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決闘という名のテンプレ

よろしくお願いします

 裏庭に向かう組合長に続いて私と戦士も向かう。予想通り何人もの冒険者が付いてきて、ニヤニヤ笑っている。


「バルトスに勝てる訳ないだろ」

「綺麗な顔してるのにもったいねぇなぁ。おい!バルトス!顔はやめてあげろよ!」

「あそこまでバカにされて五体満足で終わるかよ!」

「殺されるよ。あいつは」


 勝手なことを宣うやつらに目もくれず、奥の方にフードを目深に被った二人を見つけ、視線だけ送っておく。

 ……うぅぅぅぅみゅ……

 冒険者ってこんなレベル低いの?見た目で判断しないって基本だと思うのだけど……。

 組合長だけ探る目でこっち見てるけど。


「それでは決闘を始める前にルールを決めておく」

「ルールなんて無しだ!なんでもありだ!」

「私もそれで構わないわよ。ちなみにあなたのランクは何?」

「Cだ」

「へぇ~」


 聞いておいて興味無さそうに答えとく。

 あっ、額の青筋が凄い。簡単に挑発に乗り過ぎだよ。


「では始め!」


 合図と共にバルトスが一直線に飛び込んで来る。

 遅い。こんなものか。

 降り下ろされる大剣を敢えて紙一重で躱し、焦ったような表情を浮かべる。

 速さに付いて来れてないと思い、調子に乗ってバルトスは大剣を繰り出し続ける。それをわざと紙一重で躱したり、長剣で受け力負けしたように蹌踉ける。


「どうした?!やはり口だけか?!」


 悔しそうな表情を作って周りを見渡す。

 ちょっとねね!もうちょっと心配そうな顔してよ!


「これは決闘だ。誰も助けちゃくれない──ぜ!」


 再度大剣を振り上げ──なんで上段ばっかなんだろ──バルトスは迫ってくる。こちらも再度紙一重で躱す。


 一度も反撃しないまま三十分が過ぎたあたりで、漸くバルトスが疑問に思い始める。なぜ当たらないのかと。


「ちっ、ちょこまかと……。やる気あんのかてめー!」


 苛立ちを露にしてバルトスが吠える。

 そろそろ潮時かな?観客も不思議そうな顔しだしたし。

 先程から浮かべていた表情を消して静かに語る。


「あなたは私を侮り、私の挑発に乗り、ムキになり、単純な攻撃ばかりで無駄に魔力を使った。もうあまり魔力が残って無いのでは?そろそろ息が切れてきたのでは?」

「うるせー!魔力が無くなる前に倒せばいいだけだろうが!」


 また同じように突っ込んでくる。考えてよ。もうちょっと。

 魔力が少なくなって焦る気持ちはわかるけども。

 今までとは違い本気で動いた。大剣を右手に躱すと同時に左足を引っかける。

 段違いの体捌きの速さにバルトスは付いて来れない。


「なっ?!ぐぺぇ?!」


 あっ、顔面から行った。痛そう~。

 うつ伏せに倒れたバルトスは起き上がろうとするが、背中を踏み、顔の横に長剣を突き刺す。


「勝負あり。ですね」


 にっこり微笑んであげた。

 バルトスは顔を思いっきり歪ませている。

 悔しいのか痛いのかどっちだろ?どっちもか。


「遊んでたのか?」

「さぁ。どうでしょう?」


 曖昧に返しておこっと。そして、先程目配せしたフードの二人が顔を見せながらこちらにやってくる。


「さすがはイチ!お見事!」


 呆然としている冒険者達の間から、リューナとシャルが現れた。

 突然の偉いさんの出現に、慌てふためく冒険者達。


「いつでも油断するなって教えただろ!バルトスもいい勉強になったか?ちなみにイチは俺と同等以上の実力を持っているぞ!バルトスが相手を見くびらなければ、まだ勝負になっていただろうに!」


 シャルの嘘つき。甘いなぁ。


「えっ?!シャルさん?!そうか……。伸びた鼻を折られたのは俺の方か……」


 ガックリしてるバルトスさん。ドンマイ!


「そこにいるネネもイチに匹敵する力を持っている!力のある冒険者は街の安全の為には必要不可欠だ!この二人に俺とリューナを加えた四人、本日より冒険者に登録する!以後よろしく頼む!」


 シャルの男前な言葉に、冒険者達は素直に耳を傾けている。


「市、お疲れ」


 ねねがタオルをくれた。さすがチビッ子。マメだね。


「隊長さんが締めちゃった。最後に、ねぇ、今どんな気持ち?ねぇ?ねぇ?って聞きたかったのに」

「それはさすがに引く」

「そんな引かないでよ~。冗談だよ~」

「いやあの顔はマジだった」


 そんな私達を見て、こそこそ話している冒険者達。


「お前最後の動き見えたか?」

「見えなかった……。途中から変だなとは思ったが。それよりシャルさんと王女様が冒険者ってどういうことだよ!というかあいつら何者なんだよ」

「シャルさんの愛弟子とかか?」


 弟子は間違って無いかな。

 さて登録しに行きますか。


「ねぇ市。なんで魔力枯渇なんて狙ったの?楽に倒すなら油断している時に瞬殺したらよかったんじゃ?」


 歩きながらねねが聞いてきた。


「一応シャルとの約束だしね。それと、シャルが仕組んだ演出ってしとけば冒険者の反感買わないでしょ?」

「その割りにはボロクソに反感買うこと言っていたと思うけど……」


 その辺はまぁ、ね……。ねねの呟きは無視しとく。


「それより市はやっぱすごい。あんなにうまく魔力を調整なんてできない」


 お~ほほほ!もっと褒めていいのよ!私は褒めて伸びるタイプなのよ!


「戦闘に慣れてきたら自然と出来るようになるよ。自分より下の相手に全力全開なんて非効率過ぎる。魔力温存した方が長く戦えるからね。それには、相手の力量を見極めることが大切だけど」

「相手の力量ってどうやって見極めるの?」

「相手が纏っている魔力をちゃんと感じ取るんだよ。後は戦いの経験と勘かな」

「戦いの経験って……。市は元の世界でどんな生活を……。まぁそれはいいとして、難しい。まだまだ修行が足りない」


 そんな落ち込まなくても……。ねねは魔道士なんだからそこまで拘らなくていいと思う。魔力量と魔力適正は十分過ぎるんだから。


 受付に着くとすでにリューナとシャルがいて、受付のお姉さんと話していた。


「では冒険者登録を行います。皆様はCランクからですが、冒険者のルールはお聞きになりますか?」

「はい」


 もうねねが立ち直っている。さすがチビッ子!いやチビッ子は関係ないか。


 ルールを纏めると……。

 ・依頼をいっぱい成功したら上に上がる!

 ・依頼をいっぱい失敗したら下に下がる!

 ・冒険者同士の揉め事は冒険者組合まで!


 こんなところかな?わからなかったらシャルに聞けばいいや!

 取り敢えず目指せSランク!かな?


「次は冒険に必要なものを買いに行きましょう」

「どんな物が必要なの?」


 冒険者に必須の物なんてさすがにわからない。


「色々ですね。事前に調査していますので、私に任せて下さい!」


 リューナ張り切ってるなぁ。

 個々に必要な物は依頼をこなす内に見えてくるそうだ。

 因みに王都にいる間は、お金は全て国持ちである。稼いだお金は好きに使っていいらしい。

 イージーモードだ。

 というか、勝手に召喚して、魔王討伐依頼しておいて、金は出さない!とかなら、そんな国助けなくていいよね。


「ちょっとねね見て!これ!」

「ほう、これは興味深い」

「こっちも!こっちも!」


 私達は初めて見る魔道具や武器・防具にはしゃいでいた。買いもしないものにも一々説明を求めて。


「ねぇねぇ!あれ何?!あれも魔道具?!」

「イチ、ネネ、あまり騒ぎすぎないで下さいね。お二方が召喚されたのは一応極秘ですから」

『あっはい』


 リューナに怒られた……。今考えると私達うざかった?

 魔族に知られないように、召喚されたということは出来る限り隠したいそうだ。


「でも黒髪黒目なんて全然見てないよ。すぐばれるんじゃ?」

「いいえ。数はあまり多くありませんが、黒髪黒目の人もいらっしゃるのですよ。ローエン王国の南方に多く住んでいます。ですので、お二方の出身地はそこということになっています」


 過去にも召喚されてたようだし、その人達の子孫かな?

 道理で米も調味料もあると思った。

 宿に着き四人部屋を取る。さすがに個室ではないか。

 でも風呂もあるし(共同だが)普通のビジネスホテルより快適だ。


「この宿はどのくらいのランクなの?」

「そうですね。高級宿ではないが……。ってところですね。Cランクに相応しい所で、何処がいいかをシャルに聞きました」


 最高級宿は一人一人にお世話する人が付くらしい。

 それはすごいな。落ち着かなさそうだが。私はこのレベルが丁度いいや。


 翌日、王城以外で初めて朝を迎えた。

 大きく体を伸ばして一息吐く。

 まだ目覚める様子のない同室の三人を起こさないように部屋を出た。


「おはようございます。朝食はどうなさいますか?」


 二階にある部屋から階段を降りると女将さんが居た。


「今から鍛練しますので、後で頂きます」

「畏まりました。朝食は十時までになってますので」


 宿の正門と玄関の間にあるちょっとした庭に向かい、日課の素振りを行う。

 リューナに頼んで作ってもらった鉄入りの木刀。

 木刀を振り上げ、下ろす、振り上げ、下ろす……。

 誰かが近づいてくる。声をかける気は無いようなので、素振りを続ける。


「見事な腕前だな!」


 シャルだった。私が止めるのがわかったのか声をかけてくる。


「寸分のズレもない。あっさりと俺が抜かれる理由だな」

「毎日何年もしていたら自然と出来るようになるよ」

「そうか!俺も精進しな「それより」


 シャルの言葉に私は被せて言う。


「あなた達が私達に付いてきた本当の理由を教えて」


 鋭い視線にシャルは一切怯まずこちらを見返してくる。

 数瞬見つめ合って、シャルは観念したかのように溜め息をついた。


「リューナと俺は城では邪魔物なんだよ……。この国は獣人など人以外は下に見る傾向があるんだ」


 それはわかってる。というより、この一ヶ月人間以外見ていない。人間の奴隷は其れなりに居たが、獣人などは居なかった。というか、どんな種族が居るのかまったく知らない。


「ワガル帝国は共存共栄を望み、スヴァイル王国とローエン王国は全て人が支配すべき。が、国是だ。一般市民は其れ程でもないが、上に行くにつれその傾向が強くなる」


 もしかして……。


「リューナとシャルは共存共栄を望んでいる?」

「御名答」

「人気の二人を王城からハブったのかぁ」


 この二人はとても人気がある。リューナは暇さえあれば貧民街に行き、怪我人・病人の治療をしているし、シャルは冒険者育成に尽力していて、一般市民と冒険者に絶大な人気がある。


「でも封建国家なのにそこまでする必要があるの?」

「今回の件は教皇が進言したんだよ。本当はリューナだけだったんだが、さすがに陛下が止められた」

「で貴方が護衛としてなら……。ってとこ?」

「リューナ自身の説得もあった上で仕方なくだけどな」

「教皇は何がしたいの?」

「うむ。わからない!」


 なんで自信満々で言うのよ……。


「何が目的かわからないけど、リューナは命に変えても俺が守るぜ!それが俺の役割だ!悪いけどあまりイチとネネには構えないかもな」

「それは別に構わないけど……」


 きな臭いなぁ、まぁ私もリューナ好きだから、守るのも吝かじゃないけど……。


「分からないものは考えても仕方ないわね。朝食食べに行きましょうか」

「そうだな!因みに、イチと試合したいのも理由の一つなんだぜ!」

「マジで?!」


 気持ちが分かるだけに無下に出来ない……。

 しっかし魔王の脅威が迫っているのに、他でゴタゴタするのもテンプレなのかな。


 食堂に顔を出すと、リューナとねねはすでに食堂にて朝食を食べていた。


「イチ、シャル、おはようございます。お先に頂いてますよ」


 リューナがいい笑顔で挨拶してきた。もう身嗜みはバッチリだ!さすが王女様。

 この国のご飯事情は国が豊なだけあり頗るいい。

 固いパンと具のないスープがテンプレなのに、柔らかいパンと肉がゴロゴロ入ったシチューが出てくる。王都から離れるとその限りでは無いようだが。


「この肉美味しい。なんの肉?」


 ねねはシチューの肉が気に入ったようだ。


「これは大猪(ビッグボア)という魔物の肉だな」

「えっ?!魔物って食べるの?!」

「普通の動物より魔物の方が旨いことが多いな。俺も冒険者時代にはよく魔物を食べたなぁ」


 何やら物思いに耽ている。さすが脳筋。ワイルドだな。

 でも、確かに城で食べた肉より美味しいかも。香辛料もあるし、ご飯で苦労はしなさそうだね。


「リューナ、これからの予定は決まっているの?」


 行儀よくシチューを食べているリューナに聞いておく。


「えぇ。当面は四人で依頼を受けてランクを上げましょう。上のランクじゃないと受けれない討伐依頼がありますから」

「ランクを上げるのね。冒険者として当たり前か」

「決して無理はしないでくださいね。目的はランクを上げることじゃなく、強くなることですので」

「わかっているわよ。まずは実戦に慣れないとね」


 ウインク一つリューナに送っておいた。

 朝食を済ました私達は、早速冒険者組合に向かうために宿を後にした。


「何か見られてますね」

「昨日あれだけ派手にしたら当然」


 リューナとねねが同時に私を見る。

 冒険者らしき人々に畏怖の目を向けられた(特に私が)。

 私怖くないよ~。何もしなければ何もしないよ~。

 というか見られてるのは、リューナとシャルが居るからってのもあると思う。


「シャルさん!」


 おっ、バルトスだ。顔のキズはもう治っている。


「お前もこれから組合に行くのか?」

「ええ。あっちにパーティーメンバーが居ます」


 バルトスが目を向けた方に三人の冒険者が居た。


「そういえばCランク以上のパーティーってどのぐらい居るの?」


 ふと思いシャルに聞いてみる。


「現在Cランクが十組、Bランクが五組、Aランクが二組、Sランクが一組だな!」

「SSランク以上はいないの?」

「今は居ない。SS以上は国と組合への貢献度に依存するからな。ここ最近は特に平和だから仕方ないだろう」

「そういえば、個人のランクと、パーティーのランクって別々にあるの?」

「基本的にはない。一人で冒険者をする奴なんてほとんど居ないしな。個人で依頼でもない武勇を立てても、名誉と謝礼はあるが、そのパーティーの冒険者ランクには寄与しないな。ただ、それがパーティーでなら一定の配慮はある」


 へ~。でもそりゃそうか。パーティー組んでるのにわざわざ一人で依頼受けないよね。


 組合に着き、バルトスのパーティーと一緒に掲示板を眺める。

 う~ん。何がいいかわからん!ここはリューナとシャルに任せよう!


「この辺りがいいかな?」

「シャルさんがCランクの依頼を受けるとか、違和感が物凄い……」


 バルトスが苦笑している。

 そういえばシャルは元SSランクだっけか。


「テメーら!シャルさんの足引っ張るんじゃねーぞ!」

「て・め・え・ら?」

「ひっ?!あっ、いや、すんません!お嬢様方!」


 殺気を込めて睨むと、土下座する勢いで謝るバルトス。

 そこまでしなくてもいいよ?!ちょやめて!周りの目が!何かひそひそ話してるし!


「マジかよ?!バルトスさんがあんなにビビってるぜ」

「昨日の決闘見てないのか?!バルトスさん遊ばれてたんだぜ」

「あの目見たか?!尋常じゃない!」

「こえ~、あの女には絶対関わっちゃだめだな」

「お嬢様(笑)って呼ばせてるのかよ」


 呼ばせてないよ!

 ねね!シャル!笑ってんじゃないわよ!何とかしてよ!

 慌てる私を宥めるリューナ。私の評価がドンドン落ちている気がする……。



 依頼書──Cランク


 ・ムシャラムの森にてゴブリンの集落を発見しました。集落の大きさから五十匹以上居ると思われます。早急に殲滅願います。

 ・報酬──金貨一枚


 ──依頼主ラト村村長ノーク

お読みいただきありがとうございます

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