盗賊退治
よろしくお願いします。
ロストマイン領を抜け、私達は王都に向かい馬車旅を続けていた。しかし、私達は重用な事を忘れていたのだった。
女四人で旅をするとこうなるということを……。
「お嬢ちゃん達俺達の塒で「『火炎球』」
「運が悪かったなお嬢「斬!斬!斬!」
「へへへっ、いい獲物が通「『黒い雨』」
「ここを通りたければ「シャル任せた」
もういいよ!あ~き~た~よ~!
私とねねは、シャルとリューナが盗賊の相手をするのをボーっと見ていた。
「くっ!」
「お嬢ちゃんのわりには中々やるじゃねーか」
盗賊が三日月刀を横凪ぎに振るい、リューナが短剣にて受け止める。だが、力負けしているのだろう。徐々に押し込まれる。
リューナはそこで、力に逆らわず体を引き、短剣にて三日月刀を滑らせ流す。
思わずたたらを踏み、蹌踉ける盗賊。
「ととっ?!」
リューナはそこを見逃さず短剣を振り、腕を傷付ける。
「ぐっ?!」
腕を押え後ろに下がる盗賊。そこに、
「『風斬』!」
横から強襲しようとした盗賊の頭を、風の刃が通り抜ける。
真夏の水瓜みたいに真っ二つに割れる頭。
「皆気を付けろ!こいつら魔法を使うぞ!」
後ろを振り向き仲間に注意を促す盗賊。しかし、彼は気付いていなかった。彼以外の盗賊は既に事切れていることに。
言葉を無くし、突っ立っている盗賊の頭に、リューナの水槍が突き刺さる。
「お疲れ様」
「大分魔法の発動が早くなった」
最近のリューナは強くなることに貪欲だ。
私とシャルに近接を習い、ねねと共に魔法の練習をしている。
「もうすぐアスメラの町ですね」
「ていうか盗賊の事忘れていたねぇ」
「リューナの訓練にもなるから別にいいんじゃねーか?」
「それでも限度がある」
昼過ぎにはアスメラの町が見えてきた。
門に赴き、門番に冒険者の証明書を提示する。
「お嬢ちゃん達か。依頼は上手くいったのかい?」
私は覚えていないが、門番は私達のことを覚えているようだ。
「ええ、まぁ」
「それは良かった。この町でゆっくり疲れを癒してくれよ」
「よく私達のこと覚えていたね」
王都と比べると確かに規模は小さい。それでも、町を出入りする人は掃いて捨てるほどいるだろうに。
記憶力よすぎだろ。
「そりゃCランクで女の子だけのパーティーなんて珍しいからね」
「そうなの?」
「そうだな。女性で強いやつは殆ど騎士団を希望するからな」
だから舐められるのか。騎士団に入れないから冒険者をしていると思われてるのか。
門番に別れを告げ、大通りに向かいゴトゴトと馬車を進める。
買い食いの誘惑に抗いながら、どうにか宿に着く。
久々のベッドだぁ。
ボフっとベッドに飛び込みその柔らかさに身を委ねる。
「イチ、だらけてないで買い出しに行きますよ」
「は~い」
リューナに怒られた。
リューナって日本に生まれていたら絶対学級委員やってただろうなぁ。
眼鏡を掛けて金髪の三つ編みをしたリューナ。
ありだな。何が?と聞かれても困るが。
買い出しを終えたが、夕食までに時間があるので、冒険者組合に足を向けることになった。
「盗賊対策どうする~?」
「難しいな。安易に護衛を雇うわけにはいかないしな」
「だよね~」
盗賊もそろそろ分かるだろうに。この女四人組はマズイぞ!って。
横の繋がりとか無いのかな?
あそっか!私達が全員喋れなくしてるんだ!
「思ったんだけどさ、次から盗賊何人か見逃さない?」
「賛成出来ないな。そいつらが他の旅人襲ったら目も当てられないぞ」
そっかぁ。いい考えだと思ったんだけどなぁ。
下手したら王都周辺まで盗賊に付き合わないといけないかも。
結局盗賊対策が何も思い付かないまま冒険者組合に着いた。
スイングドアを勢いよく開け放って中に入る。
最初が肝心!舐められないように!でも睨んだら逆効果だから無表情で!
「あれ?」
折角ヤンキー冒険者対策をしたのに、誰も私達を見ていなかった。
何やら掲示板前に集まっている。
「何かいい依頼があったようですね」
「見てみようよ」
掲示板に向かうが、人が多すぎて見えない。
邪魔だ。ねねの魔法でぶっ飛ばしたい。いや、しないけど。
「シャル、見える?」
「ちょっと待て」
ここは一番筋肉。違った。一番背の高いシャルに任せよう。
「どうやら盗賊退治の依頼みたいだな」
「取り敢えず詳しく話を聞きましょうか」
なんてタイムリーな依頼だ。
受付のお姉さんに話を聞こうとしたのだが、当然こっちも人がいっぱいだ。
「盗賊退治の依頼内容はこちらの羊皮紙に詳しく書いてあります!受ける方はこちらを読んでから受付に来てください!」
一段落するまで待たないとダメかと思ったが、組合も分かっていたのだろう。別の羊皮紙に詳しい内容が書いてあった。
なになに。
☆★☆
ここアスメラの町周辺には、幾つかの盗賊団が居るのは皆承知だと思う。
しかし、捕らえた盗賊の自供により、あることが判明した。
最近活動に出た団員が帰ってこないことが増え、団員の数が著しく減っているらしい。
そして、残った団員が集まり、一つの盗賊団を作り、その塒の場所がある伝手にて判明した。
これを盗賊を一掃する好機と見たドート商会と領主様が、合同で盗賊退治の依頼を出された。
募集するパーティーの数は決まっていないが、皆奮って参加してほしい。
尚、希望パーティー多数の場合は上位のランクの冒険者パーティーから採用するものとする。
☆★☆
ありゃ、これって。
「私達が盗賊殺しすぎた?」
無言で頷く皆。
そりゃ、あれだけの盗賊薙ぎ倒したら数も減るわな。
「受ける?」
「悪い依頼では無いですね」
「盗賊一掃したら旅も楽になるだろう」
「複数パーティーの依頼のわりには報酬も悪くない」
受付に行き、盗賊退治の依頼を受ける旨を伝える。
証明書を見せた時にお姉さんは驚いた表情を見せるが、すぐに表情を戻し対応してくれた。
「はい。これで『魔女の尻尾』の皆様の受付は完了しました。でも、女性のパーティーが依頼を受けてくれて助かりましたよ」
「ん?何で?」
「あ~、言いづらいのですが、盗賊団の塒には捕まった女の人が居る場合が多いのです」
なるほど。これもテンプレだよね。
男性だけじゃやりずらい場面があるか。
皆もそれで分かったのか、微妙な表情をしている。
「では、明日の朝八時に西門に集合してください」
本来なら受付終了まで採用確定ではないのだが、私達は女性パーティーということで採用が確定した。
宿に戻る途中にふと思い、シャルに聞いてみる。
「でもこういうのって騎士団が出るんじゃないの?」
「塒が森にあるからじゃないか?騎士団は平原で強味を発揮するだろ?後、最近魔物が増えてるのも関係しているだろう」
「お金を出すところもあったみたいですしね」
ドート商会だったか?
なんか蛙に似た人がやってそうだな。
宿に戻り、夕食を摂りながら、最近『魔女の尻尾』のマイブームである魔法談義に花を咲かせる。
「だからね、氷というのは水の分子が運動を……」
「ちょっと待ってください。ぶんしの運動って何ですか?」
「あっ、そっからか。えっとね。体を動かすと熱くなって、止まると冷えるでしょ?それと同じことが水の中でも起こっているの」
一応納得したのか頷くリューナ。
「だから、氷槍は水槍の分子の運動が弱まるイメージ」
ねねはそう言ってコップの水を凍らせる。
かっちょいいな。私もやりたい。
「分かったような、分からないような。イチとネネは元の世界では学者様だったのですか?」
「まさか!ねねはどうか知らないけど、私はただの学生だったよ」
「市がただの学生かは置いといて、私も学生だった」
逆に学者ならもっと解りやすく説明出来たのかな?
それより、ねねの中で私はどんな扱いなんだ?
「二人共商人でもないのに計算早いですしね。想像も出来ない世界から来たのですね」
「う~ん。説明が難しいな。私達ぐらいの年齢の子供は、皆これぐらいは理解してると思ってくれたらいいよ」
「話がずれてるぞ。魔法の話をしてくれ」
シャルも私達の魔法談義をよく聞いている。
なんでも、魔道士と戦うには魔法を理解してるのが重用なんだと。
さすが脳筋。戦いに関する話は大好きなんだな。
夕食を食べ終わり、続きは部屋で!の前にお風呂に入らなきゃね!
私がテンションアゲアゲで皆を誘ったのに、
「イチとは一緒に入りませんよ」
リューナが拒否った。
えっ?!何で?!いぢめ?!
「そんな世界の終わりのような顔をしないでください。体に触らないと約束してくれたら一緒に入りますよ」
なんか合コン帰りの男女みたい。
手も触らないから!お茶飲んだらすぐ帰るから!
押すなよ!押すなよ!
私はリューナに嫌われるようなことはしないよ!たぶん。きっと。
「分かったよ~。もう弄らないから~」
「その言い方がすでにエロ親父」
うっさいねね。
何とか一緒にお風呂に入ってもらい、後は眠るまで魔法談義に花を咲かせた。
翌日西門に着いた時には、既に何組かの冒険者パーティーが先に来ていた。
若干訝しげな表情でこちらを見ている。
そして、後に続くように来た態度のデカイ冒険者パーティーに絡まれた。
「あん?何で女のパーティーが居るんだよ。足手纏いじゃねーか」
ぷちっ。
「あんたそんなこともわからないバカなの?」
「んだと!もう一回言ってみろ!」
「あんたそんなこともわからないバカなの?」
リクエスト及び大事な事なので二回言った。
あっ、ピクピクしてる。
「この町で俺にそんな口を利くやつがいるとはな……」
いや、あんたのことなんか知らないし。
「メトル、その辺にしときなよ。ダメだよ。女の子には優しくしないと」
次は妙に爽やかなのが現れた。
メトルが舌打ちをしながら自分のパーティーに戻る。
「僕はリューリー。今日はよろしくね」
「はぁ。よろしく」
リューリーのパーティーと挨拶をしていると、ドート商会の使いの人がやって来た。
別に蛙には似てなかった。そりゃそうか。
これで全員なのかな?
私達のパーティーを入れて、五組のパーティーが今回盗賊退治をするパーティーのようだ。
「本日は依頼を受けてくださりありがとうごさいます。ではまず、各パーティーのリーダー会議を行いたいと思います」
「けっ!そんなのは必要ないだろ」
「そういうわけには参りません。各パーティーの仕事の割り振りもありますので」
またもや舌打ちをするメトル。沸点低いなぁ。
それより、リーダー?
「そういえば、うちのリーダーって誰?」
『……』
無言かよ!誰がリーダーなんだよ!
「私やろうか?」
『それは絶対に無い』
ちょ?!ハモらなくても。
自分でも向いてないとは思ってるけど。
「リューナでいいんじゃないか?」
「私ですか?」
「問題無い」
まぁ、今までリーダーがやるようなことはだいたいリューナがしてたもんね。
私が頷いたのを見てリューナも納得した。
「分かりました。では行ってきます」
念の為リューナの後ろに控えとく。
舐められないようにしないとね!
「メトル。ちゃんと自己紹介するんだよ」
「分かってるよ。依頼主の要望だからな。俺は『三眼の剣』のリーダーをやってるメトルだ」
「僕は『金色の雫』のリーダーを務めているリューリーです。よろしくね」
メトルは正しく剣士という装いで、二本の剣を左右の腰に差していた。
何かの動物の皮を鞣した軽鎧が、速度重視のスタイルだと言外に告げている。
そして、苦虫を噛み潰した表情でこちらと言うより私を見ている。
根に持っているのか?それともこれが地顔か?
対してリューリーは正しく魔道士という装いだ。
ローブを羽織り、杖を携えニコニコと笑っている。但し、そのローブは目も覚めるような金色だ。
何かの魔道具なんだろうな。
二組共Aランクパーティーだそうだ。
「『蛇』のリーダーのボッド」
「自分は『トライセル』のリーダーをやっているゴーシルと言います!よろしくお願いします!」
ボッドは盗賊みたいな格好をしていて、ここで会っていなければ、あっちで敵と勘違いしそうな装いだ。
リューナを見てニヤニヤしてる。キモイ。
ゴーシルはこちらも対照的で、いかにも真面目な感じだ。
今は兜を外しているが、フルプレートを着て、背中に大剣を背負っている。
暑そう。及び熱そうだ。
こちらは共にBランクパーティーだそうだ。
「私は『魔女の尻尾』のリーダーでリューナと言います。以後よしなに」
これで一応の自己紹介は終わった。
次は仕事の割り振りになるのだが、私達は捕らわれた女性の救出という仕事がもう決まっているので、ここでハブられた。
一番最後に塒に入り、勝手に探しとけってよ。
「まぁ、いいじゃねーか。楽だろ」
「でも今一納得できない」
ねねが珍しく文句を言っている。
気持ちは分かる。あいつらめっちゃこっちを下に見ているしね。
釈然としないまま、盗賊の塒に向かって歩き出した。
お読みいただきありがとうございます。