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冒険者組合へ

よろしくお願いします。

「市さん、起きて」

「むにゃ。もうお腹いっぱいだ……」

「なんてベタな寝言」

「ネネ殿、少し離れてくだされ、『水球(アクアボール)』」


 ぼちゃん。


「ひゃ?!何?!」

「何?!ではないです。毎回毎回居眠りして……。真面目に話を聞いてくだされ」


 だって眠いんだもん。ご飯の後に座学はきついって!っていうかびちゃびちゃだぁ──「『乾燥(ドライ)』」──ありがとうねねちゃん。

 実はウラバロスさんめっちゃ喋る。特に魔法の話は。

 でも私適正ないんだよ?!意味あるの?!いや、意味があるのはわかってる。魔法が使えなくてもどんな魔法があり、どのような効果があるのかを知っている必要があるから。


「イチ殿には剣術があるのはわかりますが、魔法の話も真面目に聞いてくだされ」

「はーい。すいませーん」

「反省の色がまったく見えないが……。では、水と風の合成魔法の話でしたな」


 こちらの世界に来て早一ヶ月(暦の数えかたと時間は元の世界と同じ表現に聞こえる)。私達は日々座学と近衛騎士相手の訓練に精を出している。教会の座学がなんとも言えないけど……。

 そんなある日私達はリューナ姫に呼び出された。


「そろそろ訓練を終了させて次の段階に移りたいと思います」

「次の段階?」

「ええ、勇者様方は順調に力を伸ばしています。ですが、訓練だけでは本当に強者と見えた場合勝てません」

「なるほど。具体的にはどうするの?」

「勇者様方には冒険者になっていただきます。これは身分証明も兼ねていて、周辺国家でも有効なので」

「わかりました」


 ねねちゃんが二つ返事で答える。

 身分証明ねぇ。どうせまずくなったら、切れるようにだろうけど。

 私達が召喚されたのは秘密っぽいし。暴れたら、冒険者がやったことなので王家は関係ありません。ってとこかな。

 教皇あたりの案?

 まっいっか。身分が軽い方がいざって時楽だし。


「では明朝冒険者組合に向かいますので、よろしくお願いしますね」


 次の日の朝、正門の前に集まった私達はリューナ姫を待っていた。


「冒険者楽しみだね」

「昨日のリューナ姫の話、言葉通りに受け取っちゃダメだよ」

「なんで?」

「身分なんて一代限りの爵位もあるし、実戦に至っては勝手に魔物を刈ればいいだけ。盗賊でもいいけど。冒険者になる必要なんてないんだよ。こっちは国の権力があるんだからどうとでもなるし」

「考え過ぎじゃない?市さん」


 まぁリューナ姫は誠実天然って感じだから、わからないでもないけど。

 リューナ姫“は”ね。


「その割りには冒険者になることを断らなかったね」

「いやー。冒険者になるってウキウキするし、異世界来たらやってみたいと思ってたので」

「それはわかる」


 ねねちゃんが何故かいい笑顔で答えた。

 冒険者について話していたら、リューナ姫がシャローン隊長を伴ってやって来た。


「皆様お揃いですね。では参りましょうか」

「あれ?!シャルも行くの?」

「俺は元SS級の冒険者なんだぜ!イチ殿と試合……もとい、パーティーを組むんだ!」

「えっ?!シャルも冒険者するの?!」

「すみません!言ってなかったですね。イチ様とネネ様に私とシャローン様と四人で冒険者をすることになりました」


 おっとビックリ発言!というかシャル私と試合するために来たんじゃないのか?

 リューナ姫のビックリ発言にねねちゃんも唖然としている。


「リューナ姫も冒険者をするの?危なくない?」

「大丈夫ですよ。ご存知だと思いますが、私光魔法がかなり得意なのですよ。他に風と水の属性も適正があります。小さいころから鍛えていましたので、その辺の冒険者には負けませんよ」


 この世界は魔力量が物を言うので、戦闘に男女の差別はあまりない。まったく鍛えなくていいのではないが、元の筋力に魔力の筋力が上乗せされると考えたらいい。

 それでも、王女を冒険者にするなんて王様何考えてるんだ?


「では参りましょうか」


 突っ込みどころ満載で唖然としてる私達を置いて、リューナ姫とシャルは歩き出した。


 王都スヴァイルは三つの区画がある。

 行政機能がある区画、主に貴族の家屋がある区画、そして、冒険者組合がある、市民及び商業区画。

 一番広い市民区画の中、リューナ姫を伴い中央通りを歩く。

 ……一応この一ヶ月たまに市民区画にも来て、冒険者組合も確認しているのだが。

 なんで遠回りしてるの?とりあえず聞きますか。


「ねぇリューナ姫、遠回りしてない?」

「よくわかりましたね。実は宰相に言われたのです。私達が冒険者として目立つのはほぼ確実です。でしたら、初めから私やシャローン様と目立つ中央通りを通ろうと」

「なるほど、王家の求心力の為と」


 少し驚いた後リューナ姫が苦笑した。

 さすがにそれは理解しているのか。


「どういうこと?」


 ねねちゃんはわからないようだ。


「冒険者はいわば、王国騎士の手の回らない案件の露払いみたいなものだよね?有力な冒険者に国の人材を付けても、上辺だけ手伝ってるように見られる。でも、こうやって御披露目を兼ねて練り歩き、登録から国が関わっていると話は別。私達はちゃんと市民のことを考えてますよとアピールになるんだよ。ついでに言うとそれが、王女と近衛騎士隊長もパーティーメンバーだとすると、効果はばつぐんだ!」

「何そのドヤ顔。何か腹立つ」

「ねねちゃんひどい!」

「オタクは得意気に説明するとき、大概ドヤ顔で長い」

「ねねちゃんに言われたくないよ!」


 魔法の事話す時のねねちゃん凄いよ!一度夜中に話し出して止まらなくなった。まぁ私もノリノリだったんだけど。

 リューナ姫が私とねねちゃんの言い争いを微笑ましく見ていた。


「でも私は冒険者に憧れていたのです。これは本当ですよ?」


 意外とヤンチャな姫様のようだ。


「それより私のことはリューナと呼び捨てでお願いします。共に冒険をする仲間なのですから」

「だったら私のことも市で。というか、皆呼び捨てでいこうよ!」

「そうだな!」

「私も構わない」


 ねねは別として、近衛騎士団隊長が姫を呼び捨てっていいのか?意外と緩いなぁ。シャルが特別なのかな?


 歩いている内に徐々に周りにある建物が変わってきた。

 日用品の店から武器・防具・道具屋へ。食堂から居酒屋へ。民家から宿屋へ。一本道を外れたら娼館に。

 その中、暴力を生業にするもの特有の気配を放っている人達が居た。そして、その人達が吸い込まれて行く一際大きな建物が見えた。

 少しその建物から離れた場所にて私は喋り始める。



 ☆★☆



 スイングドアを開け放ち、少女が冒険者組合に入ってきた。

 入って真っ直ぐ奥に行くと受付があり、その奥に二階に上がる階段がある。

 右手には色々な紙が貼られている掲示板。軽く食事もできるように食堂もある。

 そこには、屈強そうな剣士や戦士、ローブを身に付けた魔道士、ロザリオを首から下げている神官などが屯している。

 左手には素材の買い取りでもしているのだろうか、様々な牙や皮などが積み上げられていた。


 少女が入ってすぐに、胡乱な視線が注がれる。

 それはそうだろう。こんな小娘が魔道具に身を包んでいるのだから。

 魔道具の装備は、Cランクの冒険者でなんとか下級の装備が手に入る代物だ。決して、駆け出しのFランクが持っていい物ではない。

 嫉妬、侮蔑色々な感情が混ざった視線が送られる。


「おいおい。貴族の嬢ちゃんが来ていい場所じゃねーぞぉ!」

「そんな大きい声出すなよ。泣いちゃうだろー」

「ママ~パパ~助けて~ってか!」


 口々に軽口を叩き、何が面白いのか下品に笑う。

 それでも公共の場だからなのか、手を出してはこない。

 不快に感じるだろう罵倒を少女は意に介さず、むしろ失笑しながら受付に向かう。

 それを胆が据わっていると感心するか、生意気だと思うかはどちらが正しいのだろうか?


「いらっしゃいませ。どのようなご用件でしょうか?」


 厄介な人物が来たな。と、おくびにも出さないで受付は対応する。

 ここは荒くれ達の巣窟の冒険者組合だ。このようなことは日常茶飯事なのだろう。


「これを……」


 受付の娘が少女から羊皮紙を受け取り途端に顔色を変えた。綺麗に封蝋された羊皮紙を震えながら確認する。


「特例でCランクからスタート?!少々お待ち下さい!私には荷が勝ちすぎなので組合長をお呼びします!」


 焦っていまにも転びそうに、奥にある階段から二階に上がって行った。

 そのやり取りは当然屯していた冒険者達も耳にしている。


「Cランクからだと……」

「おいおい、どういうことだよ?!」

「Cランクになるのに普通二年以上要るだろう!」


 俄に騒がしくなる組合の中、少女は悠然と佇んでいた。


「おい!ガキ共!いったいどんな手を使った?!」


 耐えきれない様子で厳つい顔をした戦士が絡んでくる。なかなかの体躯をしており、貴族の子供の細首など、一瞬でへし折れるだろう。


「どんな手も何も、私達はCランク以上の力があるってことじゃないの?」


 ポニーテールにした黒髪を弄りながら、目も合わせず少女の一人が答える。

 そういう意味ではないのはわかっているのだろうが、敢えて挑発して煽るように言う。


「んだと?!お前らみたいなガキにそんな力あるわけないだろうが?!」

「レベルが低すぎるわ。彼我の実力差もわからないなんて。っていうか喋らないでくれる?口が臭すぎて周辺の空気が変なことになってるじゃない。」

「く、口が臭いのは関係ないだろぅ?!やめろよそういうこと言うの?!」


 厳つい戦士と少女は尚も言い争う。


「市ノリノリだ。でもまぁ仕方ない。この状況は私でもワクワクする」


 黒髪の少女が少し呆れながらも、この場を楽しんでいるように二人のやり取りを見て呟いた。


「もう我慢ならねー!小娘!面出ろ!」


 一際ひどい言われようをされた戦士がいい放つ。

 負けることなど微塵も思っていない様子だ。それもそうだろう。彼はこの前Cランクに上がったばかりだが、この実力者が多い王都でのCランクだ。地方の街ならBランクになっていてもおかしくはない。

 少女が答える前に階段から組合長が降りてきた。

 些か年はいっているが、荒くれ共を纏めてるだけあり、覇気のある顔をしている。


「待て。その者に手を出すことは私が許さない」


 咎める口調で戦士に言う。しかし、それで納得するなら冒険者などしていない。

 基本的に冒険者同士の争いは組合は介入しない。さすがに殺人や動けなくなるほどの暴力は、国の定める罰則があり見過ごせないが、多少の諍いは大目に見ている。

 調子に乗ったルーキーの伸びきった鼻を折る役割も果たしているのだ。

 それなのに組合長は手を出すなと、とても承服できない要望だ。


「ふざけるな!このガキは叩きのめさないと気が収まらないぜ!」


 少女に今にも掴みかからん勢いで気勢を上げる。


「許さないと言っているだろう?!」

「じゃさぁ。決闘しない?結構広い裏庭があるんでしょ?」


 この少女は何を言っているのだろうか?折角組合長が収めようとしているのに、自ら死地に飛び込もうとしているのだから。

 この国の法律では然るべき立会人の元行われる決闘では、何をしても罰せられない。もちろん殺しても。


「む。しかし……」


 尚も許可出来ないと言葉を濁す組合長。


「私が全責任を負うから。ね!」


 ウインクをしながらいい笑顔を組合長に向ける少女。


「やらせろよ!こんなガキ放置するなんて皆納得できないぜ!」


 周りの冒険者も戦士に同意のようだ。

 それでも渋い顔をしている組合長に少女が何か呟く。


「それなら……。わかった。ではこれより決闘を行う!」


 ニヤリと少女が笑い裏庭に向かって歩きだした。



 ☆★☆



「ねぇリューナ、これからする冒険者登録は目立った方がいいんでしょ?」

「そうですね。今でも十分目立っていますが」

「私達の世界にはその時よく起こることがあるのよ。所謂テンプレってやつがね」


 よくわからないのか小首を傾げるリューナ。

 可愛いなぁ。小動物みたいだ。


「私達みたいな子供が冒険者登録なんてして、しかもCランクに飛び級なんてしたら確実に絡まれるのよ」

「私やシャルがいる限りそのようなことはありませんよ」

「だ!か!ら!目立つためにわざと絡まれようってこと。リューナとシャル抜きで登録に行って、絡んできた人をあしらってる時にリューナとシャルが乱入するとか」

「わざわざ絡まれるのですか?あまり賛成できませんね」

「いや、いい考えだな!冒険者達も見た目で判断したら痛い目に合う。っていい勉強になるし!」

「それに上のランクの冒険者を倒したら、周りの人も早く認めてくれるんじゃない?」


 シャルも私の意見に賛成のようだ。

 ねねは真意に気付いてるようだが反対はしてこない。

 なんだかんだ言ってねねもテンプレ好きだもんね!


「はぁ~。わかりました。どのようにするのですか?」


 決闘など冒険者のルールを聞き、私達は計画を立てたのだった。

お読みいただきありがとうございます。

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