余程厳しかったんだねぇ。もう王都には行かないのかい?」

「う~ん。まだわかんねぇ。フラン次第だな」

「どういうことだい?」

「まっ、色々あったのさ」


 意外と普通だな……。フランの言う通り王都では焦ってたのか。あぁ!あの時に主人公とか、イベントとか言ってたな!その時に気付けよ!私!

 ってことは異世界転生した感じなんだな。そりゃ主人公と勘違いするよね。で、私がそのフラグをボッキリと折ったと。


「じゃまた後で」

「早くお母さんに顔を見せてやれよ」


 農夫に会釈して私達は村の中を進む。

 すれ違う村民が皆シュラとフランに声を掛けてくる。

 暖かい村だな。でも、そんなシュラとフランの顔色が優れない。どうした?


「顔色悪いけど大丈夫?」

「ああ、別に体調が悪いとかじゃないんだ。ちょっと母さんに会うと思うとね」

「厳しい人なの?」

「厳しいとはちょっと違うかな」


 渇いた笑いを見せるシュラ。


「俺は両親が大分年を取った後に出来た一人息子でな。その、なんて言うか……」

「子離れが出来ていないと?」

「端的に言うとな。着いたぞ」


 そう言ったシュラの前には一際立派な家屋があった。

 あれ?もしかして、シュラって村長の一人息子なの?


「ただいま~!」


 ドアを開けシュラが入り、私達も後に続いた。

 暫くして、物凄い恰幅で、物凄いキラキラしたおばさんがやって来た。

 何か眩しいんだけど……。

 その人は、明らかにこの町には合ってなかった。至るところに着けた宝石やネックレス。村の村長婦人には不相応な服。それが見事に似合ってない。

 そんなおばさんが、


「シュラちゃん!」


 いきなりシュラに抱き着いた。

 おう!過激だな!


「ちょ、止めろ!母さん!」

「やっと帰って来てくれたのね!やっぱりシュラちゃんは私の側が一番なのよ!」

「皆見てるから止めろって!」


 そこで漸く私達の存在に気付いたのか、こちらを一瞥する。その目線がフランを捉えた瞬間に、両の眼が物凄い勢いで吊り上がった。

 あっ、これやばい。


「この泥棒猫!シュラちゃんを誑かした挙げ句に私から引き離して!よくおめおめとこの家の敷居が跨げたものね!」


 うぉ~。泥棒猫って初めて言葉で聞いた。


「それで!何しに来たの!」

「ちょっと落ち着けって母さん!俺の話を聞けって!」


 シュラの言葉に漸く落ち着いたのか、私達を客間に通してくれた。


「それで、あなた方はシュラちゃんとどのような関係なのですか?」

「私達は王都で冒険者をしている者です。王都でシュラさんと知り合いました」

「……?何故この村まで来たの?」

「それは俺が説明するよ」


 シュラは王都であったことを包み隠さず話した。王都で調子に乗ってしまったこと。私に決闘を申し込んで負けたこと。フランの奴隷になったこと。私達に旅費を出してもらったからお礼をしたい。など。

 分かっていたが……。おばさんの目がヤバイよ~。この部屋に居たくないよ~。ヤバイヨヤバイヨ。


「シュラちゃんがこの女の奴隷……?」

「それはいいんだ。俺自身納得しているし。だから……」


 ダメだ。おばさん聞いてない。


「ふざけないで……。ふざ¥%#&!」


 おばさん落ち着け!後半何言ってんのかわかんない!ひぃ~!

 呆気に取られる私達。フランに襲い掛かるおばさん。止めるシュラ。

 もうめちゃくちゃだ。これはキツイ。


「今すぐシュラちゃんを解放なさい!」

「だから王都で奴隷になったって言ったろ?!今すぐなんて無理だし、解放してもらう気もない!今日は村の外に野営する。明日また来るから、ちょっと頭を冷やしてくれ」

「シュラちゃん!」


 よかった。この家から出れる。

 外に出た私達はその足で村の外まで行き、野営の準備を終えた所であのおばさんの話になった。


「予想はしてたが予想以上だった」

「シュラ君……」


 しょんぼりしているフラン。


「フランは関係ないさ。多分どんな女でも同じ反応するだろ」

「しっかし、強烈なおばさんだね」

「貴族でもあそこまで溺愛するのは珍しいです」

「シュラが何故王都に来たか分かったな」

「あれは強烈」


 口々に批評する私達。


「よく王都に行くこと許したわね」

「嫌々だったがな。俺が許してくれないと縁を切る。って脅したんだよ」


 成る程。縁を切られるぐらいなら……か。でもおばさんの中ではそれもフランのせいと。


「でも村の人達はいい人達なんだ」

「見た感じ散財してそうだけど、村の人達は何も言わないの?」

「別に横領してる訳じゃないぞ。母さんはああ見えてほんとにやり手で、ランドルスとのやり取りを一手に引き受けてる。母さんが担当するようになってから、村の農作物が飛ぶように売れ出したらしいし」

「えっ、あれでやり手なの?」


 おっと失礼なことを思わず言ってしまった。でも、シュラは気にもしていないようで答えた。


「あぁ、散財とあれが無ければランドルスでの要職の話もあったらしい。元々ランドルスに住んでいたのに、父さんに惚れ込んでこの村に来たって話だ」

「そういえばお父さんは見なかったね」

「ほぼ村長業務を母さんに任せて、のんびり畑を耕してるんだよ。畑に居たんじゃないかな」


 もう引退って感じか。それなら役に立たないかな。それより、


「で、どうするの?王都に戻って奴隷解放された方がまだマシなんじゃない?」


 もう私は、シュラが奴隷だろうが何だろうが正直どうでもいい。フランとシュラが決めることだ。


「俺は当分フランの奴隷をするつもりだ。この村の村長をする気はないし、なりたいとも思わない」

「説得する必要あるの?」


 正直無視して、王都なり違う場所で暮らした方が余程楽な気がする。


「一応ここまで育ててもらったしな。道義は通したい。もちろん、フランの意見次第だが」


 そこで皆の視線がフランに向く。


「私は……。この村が好きなのです。いつでも帰れる場所であってほしいなのです!」

「フランの家族はどうしてるの?」

「兄弟はいなくて、親は私が小さい時に死んでしまったなのです……。シュラ君と村の皆のお陰で生きてこれたなのです」

「あっ、ごめん」


 そっか。村人皆が親代わりだったのかな。

 それは愛着あるよね。


「じゃ、やっぱり説得かぁ。きつそう~。頑張れい!」

「頑張ってみるさ」


 でも……。


「お母さんは奴隷の解放手順は知ってるの?」

「知ってると思うぞ。ランドルスにも奴隷はいるしな」


 じゃ、一応最悪のケースを想定した方がいいかな?

 リューナとシャルとねねにそれとなく伝えてから、明日に備えて休んだ。

お読みいただきありがとうございます。

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