指名依頼
よろしくお願いします。
組合には通常業務を行う一階と、職員の休憩室及び事務を行う二階に別れている。
組合長の部屋はその二階の一番奥にある。これは、盗聴・盗撮を警戒しているらしい。
通常、冒険者が組合長の部屋に呼ばれることはない。なのにここに呼び出されるってことは、表に出せない依頼なのだろう。
何故そんな依頼を私達に?Bランク以上が居るこの王都で、敢えて私達『魔女の尻尾』に依頼を持ってくる理由とは何だ?勇者召喚が関係している?
──何か裏がありそうだ。
……って思ってた時期が私にもありました。
「よく来てくれた。まずは座ってくれたまえ」
「指名依頼だそうですが、どなたからなのですか?」
「うむ。依頼内容は私も知らない」
訝しがる私達に慌てるなと目で訴え、一枚の羊皮紙を出す。
「これなのだが……」
「もしかしてお父様からの依頼ですか?!」
その羊皮紙に施されていた蝋封は正に王家の紋章だった。
なんだそりゃ!
「うむ。王家からの依頼など初めてでな」
そりゃそうだ。
「まっ、まぁリューナ、取り敢えず読んでみたら?」
「えっ、ええ。何か嫌な予感がしますが」
私の言葉に羊皮紙に書かれてる内容を読むリューナ。覗きこむ私。えっ?だって気になるじゃん。
☆★☆
やっほ~。リューナちゃん元気してる?
お父様は元気だよ~。
リューナちゃんが冒険者になって会えなくなったから寂しいなぁ。
たまには城に帰ってきて帰ってほしいなぁ!
最近レーナも儂に冷たくなってきてお父様ちょう寂しい。
でも、この前儂に晩御飯作ってくれたんだよ!めっちゃ嬉しかった!
ちょう名残惜しいけど要件を書くねぇ。
最近イスルス山脈に繋がる街道が騒がしいようなんだよ。
だからリューナにはロストマイン領に行ってガグル=フォン=ロストマイン伯爵に最近どう?って聞いてきてほしいなぁ。
お父様のお願い!!
報酬は金貨五枚程でどう?
もっと出したいけど宰相が五月蝿いだもん。
少ない報酬だけどお願いね。
危ないことは全部シャルとイチ殿とネネ殿に任せて!ね!
愛するリューナへ、お父様より
☆★☆
「……ふう」
リューナは溜め息をつきつつ羊皮紙を丸めて、
ガゴン!
それを物凄くいいフォームでゴミ箱に投げ込んだ。
おおう。こんなリューナの顔初めて見た。かなりきてるね……。
「これって指名依頼の名を借りた、ただのお小遣いだよね?」
「ですね……。はぁお父様ったら。昔っから私と姉様には甘いんですから……」
というよりなんであんな崩れてるんだ?国王の名が泣くぞ?ちょっとこの国が心配になってきた。
「私の報告を聞いたからでしょうけど」
「ラト村で聞いた話だよね」
「俺達で調査することになるとはな」
「これは調査とは言わない」
依頼内容をシャルとネネにも教え一応相談する。
「それにしても金貨五枚とは……」
甘いにも程がある。依頼内容は行ってただ話を聞いてくるだけだ。
「では受けてくれるかな?」
今まで空気を読んで黙っていた組合長が受諾を促す。
「ええ、わかりました」
「ではこれが依頼書になる」
指名依頼書──『魔女の尻尾』
・王国極秘の依頼。
・達成条件及び報酬については、冒険者組合は関知しない。
──依頼主スヴァイル王国
えらい物々しいな。ただのお使いなのに。
「これ達成のサイン誰に貰えばいいの?」
「今回は特殊過ぎる案件だからな。ぶっちゃけると、もうこの件に関しては組合を通さなくていい。直接依頼主と交渉してくれ」
無かったことにしようとしてる!関わりたくないんだな。気持ちはわかる。市役所の一職員に総理大臣から頼まれ事があったようなものだもんね。
「わかりました。ではこれで失礼します」
「うむ。健闘を祈る」
組合長の部屋から出て一階に降りる。周りの目が痛い。
そんな目しないで!ただのお使いなんだから!
「っていうか組合通す意味あるのこれ?」
「たぶんだが、この冒険者達は王国の関係者だから妄りに扱うなよ!ってことじゃないのか?」
「そんなこと、リューナがいる時点で無意味」
「そりゃそうなんだが……。あの国王だからな」
シャルは国王がリューナに対して、あまあまなのは知っているようだ。手紙を読んでないねねは、ハテナマークが頭上に浮かんでいる。
「まっ、何にせよ行ってみようよ」
「ですね。依頼は依頼です。ちゃんと達成しましょう」
「指名依頼なんてすごいなのです!かっこいいなのです!」
あぁ、忘れてた。国王の手紙のインパクトが強すぎて。フランが物凄い尊敬の目でこちらを見ている。
「大した依頼じゃないよ。いや、ほんとに」
あんな依頼を大仰に言う趣味は私にはない。
フランが不思議そうにしているが気にしたら負けだ!
指名依頼が大したことないわけないもんね。
「それはいいとして、何かいい依頼あった?」
「村の方に向かう護衛任務とかがあればよかったなのですけど、Fランクでは無かったなのです」
「あなた達ってどうやってお金稼いでいたの?」
「魔物を狩って売っていたなのです。でも、王都に来てから思うように魔物を狩れなくて……。所持金が心許なくなってきて、シュラ君も焦ってたなのです」
あぁなるほど。王都は冒険者が多いから、売れる魔物は必然的に少なくなるからね。
「ですから、まだお金がある内に帰ろうと思うなのです。これも治療費を請求せずにいてくれたおかげなのです」
そう言って頭を下げ、二人は村に帰って行った。
どっから来たか聞いてなかったな。まっいっか。
「では、旅の準備をしましょう。今度は長くなりますので」
「どのくらい掛かるの?」
「片道1ヶ月って所ですね」
「ながっ?!」
「市も地理を覚えないとダメ」
ねね覚えてるの?すごい!でもいいじゃん!皆が分かってれば!えっ?ダメ?
イスルス山脈に続くルメルス街道。鉱山と王都を繋ぐ、スヴァイル王国の大動脈の一本だ。
ラト村に行く道と違いしっかりと整備されており、私のお尻に頗る優しい。
王都を出て早二週間。見回りの騎士を見掛けなくなった頃から、盗賊や魔物によっっっく襲われていた。
特に盗賊。
「へへへっ、お嬢さんだけの旅は危ないよ~。俺達の塒で仲良くしようぜ~」
『はぁ~』
私達は全員で盛大に溜め息をついた。
「なっ、なんだそのリアクションは?」
「もう飽きたのよ。見回りの騎士が居なくなってから、懲りもせずに何回も何回も何回も」
「???」
「もういいよね?ねね」
「『土波槍』」
ドバァ!
馬車を中心に地面が波打ち、鋭い錐に変化する。
その瞬間盗賊どもの約半数が息絶えた。心臓や胸や頭や足や腕を貫かれ、血が飛び散る。
女子供相手の楽な仕事と思っていたんだろうけど、何が起こったのかもわからずにその生涯を閉じた。
この時点で逃げてれば、まだ生き残りはいたのかもしれない。しかし、盗賊どもは最悪の決断をする。
即ち、私とシャルを相手に剣を交えるということを。
「はあぁ!」「だりゃ!」「「『風斬』!!」」
盗賊どもは見るも無残な形で、屍を晒すこととなった。まだ生きてる奴もいるが、せめてもの情で止めを刺しておく。
「終わった?」
「終わったぜ!」
「じゃ行きましょう」
私達は何事も無かったかのように馬車を進めた。
「ねね大丈夫?」
「もう大丈夫。さすがにあれだけ襲われると慣れる」
ねねは最初人を殺すのに躊躇していたが、悩む暇もなく襲われて慣れたようだ。
よかった。のか?
「というかいい加減にしてほしいわね。一日一回は襲われてるよ」
「次の町で何か手を考えましょう。もう二、三時間もすれば着くはずです」
「保存食も買い足さないとね。次は何て言う町?」
「え~と、アスメラですね」
アスメラの町に着き、門番に冒険者で依頼の途中であると告げ、中に入る。
お~結構栄えてるじゃん。今まで町と言うより村みたいなとこだったからなぁ。
取り合えず宿に向かう私達。ちゃんと馬番もいる宿がいいな。まぁ馬の面倒見るのはシャルなんだけど。
「そろそろお風呂に入りた~い!」
「同意」
「イチもネネも風呂好きだな」
この二週間風呂無しで、魔法で出した水で体を拭くだけだった。毎日風呂に入っていた生活をしていた身としては大変辛い。
「この町なら風呂付きの宿があったと思うぞ」
「ほんと?!よかったぁ!」
実は組合で依頼を受けてからリューナが城に行き、必要経費を分捕ってきていた。国王のポケットマネーらしい。なので、旅費には大分余裕がある。それでいいのか国王?
「では先に宿を取りに行きましょうか」
シャルの記憶では、お風呂付きの宿は町の中心部にあるそうだ。大通りを馬車を引いて進む。
なかなか活気があるな。シャル曰くこの町は、ワガル帝国に続く街道と、ルメルス街道が交わる交通の要所なのだと。
屋台も沢山あり、食欲をそそる。
「市ふらふらしない」
「だっておいしそうじゃん」
大通りを抜け目的の宿に着く。ちゃんとお風呂もあるし、馬番もいる。
王都で泊まっていた宿と同じくらいのグレードかな?
馬車を預け食事の時間までに買い物に行く。
「買い食いはダメですよイチ」
「え~、わかったぁ」
「ほんとイチは戦闘以外は子供だな」
うっさい。シャル。
先程の大通りに食料店があったので、そこに向かう。
「あれ?」
どっかで見たことある赤髪と青髪が屋台にいる。
「ほらシュラ君ダメなのです」
「わかってるよ。さっさと狩りに行って金稼ごうぜ」
どうやらシュラがフランに買い食いはダメと怒られてるらしい。あれ?何かさっき見た光景だぞ?気のせいだな!そうに違いない!
「お~い、フラン~」
「あっ!イチさんなのです!皆さんもなのです!」
「げっ……。市……さん」
おいシュラ。げっ、って何だ。げっ、って。
「あなた達の村ってこっち方面なんだ?」
「はいなのです。まだ半分くらいなのです」
ん?王都からここまでで半分?私達とほぼ一緒だな。まさかね。
「ねぇ、あなた達の村ってロストマイン領にあるの?」
「はいなのです!ランドルスから馬車で一日ぐらいの場所にあるフーノって村なのです!」
ランドルスはロストマイン領最大の街。もちろん領主の屋敷もそこにあり、今回の依頼の目的地だ。
「ねぇ、シャル。フーノって村は通る?」
「そこまではわからん。フラン、ランドルスに行く途中にその村はあるのか?」
「通るなのです。街道から少し外れるなのですが」
マジか?!そうすると……。
「ちょっとごめん」
フランに断りパーティーメンバー会議をする。
「ねぇ、この二人連れて行かない?」
「どうしてですか?」
「ほら、盗賊すごいじゃない。やっぱり女の子しか居ないからだと思うの」
「ですが、あの方達も若すぎませんか?あまり私達と変わらないかと」
「かもしれないけど、私達が外に居るよりマシだと思う。それにさ、ここで新しく護衛雇うとか色々面倒じゃない?フランなら信用出来るし」
皆忘れがちだが、リューナはこの国のお姫様である。下手な護衛を雇う訳にはいかない。
「確かに。シャルはどう思いますか?」
「いいと思うぜ。シュラは奴隷だし、フランは裏切りそうにないからな。それに、どう見てもリューナが王女とは気付いてないしな」
「私は皆に合わせる」
「じゃ決まりね」
律儀に待ってくれていたフラン達に向き直る。
「ねぇ、私達と一緒に行かない?もちろん途中まででいいから」
「嬉しいなのです!でも、お金が無いなのです。シュラ君とこの町で稼ぐ予定だったなのです」
「旅費はこっちで出すよ。ねぇリューナ」
「そこまでお世話になる訳にはいかないなのです」
「あんた……。一体なんのつもりなんだ?」
さすがに怪しいか?好条件過ぎるかな?でも、この二人がお金稼ぐまでこの町に足止めっていうのも……。別に盗賊のことは隠す必要もないか。
「実はね、私達四人で旅してたんだけど盗賊がうざいのよ。男が護衛として居るって分れば多少マシだと思ったの。それに、この旅は依頼でしてるから、必要経費は依頼主から出てるのよ。だから、お金の心配はしなくて大丈夫よ」
「そうなのです?それなら……。シュラ君はどう思うなのです?」
「いやいや、俺はフランの奴隷だぞ?フランが決めたことに従うよ。まぁ悪くない話じゃないか?」
「わかったなのです!では、お願いしますなのです!」
「契約成立ね。じゃ取り合えずあなた達の村の近くまで宜しく!」
「はいなのです!」
よしよし、これで盗賊がマシになればいいなぁ。
お読みいただきありがとうございます。