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魔族との邂逅

よろしくお願いします。

 鉱山を調査する騎士達が、北の門にて身動ぎせずに待っていた。

 凡そ千人にもなる騎士が並んでいるのを見て、街の人々が驚きの声を上げる。事情を知っている者も中には居るが、殆どの人々が困惑していた。

 その中、騎士達の真面に立ち、今正に激励の言葉を述べようとする人物が居た。ガグル=フォン=ロストマイン伯爵様だ。


「騎士の諸君。急な召集にも関わらず、これだけの騎士が集まってくれたことを私は誇りに思う。さて、話には聞いていると思うが、騎士の諸君には本日鉱山の調査をしてもらうつもりだ。だが、今回の調査をただの調査と思わないでほしい。先日、ある冒険者のパーティーが鉱山にてSランク魔物に遭遇した」


 さすがに予想外だったのか、騎士達に動揺が拡がる。それが静まるのを待ち、伯爵様が喋り続ける。


「安心してほしい!Sランク魔物はその冒険者パーティーに既に討伐されている!」


 又もや騒がしくなる騎士達。

 至る所から、どこの冒険者パーティーかを推測する声が上がる。

 ここに居るよ~。言わないけどね。

 伯爵様が手を挙げ騎士を静める。


「しかし、鉱山にてSランクの魔物が居たことは憂慮すべきことだ。従って諸君らには、粉骨砕身で事に当たっていただきたい。私からは以上だ」


 伯爵様の話を聞き、表情を引き締めた騎士達が行軍の準備を終える。

 いよいよ出発する運びとなり、総指揮者が合図を出そうとしたがそれは止められた。

 鉱山の方から何者かが走って来ていると、報告が上がってきたからだ。

 一番にそれを発見した騎士は、一瞬警戒し、直ぐ様それを解いた。よく見たら自分と同じ騎士の格好をしていたからだ。

 何かに追われるように息も絶え絶え走って来て、先頭の騎士の元にたどり着く。

 恐らく鉱山に居る監視員だろう。皆がそう思いながらも、嫌な雰囲気が辺りを包み、疑問に思う。

 何故そんなにも焦っている?と。

 その騎士は身元を証し、至急お館様に報告があると周囲の騎士に告げる。


「お館様。火急の事態につき無礼をお許し下され」

「別にいい。鉱山で何かあったか?」


 ただならぬ様子に結論を急がせる。


「はっ!鉱山にて魔物の大暴走(スタンピード)が発生しました!街にやって来る可能性があります!」

「何?!どれ程の規模だ?!」

「恐らく二千は超えるかと」


 この時点で伯爵様は戦闘準備をするよう近くの騎士に告げる。

 鉱山とここでは距離が近すぎる。今すぐ魔物が来てもおかしくはない。

 慌てて行軍の隊形から戦闘の隊形に軍を整える騎士達。


「私達も手伝おうか?」

「いや、数は魔物が上だが、練度はこちらが上だから対応出来るだろう。それより、騎士では対応出来ないランクの魔物が出た時の為に控えていてほしい」

『了解』


 報告によれば、DやEランクの魔物が多かったそうだ。それならば、隊伍を組んで当たれば、数が上でも余裕で対応できる。


「見えてきたぞ!」


 物見の騎士の声にて俄に緊張感が走る。

 鉱山の方を見やれば、僅かに砂埃が起き始めていた。


 ──ドド……。


 砂埃が徐々に大きくなる。


 ──ドドドド。


 砂埃の中に魔物の大群が見え、地面が揺れ始める。


 ──ドドドドドド!


 魔物を目視出来る距離になり、塀の上に居る魔道士が戦端を開く。確実に当たるであろう距離にて魔法を放つ。


「撃て!」

『火炎球!!』


 号令にて総数五十以上もの火炎球が大群の中央に炎を撒き散らす。響き渡る魔物の絶叫や悲鳴などの断末魔。

 しかし、それでも関係無いとばかりに前線の騎士に襲いかかる魔物達。至る所で戦線が開かれ始める。

 やはり下級の魔物。頭が空っぽなのか、何も考えずに突っ込んで来るだけだ。それを、大盾を持った重装歩兵が受け止め槍で突き刺す。

 おお!あれってファランクス?だっけ?生は迫力が凄い!

 しかし、数が数だ。重装歩兵に対する圧力がだんだん上がっていき、徐々に押し込まれ始める。

 さらには、ファランクスの弱点である側面からも魔物が攻めてくる。

 側面からの攻撃に、騎士の一部は混乱の一途を辿る。


「ぎゃぁぁ?!」

「くそ!こいつはもうダメだ!下がらせろ!」

「誰かここを大盾で?!ぐわ!」


 崩れ始めるファランクス。だが、


『火炎球!!』


 そこに再度放たれる火炎球。少しでも重装歩兵に対する圧力を減らす。


「今の内に陣形を整えるんだ!」

「了解です!」


 さらに、距離が詰まったことにより、弓が届く様になった。


「構え!」


 号令にて一斉に弓を引き絞る百人程の弓部隊。


「放て!」


 ──ザァァアア。


 雨のように降り注ぐ百本もの矢が、立て続けに魔物に放たれ突き刺さる。

 これで重装歩兵の負担が大分減り、戦線を維持することが可能となったようだ。


「何とかなりそうだね」


 未だ戦闘が続いているが、ホッとしたように戦場を見ながら伯爵様が呟く。


「ここにマンティコアが居たらと思うとゾッとするよ」

「それに軍を召集していたのがよかったね」

「偶然だが助かったよ。これが何の準備も無く街に襲い掛かっていたら、多大な犠牲者を出していただろう」


 騎士に犠牲者がいないわけではないが、光魔法の使い手もちゃんと居るので、被害は最小限に抑えられている。

 リューナも騎士の治療に大忙しだ。


 ドドォォン!


 軍の中央辺り。一番層が厚い所にて爆発が起きる。

 何だ?魔法使う魔物でも居たか?

 魔物が魔法を使ってくると、一気に討伐難易度が上がる。従って、あそこに高ランク魔物が居る可能性が非常に高い。

 因みに、魔法を使う魔物=頭のいい魔物。ではない。

 伯爵様もそこに気付いたようで、チラリと私達を見る。


「お願いできますか?」

「いいけど、行く必要は無さそうだね」

「それはどういう意味です?」

「向こうからこっちに来てる」


 この戦場を上手くすり抜け、こちらに向かって来ている。

 騎士達が戸惑っているようだ。

 下手にこっちから向かうと、乱戦の中で戦う事になる。伯爵様をここに残すのも心配だ。

 暫くして……。


 ──ファサ。


 羽のように着地しそれが現れた。


「と~!みっけ~!」


 年は十代後半だろうか?髪は漆黒の色をしており、それが綺麗に整えられている。

 顔は童顔で、幼さを少し残している。イケメンと言うより可愛いが似合う顔つきだ。

 瞳も黒色をしており、妖しく光って伯爵様を見ている。

 特に武器は持ってなく、服装もその辺にいる人と大差ない。

 何処からどう見ても人間だ。だが、何故か魔物に襲われること無くここまで来ている。

 私はこういう存在を聞いて知っている。

 即ち、目の前に存在(いる)のは魔族だ。


「何で戦う準備してるんだよ~。折角魔物集めて街襲おうと思ったのに~」


 えらく軽い言葉で、とんでもないことをいい放つ。


「無様に逃げ惑うニンゲンが見たかったのに~!」

「あんたがこの魔物の大群のリーダー?」


 きょとんとして私を見る魔族。


「違うよ~。僕はただこの山に魔物を集めただけ~。リーダーっていうかボスは居たんだけどね~。どっか行っちゃって~。皆言うこと聞かなくなっちゃったんだよね~」

「もしかしてそれってマンティコア?」

「あれ~?何で知ってるの~?」


 そういうことか。

 この魔族はマンティコアに魔物を纏めさせて、ランドルスを襲うつもりだった。

 それを計画の前に私達が倒したから、魔物が言うことを聞かなくなった。

 仕方ないからそのまま襲いに来た。

 こんなところか。

 マンティコアに魔物を纏める能力があるってことか?単なる強い魔物に従っただけか?これはわからないな。

 聞いてみよう。


「マンティコアって魔物を纏める能力があるの?」

「違うよ~。君間違ってばっかりだねぇ~。キャハハ~」


 イラっときたが我慢我慢。


「魔物は強い魔物に従う習慣があるんだよ~。僕がマンティコアに頼んだんだけどね~」


 勝手にペラペラ喋ってくれる。ありがたいね。


「どうやってここがわかったの?伯爵様を探してたみたいだけど」

「うん~?人が多いとこ来ただけだよ~。この人ってより頭を探したの~。もういい~?」


 意外と考えている。確かに伯爵様が殺られたら負けるとは言わないが、こちらは混乱するだろう。

 そこまで凄い作戦ではないけど。


「後一つ。どうやって結界を越えたの?」

「それは絶対言っちゃダメって言われてるんだよね~」


 気だるげに右手の指輪を撫でながら答える。


「誰に?」

「一つじゃなかったの~?それに言ってもわからないよ~」


 確かに。私に魔族の知り合いはいないからね。


「もういいでしょ~」


 これ以上喋る気は無さそうだ。


「伯爵様下がってて。騎士も近寄らせないように」


 さて、初魔族か。


「イチ、ネネ、見た目に騙されるなよ」

『わかってる』


 初手は魔族から。手に魔力を込め単純に殴り掛かって来た。

 ……?そんなに早くないな。マンティコアより遅いぐらいだな。

 何かあるのか?反撃は余裕だが、罠を警戒し避けるだけにしておく。

 そこに横からシャルが襲い掛かる。

 もうちょっと警戒しないと!


「ギャ!」


 あっさり斬られる魔族。

 ありっ?!

 ……うぅぅぅみゅ……


「えっ?弱くない?」

「うむ。俺もちょっとびっくりだ」


 三味線弾いていたとしても、攻撃を食らうのはやりすぎだ。ねねも訝しがっている。

 えっ?!でも、ここまで流暢に喋れる魔族って中級以上って聞いたけど?!

 伝承が間違っているのか?


「なかなかやるね~。ニンゲンにしては~」


 何故か余裕綽々の魔族。やはり何かあるのか?

 でも、血がボタボタ出てるよ。あっ、止まった。

 確か回復力が凄いんだったな。


「少し本気出そうかなぁ~」


 そう言って、腕を回し顔を引き締める。

 やはり何かある。

 次はこっちから!相手の力量が分からない時は全力で行くべし!

 ねねの援護魔法を受けつつ、体を屈め刀を横に構える。


 ──ヒュバッ!


 自身が出せる最高速度で魔族の横を駆け抜ける。

 私が込めれる最大の魔力を足に込め、刀で斬るというより相手の居る場所に刀を通すように攻撃する究極の初見殺しだ。

 レベルが低ければ攻撃されたことにすら気付かないだろう。


「ぐはっ!何が?!」


 ……気付かなかったようだ。これはもう確定だろ。

 こいつ!弱い!


「皆!畳み掛けよう!」

「『烈火球レイジングファイアボール』」


 ゴゥ!


 ねねの魔法にて、業火の炎が呼び出される。火炎球より広範囲・高火力の焔が敵を焼き尽くす。その中心地に居るものは、半端な力量では骨すら残らない。

 ──しかし、


「ぐっ!ぐおぉぉ!」


 まだ生きてる?!しぶとい!

 至る所から煙を上げながらも呻く魔族。


「ニンゲン風情がぁぁぁ!許さないぃぃぃ!」


 口調すら変わり、顔が憤怒の形相に変わる。だが、その表情は直ぐに歪な笑みへと変化した。

 右手の指輪を見つめ、不気味な笑い声を上げる。


「ギャハ!ギャハハ!僕の全力を見せてやるよ!これを取れば今とは比較にならない……」


 斬!


 そんなの待つかバーカ!喋ってないでさっさと外せよ。それを待つのはアニメの中だけだ。


 ──ボトリ。


「力が……。あれ?指輪が?あれ?腕がない?あれ?あれ?」


 何かが指輪から溢れ出ている。あんなの見たことがない。

 何じゃありゃ?


「あー!僕の魔力がぁ!」


 腕を切り飛ばして正解だったようだ。

 あっ、あっ、と未練がましく指輪と腕に手を伸ばす。

 まだ殺さない。色々と喋って欲しいことがあるから。


「さて、お前には聞きたいことが「シャル!」


 バァサァ!


 上空から一匹の怪鳥がシャルに襲いかかって来た。

 シャルは間一髪爪の攻撃を避け、慌てて上空を見やる。


「キシャアァ!」


 そこには、鶏の頭、蛇の尻尾をした巨大な鳥が浮かんでいた。

 何であんな魔物が?!さっきまでは居なかったはず?!


「コカトリス?!」

「ねね!」

「『多重魔法・抵抗力上昇マルチマジック・ブーストレジスタンス』」


 刀を構え襲撃に備える。しかし、コカトリスはこちらに見向きもせずに魔族を銜え、落ちている腕を掴み、あっという間に飛び去って行った。

 なんとまぁ見事な引き際。


「行ったね」

「ああ」


 くそっ!逃がしてしまった!話を聞こうとして生かしていたのが裏目った!


「お疲れ様」


 伯爵様が労いに来てくれた。

 どうやら魔物の大暴走も殲滅出来たようだ。

 騎士達が勝鬨の声を上げている。


「すみません。逃がしてしまいました」

「追い返してくれただけでもよかったよ。君達が居てくれて本当によかった」


 魔物は殲滅出来たが、これから負傷者の治療や死骸の片付けなどやることは多い。


「私達は邪魔そうだから先に帰っています」

「領主館でゆっくりしててね。落ち着いてから話をしよう」


 街に入ると、遠目からでも何があったかわかったのだろう。住民がざわついていて、騎士の人達が宥めていた。


「あの魔族変だったよね?」

「怪しさ大爆発」

「どうみても中級魔族の力は無かったと思うぞ」


 魔族は非常に魔力総量が多いと伝承では伝わっている。

 偶に下級の魔族がやってくるが、知恵もなく、青紫の肌をした魔物みたいな外見なので、すぐ分かり討伐される。それでも、Bランク魔物程度の脅威があり、少々やっかいだ。

 中級以上はもはや伝承でしか伝わってなく、人間に近い姿をしているらしいことから、すでに人間の国々に入り込んでいるのでは?とも言われているが、見つけた者はいない。


「あの指輪だよね」

「市がフラグをボッキリ折ったから」

「だって待つ義理はないでしょ」

「身も蓋もない……」


 態々相手のパワーアップを待つなんて私はしないよ。止めれるなら止める。


「何にせよ、伯爵様とリューナと話をして纏めないとな。陛下への報告の為に」

「だね」


 疑ってたわけではないけど、魔族との初の邂逅が終わり、人間に害を為すということがある程度証明された。

 何とも痼りが残る結果になったけど。

お読みいただきありがとうございます。

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