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魔族について

よろしくお願いします。

 昼を少し回った頃領主館に着いた。

 先程魔物の大暴走があったとは思えない平穏さだ。


「お帰りなさいませ」


 庭の手入れをしていたメイド長が挨拶をしてくれる。


「ただいま。何があったか聞いてる?」

「はい。念の為、奥様とお嬢様の避難の準備をしていてくれと」

「取り敢えずもう落ち着いたから大丈夫だよ」


 そう言い自分の家のように堂々と領主館に入る。

 さすがに慣れた。

 そのまま貴賓室に向かおうとしたが、ローラがすんごい勢いでやって来た。


「お帰り~!ねぇねぇ!魔物の大群が来たって本当?!」

「本当だよ」


 ローラは何がそんなに嬉しいのか目をキラキラさせて見つめてくる。

 一歩間違ったらこの街が危なかったっていうのに、度胸があるというか何というか。


「あれ?リューナ様は?」

「リューナはまだ戦場に居て騎士達の傷の治療しているよ」

「ふ~ん。話を聞かせて!」

「いいよ。じゃ一緒に貴賓室行こうか」


 そのままローラを伴って貴賓室に向かい、今日の出来事を話の種にしながら、メイドが淹れてくれたお茶を飲む。


「ねねさんは今回どんな魔法使ったの?」

「騎士達が一斉に魔法使ったんだよね?」

「魔族に止め刺したのってどんな魔法なの?」


 止めは刺してない!あえて言うなら私の刀だ!

 くそ~!ローラは相変わらず魔法好きだな。


「市、又顔がやばい」


 おっとイケナイイケナイ。って顔がやばいってなんだ?!


「ローラは魔法が好きだね。やっぱりお父さんの影響?」

「違うの。お父様は私には見せてくれない。それより礼儀作法を覚えなさいって」


 顔を振りながらうんざりしたように答える。

 貴族の方々も大変なんだね。


「わかってるんだよ?私は冒険者になんてなれないって。魔力もそんなに多くないし。だから、話だけでも聞きたい!」


 そっかぁ。封建社会だけど、そういう理不尽な差っていうのもあるもんな。

 魔力総量は遺伝しないみたいで、突然変異みたいにいきなり魔力総量が多い人間が現れるらしい。

 だとしたら、魔族にも魔力総量少ない突然変異とか居るのかな?

 因みに獣人やエルフなどはどんな感じか聞いていない。

 テンプレでは、獣人は魔法苦手で、身体能力がすごい私タイプ。エルフは逆のねねタイプ。ってとこなんだけど。

 なんだかんだローラと話をしていると、リューナが帰ってきた。いつの間にか三時間も喋っていたな。


「お疲れ様」

「皆さんもお疲れ様です」


 魔法を使い過ぎたからか、気怠げなリューナだ。

 なんか色っぽいな。


「伯爵様は?」

「すぐ来ますよ」


 その言葉通り直ぐ扉がノックされ、伯爵様が入ってきた。


「ここに居たのかいローラ。今から皆さんと大事な話があるから母さんの所に行ってなさい」

「は~い。お父様」


 ローラは素直に部屋を出ていく。いい子だなぁ~。


「では今日について分かっていることを纏めましょう。まずは鉱山の調査の為、軍を召集している時に魔物の大暴走が起きた」

「魔族が言っていたけど、元々街を襲うつもりで魔物を集めていた。だけど、マンティコアが居なくなり魔物が制御出来なくなった」

「そんな話聞いたことがありません」


 リューナの言葉通り、伝承にもそういったことは伝わってなかった。


「鵜呑みにする訳じゃないけど確かに言ってたよ。僕がマンティコアに頼んだ。と」


 魔族の言葉全てを信用してはいけないが、あのバカっぽい感じからして嘘はついてなさそうだった。


「嘘をついてる雰囲気はなかったな」


 シャルもそこには同意のようだ。


「でも重要なのはそこではないですね。いや、それも大変ですけど、見た目中級の魔族が結界を越えてここに居たことの方が喫緊の問題ですね」

「それについては推測出来てる」

「本当ですか?!」


 頷く私とねねとシャル。推測と言ってるけどほぼ正解だと思う。


「鍵はあの指輪」

「ああ、何故か指輪に執着してたね」


 少し離れていた伯爵様だが、それは理解していたようだ。


「恐らくあの指輪は魔道具か何かで、自身の魔力を抑えるか封じる役目があるのだと思う」

「そうだな。それならあのちぐはぐな強さも納得がいく」

「なんと……。そんな魔道具が……」


 勿論人間の国にそんな魔道具は無い。私が知らないだけかもしれないけど、聞いたことも無い。それは伯爵様もリューナも同じようだった。


「それで結界を越えたか」

「多分。更に結界が弱まってなければ」


 人間の国を覆っている結界は、別にあらゆる物体を弾いているわけではない。当たり前たが。そんな結界なら雨粒すら入ってこれなくなる。

 実はこの結界は、魔力の多寡にて弾くか入れるかが決まるらしい。今は概ね、BランクとCランク魔物の間ぐらいの魔力総量までなら通れるみたいだ。

 これは私達が召喚された理由にもなっている。

 このままならいずれAランク以上も通れるようになってしまう。そうなってからでは遅いので、先に勇者を召喚しよう。という話し合いの結果、私達の召喚が行われた。


「魔族が厄介な物を見つけたか作ったかした可能性が高い」


 ねねの言葉に皆一様に押し黙る。


「でも、そんなに自由に魔力を上げ下げ出来ないんでしょう」

「何でそう思う?」

「それが出来るなら始めから指輪外して私達と戦えばいいから」


 あっ、と小さい声がねねから漏れる。

 どこぞの漫画じゃないんだから、態々弱体化したまま戦わないだろ。


「恐らく何らかのデメリットがあるはず。それを聞く前に逃げられたけどね。だから、よっぽどのバカか、人間を死ぬほど見縊ってない限り……」

「どうしたの?市」

「いや、言っててどっちもあるかも。って思った。まぁ、これは決めつけない方がいいね」


 つくづく逃げられたのが痛い。


「あのコカトリスは何処から来たんだろ?」

「あ~。騎士に聞き取りしたんだが、普通に鉱山からやって来たらしいよ。騎士を無視していたからこちらも手を出さなかったみたいだ」


 だから騒ぎになってなかったのか。しかし、最後の切り札にも見えなかったな。

 あんなのが居るなら最初から出すだろ。


「もしかしたらもう一匹魔族が居たかもね」

「コカトリスを使ってあの魔族を助けた?」


 ねねの言葉に無言で肯定の意を示す。


「あまり考えたく無いね」


 そうなるともう一匹は非常にやっかいそうな魔族だ。あんなに見事な引き際を見せた魔族が盆暗とは思えない。

 因みに直に見てないリューナには、いちいちシャルが説明をしている。

 会話に参加してないけどちゃんと真面目に聞いている。さすがだ。私なら寝てる。


「中級以上の魔族が、一匹もしくは二匹イスルス山脈に居て、ここランドルスを襲う計画があったってことか」


 堪らないな。と呟きながら伯爵様は天井を見上げ、騎士を増員する計画を立て始める。


「二匹居たとしても連携が取れていない。が、仲間意識かは不明だけど助ける気概はある」

「あの指輪がどれだけあり、どの程度使えるかの問題もある」

「それは考えても無駄だろ」


 伯爵様が一人の世界に旅立ってる間も、私とねねとシャルで話を進める。

 何と言っても中級以上の魔族に会ったのは、この国では私達が始めてだ。

 対策を練る為の数少ない情報だからしっかり纏めないと。

 纏めてるのは書記のメイド長だけど。


「そろそろ食事の時間ですね」


 議論がほぼ出尽くしたところで、食事の為に食堂に向かう。

 食堂にはミエルさんとローラが居て、一緒に食事をとることになった。


「リューナ王女殿下。今日の出来事及び考察は早馬にて王都に送っておきます。その中に、ロストマイン領の騎士を増員することも入っています。お口添えしていただけますか?」

「分かりました。当然だと思います。お父様も反対はしないでしょう」


 実は勝手に領主が騎士を増やすと、王都の貴族や王族達がいい顔をしない。

 理由もなく騎士を増員すれば、反乱の兆しと受け取られてもおかしくないからだ。

 貴族様は大変だねぇ。


「でもイチちゃんもネネちゃんも想像以上だったよ。Sランク魔物を倒したのも伊達じゃないね」


 食事をしながら伯爵様が漸く何時もの調子に戻り、貴族スマイルを向けてくる。


「いいなぁ、お父様」


 ローラが口を挟む。そんなこと言ってると又怒られるよ~。


「久しぶりに血が騒いだよ。特にネネちゃんの魔法!あんな凄い火の魔法は初めて見た!」


 またか!まさか伯爵様も魔法びいきか?!

 シャルが哀れんだ視線を向けてくる。

 あんたも剣士でしょうが!


「仕方ねーよイチ。それだけ凄腕の魔道士は少ないんだよ」

「ううぅぅ。同じ勇者なのに~」

「市、ドンマイ」


 やかましいわ!あんたが言うな!


「イチちゃんも凄かった?よ!見えなかったけど……」


 伯爵様が慌てて私を誉めてるようなよくわからないことを言う。

 何故に疑問系?フォローになってない!


「見えない時点で凄いんですけどね」

「リューナ~!」


 よしよしと私を撫でてくれる。

 リューナの優しさに全私が泣いた。


「ごほん!ところで皆様はいつ頃王都にお戻りに?」


 誤魔化すように伯爵様が話を変える。

 あんたの言葉が切っ掛けだけどね。


「そうですね。明日直ぐにでも帰ろうと考えてます。皆もそれでいいですか?」


 手紙を送ってるにしても、実際に見た者の話を聞くのも重要だろう。

 特に私達に文句は無いので、リューナに対して頷く。


「ではこれを冒険者組合に」


 伯爵様からリューナに一枚の羊皮紙が渡される。

 ロストマインの封蝋がしてあるようだ。


「これは?」

「『魔女の尻尾』が、ここランドルスで行ったことを書いておきました。当然私の名前で」


 何でそんなことを?と首を傾げる私達。


「そんな不思議そうな顔をしないでください。マンティコアを倒すような冒険者パーティーがCランクではおかしいでしょう。今回のも一応依頼という形ですからね」

「なるほど。では、ありがたく受け取っておきます」


 おお~。じゃランク上がるんだ。


「ねぇねぇ!Sランク倒したからSランクパーティーになるの?」

「いや、さすがにSは厳しいだろ。いいとこAじゃないか?」

「え~?!」


 ぶーぶーと文句を垂れてみる。

 異議あり!Sを倒せるならSだと思います!


「仕方ねーだろ。私達はまだ半年も冒険者してないんだぜ」

「信用がないと」

「リューナが居るからそんなことは言わないだろうがな。さすがに他の冒険者が煩い」


 私達はまだ依頼二つしか受けてない。しかも、内一つは身内仕事。これでランクが上がるんだから、他の冒険者は理不尽だと感じるか。

 力があればある程度の無理が通る。こういうのはどこの世界でも一緒だな。


「でも私がAランクですか……」


 リューナが複雑そうな顔をしている。


「リューナ、勘違いしているようだから言っておくが、リューナは十分すぎる魔力総量があるぞ。それはリューナが使う光魔法が証明している」

「でも皆さん怪我なんかしないじゃないですか」

「確かに今はな。だが回復があるのと無いのとでは、前衛に掛かるプレッシャーは全然違うぞ。それはイチも分かってるはずだ」


 うんうんと頷く私。


「そうだよ。怪我してもリューナが居ると思ってるから前衛で気兼ね無く動けるんだよ」

「リューナ、お前は立派な『魔女の尻尾』の一員だぞ?」

「そうそう。リューナが居ないと誰が市を止めるの?」


 ちょっとねね。それどういう意味?

 そのまんまの意味。って返ってきそうだから聞かないけど。

 リューナが俯き震えだし、絞り出すように声を出す。


「あ、りが、とうござ、います……」


 泣き出した!そんなに気にしてたの?!

 今度は私がリューナをよしよしと慰める。

 暫くリューナに胸を貸してあげた。あんまり無いけど……。あっ、私も泣きそう。


「もう……ひっく、大丈夫です……。ひっく」


 泣き止んだのか、リューナが私の胸から離れる。

 顔を上げ、真っ直ぐ私達を見つめたリューナは、少々目は腫れているがいつものリューナだった。そして、


「もう弱音は吐きません!自分に出来ることをやります!」


 握り拳を作り、力強く宣言する。


「いいパーティーですね」

「はい!」


 いい笑顔のリューナ。笑ってるリューナが一番いいよね。

 ほんわかした空気の中食事を続け、皆が食べ終わった頃にリューナが部屋に戻る旨を告げる。


「明日から長旅です。そろそろ就寝しましょうか」

「旅の支度は此方でしておきますので」

「お気遣いありがとうございます」


 それからお風呂に入り、今回の旅における領主館最後の夜を過ごした。


 翌日、朝早くの領主館の玄関には、大勢の見送りが居た。

 伯爵様が見送るのにメイドや執事がしないわけにはいかないのだろう。


「短い間でしたけどお世話になりました」

「いえいえ、此方こそ大した持て成しも出来ず申し訳ありませんでした」

「では」

「はい。お気を付けて」


 私達一人一人にも別れの挨拶をする伯爵様。

 マメだねぇ。

 昨日メイドさんが支度してくれた旅の荷物も馬車に乗せ終わり、いよいよ出発の運びとなった。


「はっ!」


 御者のシャルが馬に鞭を打つ。ゴトゴトと馬車が進み、領主館が離れ、見えなくなる。

 そのまま大通りに出て街の門に向かうと、私達が魔族を追い払ったのが知れ渡っているのだろうか、門番が最敬礼にて見送ってくれた。

お読みいただきありがとうございます。

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