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盗賊の塒にて

よろしくお願いします。

 盗賊の塒を目指して私達は森の中を只管に進んでいた。

 先頭は『三眼の剣』で、殿は『金色の雫』、その間に『蛇』と『トライセル』と『魔女の尻尾』が入る陣形だ。

 途中で会う魔物は全て『三眼の剣』が倒している。

 さすがAランクだな。

 こりゃ楽だ。後ろのフェミニストが居なければね。


「リューナちゃん。疲れたら言うんだよ」

「ありがとうございます」


 こんな調子で「荷物を持とうか?」「そろそろ休憩しないとね」「魔物は僕達に任せてね」などうざいことこの上ない。

 これが下心満載なら無視なり何なりとするのだが、たちの悪いことに本心で言ってるみたいなのだ。

 さすがに無下にするには心が痛む。

 しかも、その度にメトルと言い合いをしてるのだから手に負えない。


「おい!リューリー!いい加減にしろよ!」

「何がだい?」

「鬱陶しいんだよ!」

「分かったよ。静かにするから」


 困ったもんだと苦笑しているリューリー。

 いや、困ったもんだはあんただから。

 それから暫く進んだ所に、ぽっかりと口を開いた洞窟が見えてきた。

 あれか?っていうか、何で皆迷わずに目的地に着くんだ?

 その洞窟の入口にはバリケードが置いてある。丸太を何本か組んだだけの簡素な物だか、弓矢に対してはこれで十分なのだろう。

 そのバリケードの両側に一人ずつ見張りが立っている。

 片方が強襲されても、もう片方がすぐ知らせに走る為だろう。そうなれば、洞窟の中で盗賊が準備万端で待ち構えるのは想像に難くない。

 出来れば強襲したいところだが……。


「見張りが二人か……」

「どうする?」


 メトルのパーティーが勝手に話を進めている。

 他のパーティーもメトルに任せるようだ。


「よし!まずは見張りを引き離す」


 ねねの魔法ならここからピンポイントで倒せるけど。

 余計なことは言わない方がいいのかな?


「私が見張りを倒す」


 ねねがあっさりいい放ち、魔法を撃とうとする。


「おい!余計なことするなよ!」


 メトルが慌てて止めようとねねに詰め寄る。

 声でかいよ。あんたの声の方が余計だよ。


「俺達の仕事だ。お前らは女の世話だろ」


 うっ。確かにそう決まっているよね。


「わかった」


 ねねもこれ以上は得策じゃないと思い引き下がる。

 でもどうするんだろう?

 近づいたらまず間違いなく気付かれる。

 回りに身を隠すような遮蔽物も無いし。


「やれ」


 メトルの短い言葉に仲間の魔道士が魔法を撃つ。


「『水球(アクアボール)』」


 バシャッ!


 少し離れた茂みに恐らくわざと小さくした水球を放つ。


「ん?何だ?」


 見張りがその音を聞き、訝しげに顔を見合わせる。


「ちょっと見てくる」

「おう」


 おお!上手くいった!テンプレな手だが、有用だからテンプレってことだな。

 茂みに入った見張りを音を立てないようにメトルが倒す。


「おせーな。しょんべんでもしてるのか?」


 残ったもう一人がしびれを切らしてこちらに来るのをただ待つ。

 しかし、中々来ない。さすがに入口を空っぽにしないだけの知能はあるのだろうか?


「そこまでバカじゃないか……」


 これ以上は中の盗賊に気付かれる可能性がある。


「メトルさん。ここは私にお任せを」

「ボッドか……。頼む」


 頼まれたボッドはわざと服装を乱し、より盗賊っぽくなる。

 そして堂々と洞窟に近づいていく。


「お疲れさん。もう一人の見張りはどうしたんだ?」


 少し警戒していた見張りだが、その言葉で味方だと判断したのだろうか、無防備にボッドを迎え入れる。


「あ~、なんか物音がしたから様子を見に行って帰ってこないんだよ。どっかでサボってんのかねぇ」

「それはお頭に報告だな」


 ボッドは喋りながらも歩みを止めない。


「お頭?おい、そんな呼び方したらお前殺されるぞ」

「すまない。ついな」


 そして見張りの目の前に立ち、ニヤけた顔を引っ込め無表情にナイフを突き立てる。


「お、お前……」


 力尽き倒れようとするが、ボッドが手を添え、そっと横たえる。

 お~。お見事。私には出来ない芸当だな。

 洞窟の入口に身を隠し中を窺う。

 問題は無かったようで、私達を手招きする。


「流石だな。盗賊殺しと言われるだけある」

「お見事」


 口々にボッドを褒める冒険者達。

 しかし、その頃には既にニヤけたボッドに戻っており、どっから見ても下劣な盗賊にしか見えなかった。


「よしてください。Aランクのお二方に褒められると痒くなっちゃいます」

「いや!ボッドさんは自分と同じBランクとは思えない手練です!」


 だから声でかいよ!

 慌ててゴーシルの仲間が口を押さえながら、ペコペコこっちに謝っている。


「さて、ではここからは計画通りに行こうか」

「そうだね。『魔女の尻尾』は後からゆっくりと付いて来てくれればいいから」


 メトルとリューリーの言葉に皆無言で頷き、メトルのパーティーを先頭に洞窟に入っていく。

 そこからはほぼ作業のようだった。出会い頭に盗賊を瞬殺し、どんどん進んでいく。

 ここまで来たらさすがに気付いたのだろう。散発的に居た盗賊が全く居なくなってきた。


「奥で待ち伏せされてるな」

「意外と賢いね」


 力押しで疎らに戦うより、集団で戦うことを選んだのだろう。


「後は僕らでやるから君達は女性を探してきてくれるかい?もう盗賊は奥にしか居ないと思うから」

「分かりました」


 楽していいならそうしましょ。

 ここで私達だけ別れる。


「でも女性居ない場合もあるんだよね?」

「俺が冒険者をしていた頃の経験だが、十中八九居る」

「そうなの?」

「ああ」


 難しい表情のシャル。何か昔あったのかな?

 同じ女として許せない気持ちは分かる。

 分かれ道を虱潰しに探索し、暖簾のある部屋を見ていく。

 何度か同じことを繰り返し、漸く三人の女性が見つかった。

 そこは意外と小綺麗にされていて、布団らしき物まで置いてあった。

 皆諦めの表情を浮かべており、襤褸切れ一枚を着て座り込んでいる。

 うわ。リアルだな。さすがにこういう経験は無いからどう話し掛けたらいいかわからない。

 躊躇している私達を余所に、シャルが声を掛ける。


「私達は冒険者だ。お前達を助けに来た。もう安心だ。家に帰れる」


 淡々と事実のみを告げる。

 初めはポカンとしていた女性達だか、徐々に理解して泣き始めた。


「うっ、うっ、うっ」

「ぐすっ、ありがとう。ありがとう。ありがとう」

「帰れる?家に?」


 シャルは一人一人の肩を叩き慰め、リューナが回復魔法を使い怪我を治す。


「先に洞窟を出て待っていましょう」


 何時までもここに居るわけにはいかない。

 盗賊は他の冒険者に任せ、来た道を戻り、洞窟を出る。

 念の為、近くの茂みに身を隠すようにして、他の冒険者の帰りを待つ。

 しかし、


「遅くない?」


 別れてから優に一時間ぐらいは経っている。

 もしかして返り討ちに遭った?


「様子見に行く?」

「そうだな。余りにも遅い」

「じゃ私とねねで見に行ってくる。シャルはリューナとここに居て」

「わかった。気を付けろよ」


 二人で再度洞窟に入り奥に進む。

 殆どの盗賊は奥に居るのだろう。人っ子一人出会わなかった。


「確かこっちだっけ?」

「違う。こっち」


 記憶を頼りに(主にねねの)奥に進む内に、剣戟の音が聞こえてきた。

 まだ戦っていたのか。意外と強いやつが居たのかな?

 あっ、やっぱり私はこっちの方が性に合ってる。

 慎重に、さらに気配を極力消して、音の出所に近付く。

 だんだん剣戟の音が強くなり、声も聞こえてきた。

 しかし、何かおかしい。

 聞こえてくるのは下卑た笑い声と、何かを焚き付ける声。その合間には、聞き覚えのある悲壮な呻き声と嗚咽。


「もう許してくれ……」

「すまない皆……」

「うっ、ぐっ、ぐすっ」

「貴様ぁぁ!絶対!絶対に許さない!」


 一際灯りが大きくなり、この奥が最奥だと私達に告げる。

 何が起こっている?

 ねねを後ろに下げ、慎重に部屋の中を覗き込む。

 そこは、百メートル四方は優にある広間だった。

 明らかに魔法の灯りと思われるランプが均等に壁に並んでいて、十分な光量を産み出している。

 その中心部には各冒険者パーティーが居た。

 しかし、動いているのはリーダーだけで、他の冒険者はピクリとも動かない。

 そして、不思議なことに、メトルとゴーシルが、リューリーとボッドが、互いに剣や魔法を交えていた。

 回りには二十人ばかりの盗賊が居て、その戦いを囃し立てている。

 その盗賊達の中心に、金髪を肩まで伸ばした女が居た。見たところ二十代前半で、口を歪ませニヤニヤと同士討ちを眺めている。


「おらおら!どうした!」

「とっととケリつけろよ!」


 何だこの状況?意味が分からない。

 操られているように見えるが、意識はハッキリとしているようだ。

 この間にも同士討ちは続いているので、ぼやぼやしてるとあの四人も死んでしまう。

 逃げるのも手だが、このまま見捨てるのはさすがに寝覚めが悪い。

 それに、盗賊が人を操る手段を持っているのも不味い。

 いつか回りめぐって、私達の前に来るかもしれない。

 しかし、対処法が分からない。

 私とねねが操られたら、リューナとシャルも危ない。

 魔法で直接狙おうにも角度が悪い。

 どうする?


「ねね、あれ抵抗力上昇(ブーストレジスタンス)で防げると思う?」

「わからない」


 だよねー。仕方ない。腹を据えるか!

 操られない根拠は少なからずある。

 私とシャルはAランク魔物のバジリスクの魔眼でさえ、素の抵抗力でレジスト出来る。

 そこに抵抗力上昇の魔法を掛けた状態の私を操れるなら、こんなとこで盗賊なんてしてないだろう。

 だから、レジスト出来るだろう。多分……。きっと……。

 う~。でもやっぱ若干怖い。

 ええい!女は度胸だ!


「私に無属性魔法を掛けて」

「大丈夫なの?」

「わからない。だから、まずは私だけが出る。私が操られたら直ぐに洞窟を出てリューナとシャルに知らせて」


 ねねより私の方が抵抗力が上だ。出るなら私だ。

 それはねねも分かっている。

 何か言いたそうな顔だが、私の表情を見て諦めたように溜め息を吐いた。


「絶対死んじゃダメだからね」

「善処するわ」


 目指すは中心の女だ。一気に片を付ける。

 屈伸をし、初めから最大脚力で飛び出す準備をする。

 幸いにも、中の盗賊は同士討ちの見学に夢中で、こちらに気付く素振りは無い。

 よし!行くぞ!

 弾丸が発射されるが如く、私は勢いよく飛び出した。


「なっ?!」「うお?!」「だ、誰だ?!」


 様々な困惑の声を置き去りにし、首領らしき女に肉薄する。

 驚いたままの女に向かい刀を突き刺そうとするが、その目前に横に居た盗賊が割って入る。

 くそ!仕留め損なった!


「あら、まだ冒険者が居たんだ」


 盗賊を一人倒したが強襲がばれた。

 再度斬りつけようとするが、女の前にずらっと盗賊が壁になって並び、こちらに殺意を向ける。

 忠誠心凄いな。


「あれ?一人で来たの?」


 女の質問に無言で返し睨み付ける。


「何してんだ、くっ、早く逃げろ!」


 メトルがゴーシルと斬り結びながら私に逃亡を促す。

 ゴーシルはもう倒れそうな程疲労して、声も出ないようだ。


「貴方名前は?」


 何故ここで名前を聞く?

 私の頭に某法師が旅をする物語が浮かぶ。


「……フラン」


 女の口角がツーっと上がり歪んだ表情を作り出す。


「我に逆らいし愚かなる者フラン!我に害意を持つことを禁じる!」


 女が真紅の瓢箪を高々と掲げると、光輝き魔力が迸る。


「うふふ。これで貴方は私に攻撃出来ない。どう?感情と体が切り離された気分は?逃げられと面倒だから。フラン、ここから逃げるのを禁じる」


 なんか微妙に効果が違うな。っていうか赤い瓢箪って。まんまじゃん。

 既に女は勝利を確信しているようで、無防備に近付いて来る。

 さてどうしようか?他の冒険者を盾にされたらキツいし。

 解除させることは出来るのか?

 そんな描写あったっけ?覚えてないな。


「これの効果を知った者は絶対生かして帰せないからねぇ。死んでもらうのは決まっているけど……。お前達、この女で遊んでいいよ」


 随分勝手なことを言う。


「いやっほ~い!」

「姉御話が分かる!」

「綺麗な顔してるねぇ。これが歪むのを見るのが楽しみだぜ!」


 取り敢えず瓢箪を壊すか?解除方法を喋るとは思えないし。

 今操られてる冒険者に私の名前を聞かれるのも不味い。言った覚えはないが、私達の会話を聞かれた可能性はある。

 只管考えに没頭する私に女が喋りかける。


「どうしたの?絶望して声も出ない?」


 あっ、喋っていいのか。


「何なのそれ?」

「凄いでしょ。相手を操れる魔道具よ」


 それは分かってるよ。


「解除出来るの?」

「そんなこと喋ると思う?もう貴方はお・わ・り。ここに居る男共に壊れるまで犯されて死になさい。クックックッ」


 よし!取り敢えず壊そう!

 他の冒険者には悪いが、私が操られる可能性を消しとこう。そうしよう!

 目の前に掲げられた瓢箪を一刀にて真っ二つにする。


「キャッ?!」


 ガッシャーン!


 女が思ったより可愛い悲鳴を上げる。

 そして、瓢箪が地面に落ち、大きな音を立てて砕け散る。


「えっ?」


 ぽかーんとする女と盗賊。


「な、何で?!」

「答えは簡単。さっき言った名前は本名じゃないからよ」

「なんでこの魔道具のこと知ってるのよ?!」

「そんなこと喋ると思う?もう貴方はお・わ・り」


 まだ諦めてないのか、盗賊共に私を殺すように命令する。


「お前達!殺せ!」

「『火炎球』」


 私に殺到しようとしていた盗賊に燃え盛る炎が襲い掛かる。

 リューリーの攻撃魔法だ。

 洞窟で火の魔法使うなよ~。酸欠になったらどうするんだ?

 リューリーが皆に回復魔法を掛け、四人がゆっくりこっちにやって来る。


「お前らは絶対に許さない。全員殺す」


 メトルの目が逝っている。


「さすがの私も堪忍袋の緒が切れました」


 リューリーの顔にあの笑顔はもう無い。


「俺の仲間をよくも……。よくもおぉぉおお!」


 ボッドの絶叫が広間に響き渡る。


「……」


 無言のゴーシル。一番怖いな。フルプレートで表情見えないし。

 どうやら、瓢箪を壊して正解のようだ。

 正確な解除の条件ではないかもしれないが、自由に動けるようになったらしい。

 よかった。よかった。

 逆によくないのが盗賊一味。四人の迫力にガクブルしてる。


「ひっ、ひいぃぃ。た、助けて」


 助けるわけないよな。ご愁傷様。

お読みいただきありがとうございます。

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