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幕間-2

よろしくお願いします。

 ワガル帝国の帝都カルザール。その中央に皇帝が住まう帝城がある。

 珍しい魔物の革を使ったソファー。その前にある机も高級木材を使用している。豪華絢爛な部屋なのだが、そこの主は些か落ち着きが無い。だだっ広いベッドの端に腰掛け、イライラと貧乏揺すりをしていた。

 端正な顔をした青年なのだが、今はその顔も余裕が無いようだ。

 そう、ルーンザール皇帝は焦っていた。

 いつも啀み、睨み合っていたスヴァイル王国が、勇者召喚に成功したらしいと報告が上がってきたからだ。

 勿論直接聞いた訳ではない。スヴァイル王国に潜り込ませている者からの情報だ。

 このまま帝国を抑えに来るだろうか?

 勇者はどの程度の強さなのだろうか?

 彼の者に調査を頼んでいるがどうなっている?

 ここ数日皇帝らしからぬ態度なのだが、別に皇帝が愚鈍なわけではない。どちらかと言うと優秀な方だろう。

 幼い頃より帝国主席魔道士から教育を受け、魔道士としての才覚は無かったが、獣族とも上手くやる頭も培ってきた。

 しかし、それでも此度は動揺せずにはいられない。何せ六百年前にも行われた勇者召喚なのだから。

 コンコンコン。と扉がノックがされる。

 ビクッと体を震わせるが、息を整え誰何の声を掛ける。


「リュカか?」

「左様です陛下」

「入れ」


 扉が開かれ少年が入って来た。肩まで伸ばされた金髪は、絵に書いたように煌めいていて、青い眼はしっかりと皇帝を見据えていた。


「部下が戻って来ましたので報告を」

「うむ」


 ゆったりと余裕を持っているように頷く皇帝だが、内心は違う。

 ワガル帝国に害を為すのか為さないのか。

 皇帝は心の中で大量の汗を流していた。


「部下を部屋に入れて宜しいですか?」

「ほう。リュカの直属の部下など初めて見るな」

「此度のことは見た者の話を直接聞いた方が陛下も安心できると思いまして」

「よかろう」

「藤吉郎入れ」


 扉が再度開かれ黒のローブを纏った男が部屋に入って来た。

 年令は二十代前半ぐらいの黒髪黒目。髪は何故か逆立っており、どの様な油を使えばそうなるか想像もできない。


「お初に御目にかかります陛下。墨俣藤吉郎と申します」

「うむ。報告を」

「はい。まずはスヴァイル王国にて勇者召喚は確実に行われました」

「確かか?」

「はい」


 皇帝はどこか間違いであってくれたらいいのにと思っていたが、見事にその理想は砕かれた。

 しかし、ここで思考を停止してはいけない。

 しっかりと対応していかなければならない。

 こちらも勇者召喚をすればいい。という意見はあるのだが、それは出来ない。主席魔道士が頑なに反対しているのだ。

 勇者召喚が成功したとしても、主席魔道士を失なっては意味がない。


「召喚されたのは二人の少女。剣士と魔道士です」

「少女?女なのか?」


 顔には出さずに舌打ちをする。

 男なら色仕掛けが出来るが、女ではこちらの手が一つ自然に潰される。


「して、どの様な人物なのだ?」

「剣士の名前は市。よく言えば天真爛漫、悪く言えば短慮です。しかし、戦闘に関しては冷静に対処します。魔道士の名前はねね。無口で表情があまり変わりません。しかし、仲間には素直に感情を表すそうです。二人共別段目立ったことをせず、着実に冒険者として経験を積んでいるようです」


 厄介だな。王国と反目してくれればいいものを、特に不満は無いみたいだ。

 こちらに引き入れるのは難しいか。


「実力の方はどうだ?」

「噂程度ですが、剣士は王国剣士シャローンと同等。魔道士は帝国主席魔道士と同等。だと」

「チッ」


 今度は実際に舌打ちをした皇帝。隠し切れない不満が表情に表れていた。


「帝国に牙を剥く可能性はあるか?」

「今のところは無いと判断いたします」

「何故だ?」

「彼女等は冒険者パーティーを組んでいるのですが、一緒に組んでいるのが王国第二王女のリューナと近衛騎士隊長のシャローンなのです」

「何だと?」


 これには皇帝も開いた口が塞がらない。何を考えている?何のメリットがある?

 確かにあの二人と心根を共にしていれば、帝国に悪い感情は起きないだろう。

 しかし、確実に帝国に引き入れるのは無理になる。これがメリットと言えばメリットだが。


「現状は放置が無難かと」

「そのようだな」


 下手に藪をつついて蛇を出すことはない。


「下がってよい」


 幾分ましになった表情で皇帝は退出を促す。


「失礼します」


 二人は退出し、誰も居ない廊下を歩く。


「フーノ村の転生者なのですが」

「ふむ。あれはもう大丈夫だろう。監視を解いていいぞ」

「分かりました」


 ローブの男が去り、少年は自室に向かう。


「まったく。勇者召喚など面倒臭いことしやがって。変な奴が力持ってこっちに来たらどうするんだ」


 そして、独りごちて少年は部屋へと入っていった。



 ☆★☆



 ローエン王国の王都タンブルンにある王城にて、その若い貴族は重い気分を引摺り会議室に向かっていた。

 最近台頭してきた貴族なのだが、ここのところ国王の癇癪に辟易としていた。


「やっぱり貴族なんてなるもんじゃないよな」


 元は小さな領主の三男坊だったのだが、妙な知識と類稀なる魔力総量があったので、すぐに兄を越える逸材と見出ださる。そして、あれよあれよという間に当主に祭り上げられた。

 頭もある程度回り、妙に腰が低いので、国王から信頼を得るまでにもなっている。

 今回の会議の問題も、ある伝手を使ってすでに回答を得ている。しかし、


「言いたくないなぁ」


 ぶつぶつと文句を言いながらも、しっかりと時間通り会議室に入る。若い貴族の真面目ぶりが垣間見える行動だ。

 会議室には既に何人かの貴族が来ていた。


「遅れて申し訳ありません」


 チクチクと嫌味を言われるが、のらりくらりとかわし、国王と他の貴族の到着を待つ。

 待つ間も、若すぎるから仕来たりがどうとか、跡継ぎは長男が相応しいなど。一部の貴族からしか言われないが、嫌味の嵐だ。

 いい加減若い貴族の額に青筋が浮かび始めた頃、


「どうなっている?!」


 国王は扉を開け放ち、そう言いながら入室してきた。

 怒号に包まれる会議室だが、貴族達は慣れたもので聞き流していた。

 今ローエン王国はある問題が持ち上がっている。

 この国は他の二国に比べると、何故か魔力総量の大い人間が多く生まれる。

 それ故に平民からも騎士に取り立て、軍備に力を入れ、亜人や他国に強制外交を強いてきた。

 なのに最近妙にスヴァイル王国が強気なのだ。

 食料をスヴァイル王国の輸入に頼り、自国の生産性を高めなかったツケが回ってきている。

 今はまだいいが、このままならいずれ行き詰まる。


「誰ぞ何かわからぬか?!」


 そろそろいい年をした壮年なのだが、子供のように癇癪を起こしている。

 国の軍事力が強いからなのか、ローエン王国は歴代短慮な王様が多い。ラクスス国王も例に漏れずその中の一人だ。


「噂なのですが……」


 一人の貴族が恐る恐る手を挙げ、他の貴族が勇者を見るようにその若い貴族を見つめる。


「よい!申してみよ!」

「どうやらスヴァイル王国は勇者召喚に成功したらしいです」

「なんじゃと?!」


 国王はさらにいきり立ち、進言した貴族は身を震わせる。

 御愁傷様とばかりの視線が若い貴族に注がれる。


「何かいい手はないか?」


 再び無言になる貴族達。強制外交ばかりしていたからか、頭の回る貴族が少々少ないのだ。


「そうじゃ!こっちも勇者召喚したらどうじゃ?!」


 勇者の実力を探ろうなどの頭脳戦略ではなく、力には力!がなんともこの国の国王らしい発想だ。

 ええ~、と顔を歪める貴族達だが、そんなことには頓着せずに国王は尚もいい放つ。


「よし!ではツォーグ男爵を中心に勇者召喚を進めるのじゃ!」


 進言した若い貴族に無理難題を吹っ掛ける。

 この国王は分かっていない。勇者召喚がどれ程難事なことになるのかを。

 スヴァイル王国は昔の伝承を頼りに何とか成功させたが、この国にそんな伝承が残っているとは思えない。

 そもそも、スヴァイル王国でも、可能かどうかはやってみなくては分からなかったのだし。それに、勇者召喚の仕方などそう簡単に教えてくれるとは思えない。


「わ、私ですか?!」

「そうじゃ。よろしく頼むぞ!期待している!」

「は、はぁ。分かりました」


 うんうん。と頷きながら自室に引き揚げる国王。

 後には微妙な空気の貴族達。


「大変ですな」「頑張ってくだされ」「いい胃薬が手に入ったので今度送ります」 「ツォーグ男爵ならいつもの機転で何とかなる」


 次々と勝手なことを言い、会議室から出ていく貴族達。その表情は何処か慈愛に満ちていたが、誰も手を差し伸べるつもりは無いようだ。


「えっ、ちょっと、何方か手伝ってくないのですか?!」


 その若い貴族の声は皆聞こえているが、聞こえないふりをして行ってしまう。


「ええ~、マジか~。あの人それに関しては教えてくれないんだよな~。ちゃんと生産性上げてればこんなことにならないのに。そもそも、外交の仕方がおかしいんだよ……」


 そして、独りごちて自分の館に引き揚げる貴族だった。

お読みいただきありがとうございます。

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