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破落戸と騎士

よろしくお願いします。

 その店は異様な雰囲気を醸し出していた。この世の全ての悪意を集めたような雰囲気だ。

 外観は蔦が纏わりつき窓すら確認出来ない。

 基本の色は漆黒に近い黒で……。


「って店を想像してたんだけどな」

「何言ってる?王都と同じ」

「や、そうなんだけどさ。遠出したら何か違うかも!ってない?」


 魔法屋に来ていたが、魔道士のおばあさんなど居なくて、若い店員が接客している。

 王都での話なんだが、魔道士が店やらないの?と聞いたら、店は商人がやるものだろ?と至極当たり前の回答があった。

 そりゃそーだ。

 厳密には引退した魔道士がそういう店を個人で開くことはあるらしいが、ほとんどが趣味程度だと。


「でも、ねねは何を見に来たの?」

「帽子が欲しい」

「杖もローブも魔道具なのに?」

「効果は別に気にしない。黒系の鍔が広い三角帽子が欲しい」


 ……どうやら、テンプレ魔道士の格好がしたいようだ。

 ねねは魔道具とは名ばかりの帽子を購入して、満足そうに被っている。


「うふ、うふふふ」


 いや、だから怖いって。


「私の用事は済んだ」

「街ブラでもする?」

「銀ブラみたいに言わない」


 そのままランドルスの街を散策することにした。

 しっかし、あまり見て面白いものはないな。

 工場やら金物屋は多いのは分かるが、居酒屋っぽい店が其処此処にある。鉱夫が多い証拠だろうな。

 女性に優しくない街だな。そりゃ、お洒落なカフェがあるとは思ってなかったけど。


「むぐっ。あんまり見るものないね。もぐもぐ」

「お行儀悪い」


 広場で買ったよくわからない肉を頬張りながら、てくてくと歩いていたらねねに怒られた。


「おい!お前!」


 もぐもぐ。何だ昨日の騎士達か。そういえば、伯爵様にチクるの忘れてたな。今は忙しいだろうから終わってからでいいだろ。もぐもぐ。


「やはり昨日の冒険者だな。他の二人は何処だ?」


 もぐもぐ。はむ。何でそんなこと教えないといけないのよ。もぐもぐ。


「食べるのを止めて答えろ!舐めてるのか?!」


 ごっくん。


「舐めてるわよ。で、それが何?」


 平坦な声で返すと少したじろいだが、すぐに気を取り直し後ろの騎士と一緒にニヤニヤしだす。

 嫌な顔だ。元の世界でよく見た顔だな。


「俺達は騎士様だからな。俺は何もしないさ。俺はな」


 言外にただじゃ済まさない。と言ってるようなものだな。何をする気かは知らないけど。


「話は終わり?じゃ、もう行かせてもらうわ」


 嫌な顔を見た。どっかでストレス発散したいな。


「むかつく顔だった」

「だね。そうだねね!街出て魔法の研究しようよ!ストレス発散兼ねて」

「うん」


 これだけ大きな街でも、門の外に出て暫く行くと草原になる。日本じゃ考えられないね。

 冒険者になってから、私とねねはちょくちょく魔法の研究をしていた。

 そのお陰で、ねねの魔法を使う空気や、放つタイミングなどが大分分かるようになっている。

 四人の連携の為に皆でやることもあるのだが、二人でやることも多かった。


「この前言ってた風の魔法使っての空気の操作ってやっぱり無理?」

「難しい。基本的に風の魔法は風を作るのであって、そこにある空気を瞬時に消すなど出来ない」


 そう言いながらねねが魔法を使う。


「うっ、多少息苦しいぐらい?」

「こんな感じでそこに風を送ることは出来るけど、周りの空気を取り除くには、そこにある全ての空気を把握しないと出来ない。そんなことは現実的に不可能。空気の壁を作って隔離すれば時間は掛かるが可能」

「そんなの移動すれば対処出来るか」


 コクりと頷くねね。

 無理かぁ。これが出来たら対生物はほぼ無敵だったのに。


「じゃさ、土の魔法で不純物を取り除くとかは?」

「それも風の魔法と似た感じ。結局何が何処にあり、どう対処するかを明確にイメージ出来ないと不可能」


 土としては魔法で操作出来るが、その土に含まれてる鉄やら何やらは無理だそうだ。

 この土を錐状にして敵を攻撃!は明確にイメージ出来るが、この土に含まれてる鉄分だけを抽出!とかは、何処に鉄分があるか明確にイメージ出来ないから無理ってことか。


「これ突き詰めたら核爆弾作れると思ったんだけどなぁ。それ魔王の城に置いたら楽じゃない?」

「なんて見も蓋もないことを……」

「冗談だよ。結局出来る事と出来ない事は、実験した方が早そうだね」

「それが一番早いと思う」

「じゃ次は……」

「市どうしたの?」


 破落戸。まさにその言葉が似合う奴等が近付いて来た。着ている物はお世辞にも上品とは言えず、腰には剣や斧などの暴力の証。顔は盗賊と言われれば納得する面構え。

 うわ?!そういうこと?めんどくさい。騎士絡みだろうなぁ。関係無いと言うにはタイミングが良すぎる。

 三人がニヤついた顔でこちらにやって来る。


「二人共いい女じゃねぇか!ちょっと遊んでもいいよな?!」

「別に文句は無いだろう。特に注文は無かったしな」

「だ~めだよ~。あの人に逆らっちゃ」


 厭らしい顔で嬲るように私達を見る。

 そんな目でねねを見るな。穢れる。

 どうしよっか?殺したら面倒そうだし。捕まえるか。


「びびっちゃって可愛い~」


 一言も喋らないのを萎縮してると勘違いしている。


「ねね。殺さないようにね」

「どうするの?トンってやるの?トンって」


 少しウキウキしながらねねは首筋に手刀を打つ真似をする。


「あんなの漫画だけだから。実際は無理よ」

「じゃどうする?」

「取り敢えず動けなくする」

「何ブツブツ言って……」


 ──ヒュン。


 最速で動き、先頭に居た破落戸の喉元に刀を突き付ける。

 一切反応出来ずに押し黙る先頭の破落戸。


「えっ、ちょ?!」

「何で?!」


 面白いように狼狽える残りの二人。

 ほんとにただの破落戸なんだ……。私達の事舐めすぎだろ。新参だから冒険者に成り立てとでも思ったのかな。


「動くな。動いたら殺す」


 刀を喉に押し付けたまま宣言する。その刀を凝視し、破落戸達は凍ったように動かなくなる。


「さて、門番の所まで一緒に行きましょうか?」


 得物を取り上げ土魔法にて簡易の錠を作る。勿論暴れたら殺すと脅し付きで。

 私達に殺す気が無いと分かると、破落戸達は妙に楽観しだした。先程のニヤついた顔でこちらを見ている。

 何だ?これから衛兵につき出されるのに。

 疑問に思いながらも門番の詰め所に着く。


「どうしました?」

「こいつらに襲われました。誰かに依頼されたみたいです」

「分かりました。すぐ衛兵を呼んできます」


 何でだ?衛兵を呼ばれているのにまだニヤついた顔をしている。

 まさか……。


 暫くして衛兵がやって来る。私が予想した人物が。

 唇を噛んでそのムカツク顔を見つめる。


「どうしましたか?」


 そこには、意地の悪い顔で私と破落戸を交互に見る昼間の騎士が居た。


 やっぱり……。返り討ちも想定内ってことか。

 ふぅ。と溜め息が出る。

 一応ちゃんと対応するか。


「こいつらに襲われました」


 私がそう言っても、ニヤついた顔を崩さず破落戸に問い掛ける。


「そうなんですか?」

「違うぜ!こいつらがいきなり襲ってきたんだ!俺らの方が被害者だ!」


 そうだ!そうだ!と他の二人も声を上げる。


「ふむ。食い違ってますね?何か証拠はありますか?」


 そんなもんねーよ。

 私が無言でいると、勝手に諦めたと解釈したのか、大仰に頷いた。


「では後は私達の所で取り調べを行います」


 門番にそう告げ、破落戸達を連れていこうとするが、そこに待ったを掛ける人物が現れた。

 毎度お馴染みロストマイン伯爵様だ。ちゃんとリューナとシャルも居る。

 ねねに呼びに行かせてて良かった。


「こ、これはお館様!このような場所にどうしたのですか?」


 少し焦ったようだが、すぐに取り繕い相好を崩す。


「どういう状況だ?」

「いえね、この男達がこの少女にいきなり襲われたと」


 破落戸の話しか言わず、私達が襲われたことは無視か。


「違います。私達が先に襲われて反撃しただけです。相手に傷もつけずに丁寧に」

「言い掛かりつけてんじゃねーよ!」

「いきなり斬りかかって来やがって!」

「嘘ついてるのはお前達だろ!」

「と、この様に食い違っていまして。私としてはこの者達が嘘をつくとは思えず、少女の方が嘘をついていると感じているのですがね」


 調子を取り戻したのかペラペラと喋りだす。

 よく回る口だこと。


「この者達、態はこのような粗暴な雰囲気ですが、真面目に働いているんですよ。巡回時にもちゃんと私に「もういい」


 いきなり言葉を遮られ戸惑う騎士。

 何か笑えてくる。笑ってはいけない……。みたいになってきた。


「ど、どうされました?」

「どうしたもこうしたも……。あぁもう!この忙しい時に!説明もめんどくさい!」


 何故か異様に焦ってる伯爵様。門番や破落戸達や関係無い人を部屋から出ていかせ、イライラしながら話を続ける。


「簡単に言う。私はお前よりこの冒険者の方を信じる。詳しい調査は行うが、厳しい処分があることを覚悟しろ。何故お前のような奴が騎士をしているんだ?」

「なっ?!騎士の私より冒険者風情を信じるのですか?!」

「お前は素材を無理矢理奪おうとしたらしいな。剰え、私の名を使って」

「あっ、い、いえ、それは違います!この冒険者達が、他人の素材を奪おうとしていたのを止めただけです!お館様の名を使うなど滅相もない!」


 伯爵様はその言葉に完全にキレたようで、顔を真っ赤にして騎士に詰め寄る。


「お前がやろうとしたことは王家に反旗を翻したのと同義だ!」


 さすがに話が飛びすぎで付いていけない騎士。

 そうなるのか。そりゃ焦るな。


「いいか?ここにいらっしゃるのは、国王陛下の次女リューナ=エル=テスラ=スヴァイル王女殿下であらせられる。王女殿下に私直轄の騎士が害をなしたなどと王家に知られてみろ!どうなるかお前にも分かるだろ?!」


 唖然としてリューナを見る騎士。その顔は真っ青だ。


「どうやら被害は無かったようですから、私は気にしてませんよ」

「王女殿下のご慈悲、ありがたく頂戴いたします」


 恭しくリューナに礼を言う。騎士に対しては表情を一変させ、厳しい言葉をぶつける。


「今までの冒険者に対する横暴な行為も合わせて調査する!覚悟しておけ!」

「そ、そんな……」


 がっくりする騎士を、外に待機させていた騎士に連れていかせる。

 知らなかったでは済まないのか。まぁ、自業自得だよね。


「あまり問題を起こさないでほしいよ」


 それを見届けてから伯爵様が愚痴り出す。リューナじゃなく私に言うのがプリチーだな。


「すいません。ここまで大事になるとは思わなくて」

「イチちゃんが謝る必要がないのは分かってるけどね。あのような者を騎士にしていた私の責任だから。なんにせよ何も被害が無くてよかった」


 そう言って貴族スマイルを向けてくる。もう復活したか。流石だ。


「鉱山の調査の騎士団はどうなってます?」

「粗方目処は立ちました。今、最後の調整を行ってるところです。予定通り、明日の朝には鉱山に向け出発出来ます」

「流石ロストマイン伯爵様ですね」


 引き攣る伯爵様。

 リューナちゃん……。それ今のタイミングでは嫌みにしか聞こえないよ。流石天然。


「あっ!そうだ!さっきの騎士のことなんだけど」

「どうする?気に食わないなら殺っちゃう?」


 今絶対“殺”の字の方だよね?伯爵様が一番キレてるな。謀反の疑いが掛かるとこだったから当たり前か。


「そうじゃなくて!多分冒険者組合にも協力者が居ると思う。上の方に」

「素材の件だね?確かに。鉱山の件が落ち着いたらじっくり調べよう。騎士に、もとい、元騎士に共犯者を吐かせればいい」


 あんなことする奴に根性なんて無いだろうしな。すぐ吐きそうだ。この世界の犯罪者に、人権なんてありそうにないし。

 ……アイアンメイデンとかあるのかな?


「鉄の処女」


 ねねがボソッと呟いた。どうやら私と同じことを考えてるみたいだ。

 その呟きは私にしか聞こえてないからよかったものの、聞かれてたら変な誤解されてたよ!ねね!


「明日は念の為、領主館に詰めています」


 領主館に戻る道すがら、リューナは明日の予定を伯爵様に話していた。

 何処と無くホッとした様子の伯爵様。

 リューナが付いて来ると思ってたのかな?


「では家の者をご自由にお使いください。Sランク魔物を倒した『魔女の尻尾』の方々が居れば、安心して鉱山に騎士を回せます」

「まだCランク冒険者ですけどね」


 伯爵様も当日は領主館に居て、何かあればすぐ対応するそうだ。

 でも、何も無ければ明日は一日暇だな。当然無い方がいいんだが。

 あれ?これってフラグになるのかな?

お読みいただきありがとうございます。

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