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赤髪の戦士

よろしくお願いします。

 ラト村に着いて、報告をする為に村長宅に向かう。

 村人は四人が五体満足で帰ってきたことにより、依頼の達成を確信していた。


「ありがとうごさいます。これで、また畑仕事に精が出せるというものじゃ」

「はい。ではこちらの依頼書に達成のサインを」

「うむ」


 晴れ晴れとした表情の村長さん。よかったね。


「一応集落周辺のゴブリンも狩ったので大丈夫だと思うのですが、念の為しばらく警戒していてくださいね」

「柵を畑まで広げようと思っていますのじゃ。ささっ、今日は村を上げて皆様を労いますので」


 そのまま宴が始まった。村人達も祭気分で盛り上がっているようだ。

 取り立ての色取り取りの野菜、森の幸、それらをふんだんに使ったスープ、焼きたてのお肉、みな絶品だ。


「いや~、初めは女の子ばかりだから少し不安だったんだよ」


 そう言うのは、村に来た時に襲われていた男の人。名はラットという。なかなか精悍な顔をしている。年は二十代前半ってところか。

 あの時、他の農夫を逃がし一人残ったらしい。

 度胸あるねぇ。嫌いじゃないよ。


「イチさんは見たから強いのはわかったけど……。皆年はいくつなんだい?」

「シャル以外は十六です」

「は~、その年齢でCランクかい?」


 どうやらこの村にリューナやシャルの顔を知っている人はいないようだ。


「冒険者に依頼して正解だったよ。騎士団は有用なことじゃないと、すぐ動いてくれないからね」


 リューナとシャルが少し顔を歪めた。思う所もあるのだろうが黙っていた。


「何はともあれ助かったよ。ありがとう。最近魔物が増えてきてる気がして不安だったんだ」

「そうなのですか?具体的な事でも?」

「イスルス山脈の方に向かう街道があるだろ?どうやらそこで魔物に襲われる頻度が上がっているらしいよ。この村に来た行商人が言ってたから」

「そうですか……。初耳です」

「お嬢ちゃん達も強いといっても気を付けて!」

「はい。わかりました」


 そう言って、ラットさんは宴に戻って行った。


「やっぱり魔族が関係している?」


 周りに誰も居なくなり、何か考えているリューナに問い掛けた。


「わかりません。偶々の可能性も」

「結界が弱まってるんだよね?」

「ええ。ですが、下級魔族は前から確認されてますので何とも……。しかし、捨て置けませんね。一応お父様に知らせておきましょう」


 六百年前、魔族から人族を守る為に、伝説の大魔道士が張ったと言われている結界。西はスヴァイル王国沖合いから東はスリュース大草原までをすっぽり覆う結界だ。

 どのように張られたか分かっていないので、再現できない。


「まっ取り敢えずは初依頼達成を喜びましょうよ!考えてもわからないことは考えるだけ無駄!なるようになるのじゃ~」

「ほんと市は楽観的」

「俺はイチの意見に賛成だな!難しく考えてたら体が動かねぇ!」


 脳筋全開のシャル。

 はぁ~と溜め息を吐くリューナとねね。


「それもそうですね。イチといると難しく考えるのが馬鹿らしくなりますね」


 あれ?!私も脳筋枠に入ってない?!心当たりはいっぱいあるけど。

 でもシャルと同じ扱いは納得出来な~い!

 私の心の叫びは、宴の喧騒に紛れていった。


 村長宅に泊めさせてもらった私達は、朝ご飯を頂いた後、王都に戻る準備をしていた。


「では私達はこれで王都に戻りますので」


 リューナの言葉に口々にお礼を述べる村人達。

 見送りに来てくれた村人達に手を振って村を出る。


「さぁ、帰るまでが依頼ですよ。気を引き締めて行きましょう」


 それから、2日間特に問題無く(私とねねのお尻以外)王都に戻った。


「ではこちらが報酬の金貨一枚になります」


 王都に戻った私達は組合に報告に来ていた。

 まだ昼過ぎなので受付も暇をもて余している。

 真っ黒なローブを着た男も暇そうにこちらを見ている。


「これで本当に初依頼達成ですね」

「今日これからどうする?」

「取り敢えず掲示板だけ見ましょうか」


 リューナと話していると、掲示板の方から私と同年代ぐらいの少年が歩いてきた。

 赤髪で切れ長の目をしたイケメンなのだが、少々厳しい目付きで台無しになっている。その後には、こちらも同年代らしき少女。青い髪のショートボブで、可愛らしい顔をしている。

 黄色が居たら信号だな。と思いリューナの金髪を見る。黄色ではないな。というか、私が言うのもなんだけど若いなぁ。

 特に気にも止めず掲示板に向かう。


「これといって無いですね。周辺の魔物でも狩りますか?」

「いいんじゃない」


 ねねとシャルも特に反論は無いようだ。

 何処で狩るかの相談をしている途中、いきなり大声が響いた。


「なんでだよ!俺はCランクの魔物も狩ったことがあるんだぞ!だったらCランクの依頼受けてもいいだろ!」

「ですから、規則ですので……」

「シュラ君諦めようなのです」

「フランは黙ってろ!俺に任しとけばいいんだよ!」

「シュラ君……」


 お~お~。俺様系ですか?

 あれ?こういう時って、先輩冒険者がバシって言うんじゃないの?


「何で私の時みたいに誰も突っ掛からないの?」

「市、本気で言ってる?」

「どうやら本気のようだな」

「残念ながら本気のようですね」


 口々に訳の分からない事を言う私のパーティーメンバー。

 まっいっか。他の冒険者がチラチラこっち見てるけど。

 諸々シカトして狩りに行きましょう!


 それから、日が暮れるまで狩りに勤しんだ。

 色々狩ったな。ゴブリン、ホブゴブリン、オーガにトロル、やっぱり居ましたスライム君。

 一匹だけAランク魔物に出会った。バジリスクだ。

 これも定番だが、状態異常が非常に厄介な魔物だ。しかし、私達はねねの無属性魔法と、魔道具の鎧と、リューナの光魔法のお陰で状態異常に頗る強い。

 例えばバジリスクの石化なら、ねねの状態異常に対する抵抗力上昇(ブーストレジスタンス)の魔法でレジストできる。っていうか、私とシャルは自力でレジスト出来た。

 ただ、この魔法は完全に石化を無効化出来るわけではない。あくまでも抵抗力を上げるだけなので、人により無効化に届かない場合もある。

 だから余裕だった。だってただのデカイ蛇なんだもん!


「では今日はこの辺で帰りましょうか」

「バジリスクの牙と皮はいい金になるぜ!」

「ゴブリン討伐は何も売れる物取れなかったしね」


 この世界は依頼以外の討伐報酬とかは無い。したがって、冒険者は売れる物を優先的に狩る。

 世知辛いねぇ~。

 じゃ売る物の無い魔物はどうするの?と言うと、騎士団が間引いているらしい。

 辺境とか公的な軍が無い、もしくは軍を出しづらいところは、そこを治めている領主様が報酬を出して、冒険者に依頼を出している。

 街に戻る為に関所を通り(冒険者は無税で出入り出来る)、そのまま素材を売る為に組合に赴く。全部合わせて銀貨十枚になった。


「これは皆のお小遣いです。一人当たり銀貨二枚で、残りは先程の金貨一枚と一緒に必要経費の為に貯金しておきましょう」

「そういえば!こっち来て初めて自由に使えるお金だ!」


 よし買い食いしよう!そうしよう!

 私が買い食いに想いを馳せていると、後ろから声が掛かった。


「ちょっとあんたら」


 振り向くと昼間の赤髪が居た。


「なんか用?」

「あんたらCランクなんだよな。俺とこいつがパーティーに入ってやるから入れろよ」


 ……はい?

 唖然としている私達を余所に、自分がどれだけすごいかをアピールしだした。


 纏めると、俺はちょー強いから仲間に入れろ。俺は村の英雄だ。俺は大貴族になる男だからお前ら全員嫁にしてやる。俺は学者並の知識を持っている。俺は……。なっ?いい話だろ?


 なんで冒険者から大貴族に成れると思っているんだ?っていうか嫁にしてやる。って言った時にリューナを見る目付きがキモかった。


「えっ、嫌に決まってるじゃない」

「はぁ?!なんでだよ!俺は主人公なんだから俺の側がいいに決まってるだろ!んだよ、ったく。王都来てんのに何もイベント起きねーし」


 ん?主人公?イベント?

 あぁそう聞こえるだけか。こっちの言葉は同等の意味に置き換わるんだっけ。田舎の方言でも使ったのかな?


「っていうかそんなこと出来るの?」

「ったりめーだろ?!俺が実力「あんたに聞いてない」


 あんたが出来る出来ないじゃなくて、途中でパーティーに入れるかどうかが気になったのよ。


「出来なくはないぞ、大体騎士を目指す貴族の護衛の意味が近いけどな。毎回依頼していたらめんどくさいだろ?」


 な~る。


「わかったなら俺達を「だから嫌だって言ってるでしょ」


 魔力量が多くて田舎でちやほやされて勘違いしちゃったんだね。確かにその年でCランクを倒すのは凄いけど。断っても口を挟まないから皆も嫌なんだろうし。っていうか、ねねがゴキブリを見る目で見てるし。


「あんたバカなの?あぁごめんなさい。バカだったわね。少しは足りない脳味噌使って考えなさいよ。いきなりそんなこと言われて、はいそうですかって仲間にするやついると思うの?バカは思うのかな?わぁ~、バカの頭の構造って面白~い。村の英雄(笑)の割には付いてきてるの一人だけど、どうしたんですか~?どうせ王都に行くって言った時に苦笑いで送り出されたんでしょうね。皆の気持ち代弁してあげようか?こいつバカだな。やっと村から出て行ってくれる。よかった~。よ。それから、リューナを見る目付きが気持ち悪い。キモイじゃなくて気持ち悪いだからね?私のリューナ……。ごほん!もとい、私達のパーティーメンバーのリューナを気持ち悪い目で見ないでちょーだい。リューナが穢れたらどうするのよ。もう少し礼儀・教養・常識を身に付けてから出直して下さい。ではごきげんよう」


 一気に言って組合から出た。唖然としていた皆も慌てて私に付いてくる。


「皆どうしたの?そんな呆けて?」

「よく噛まずにあんなに長く喋れるなと思いまして」

「冒険者登録の時のバルトス相手にも凄かったけど」

「俺は剣には自信があるが口は苦手だ」


 そうかな?確かに口には多少自信あるけど。


「それよりなんか疲れたね。今日は大人しく宿に帰ろうよ」


 バカの相手は疲れるからね。今日はゆっくりお風呂に浸かって早く寝よう。


 翌朝、私とシャルは摸擬戦をしていた。王城ではほぼ毎日してたけど、冒険者になってからは初めてだ。

 常人には見えない速度で木刀を打ち合う二人。少し距離を取りお互い相手の隙を伺う。込められてる気合いは実戦さながらだ。

 シャルが焦れたように飛び込んでくる。横から払うように見せ、突きに変える。


「ふん」


 読んでるよ。突きを体を捻って躱す。密着し過ぎているので、膝蹴りをすると思わせ、踵で足を踏み抜く。


「ぬあ!」


 シャルは少し予想外だったのだろう。変な声を上げ後ろに下がる。それを追おうとしたが、さすがはシャル。すでに体勢を整え私に相対している。そして又相手の隙を伺う。

 これを何度か繰り返した後に、漸く二人は構えを解いた。


「昨日のバカは一体何だったんだろ?」


 摸擬戦を終えて、タオルで汗を拭きながら昨日の奴の事を聞いてみる。


「さぁな。たまに地方から冒険者になりに来る奴がいるが、あそこまで自信満々で無礼なのは初めて見たな」


 シャルでも見たこと無いバカらしい。


「そんなことより!これからも摸擬戦は続けようぜ!」

「ふふん。望むところよ!」


 脳筋全開の二人は、摸擬戦の感想を言い合いながら食堂に向かう。誰が脳筋だよ!


「イチ、シャル、おはようございます」

「おはよう」


 すでに食事を始めている二人と、団欒しながら食事を終え、組合に向かう。


「そういえばさぁ、パーティーの名前とかはどうなってるの?」

「自分達で付けるのがほとんどだな。たまに周りが勝手に付ける時もあるが」

「じゃ、私達はどうする?何かいいのある?」

「イチ、気付いてなかったのか?もう俺達は周りが勝手に付けてたぞ」

「うぞ?!何て何て?!」


 可憐なる薔薇とかかな?もしくは妖艶な黒とか?


「『魔女の尻尾』だって、昨日も呼ばれてたぞ」

「なんで魔女?尻尾はどこから?」

「たぶん魔女は口のうまい悪魔からだろ。尻尾はイチの髪型だろうなぁ」


 えっ!え~?ほとんど私の要素しかないじゃない。まぁかっこいいからいいか。ねねは魔女が気に入ってるっぽいし。でも、「魔女……。うふふ」って笑うのはやめて!怖いから。

 若干凹みながらも私は組合のスイングドアを開けた。


 なんとバカが居た。

 何?ストーカー?

お読みいただきありがとうございます。

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