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見慣れぬ魔物

よろしくお願いします。

 そのまま鉱夫の一団と別れ、さらに山奥へ進むと魔物に襲われ始めた。

 いつものように私とシャルが前衛で、リューナとねねが後衛で進む。

 念の為にリューナとねねには魔法を抑えてもらう。特にリューナの光魔法が使えなくなると万が一の事態がある。

 できるだけ前衛だけで魔物を仕留め魔力を温存する。

 今のところは私とシャルで事足りる。特に、シャルの魔道具である永遠の剣(エターナルソード)は疲労が起こりづらくなり、戦闘可能時間が大幅に伸びる。スヴァイル王国の国宝の一つだそうだ。


「イチ!」


 私の後ろに迫っていた黒狼をシャルが切り伏せる。


「ありが──と!」


 そのシャルの後ろに居た大熊(ジャイアントベアー)の顔を刀で突き刺す。


「終わったかな?」

「お疲れ様です」

「お疲れ」


 そこにリューナとねねがやってくる。

 無属性魔法を数回使っただけなので、大分余裕がある。


「取り敢えず今日は剥ぎ取っていこっか。でないとほんとに何しに来たの?ってなるよね」

「そうですね。では私が」


 王女様が魔物の剥ぎ取りをしている。あの国王が見たら泣きそうだな。

 黒狼は皮が高価で牙も売れる。大熊も皮が売れるが、熊鍋にすると美味らしい。

 それ以外にもそこそこ売れる素材を持った魔物が居た。こちらはねねが剥ぎ取りをしている。


「シャル、その剣いいね。息一つ切れてないじゃん」

「確かに。これはありがたい。でもイチの刀も使い勝手はいいだろ?」


 私の魔道具である戦神(いくさがみ)の刀は、身体能力の増加の効果がある。これは六百年前にあった、魔族との戦争時に勇者が使っていた刀らしい。

 ほんまかいな。


「剥ぎ取り終わりました。そろそろ昼なので熊鍋でもしましょうか」

「やったぁ!ご飯!」


 さすがに周りに魔物の死骸がある中でのご飯は嫌なので、少し離れて…


「そういえばアンデッドっているの?」

「いますよ。私は見たことがありませんけど」

「俺はあるな」

「市の言いたいことわかった。魔物の死骸をほっといたらアンデッドにならないの?」

「そんな話は聞いたことないな。アンデッドも魔物同様何故産まれるかわかってないと思うぞ。あまりアンデッド自体見ないしな」


 ふ~ん。まっいっか。

 ほっといたらアンデッドになるのが、ラノベの常識?だけどね。


「リューナ味噌出して」

「ちょっと待って。何故味噌に決定している?」

「なに言ってるのよねね。鍋と言ったら味噌でしょ」

「いいや。塩。鍋は塩鍋が一番」

「味噌!」

「塩」


 ねねと睨み会う。ここは譲れない!


「リューナとシャルはどっち?!」

「食えたらどっちでもいいよ」


 さすが脳筋。リューナは?


「私は……」


 私は……何?!


「水炊きが一番かと。素材の味が一番引き立ちます」


 あう。どっちでもないのか。でも、食ったことない大熊の肉だもんな。そう言われれば水炊きもありか……。

 結局二対一で水炊きになった。

 ブスッとしてるねね。可愛い。略して……これは言っちゃダメだ!

 鍋に水を出し、野菜をぶちこむ。そして、程よく煮たら肉をぶちこむ!

 男らしい料理になったな。女四人居るのに。


「ちょっとシャル!肉ばっか食べないでよ!それ以上筋肉付けてどうすんのよ!野菜を食べなさい。野菜を」

「市こそ野菜でビタミン摂って、もうちょっと短気を直すべき」

「リューナも早く肉食わないと無くなるぞ」

「もうちょっと落ち着いて食べましょうよ……」


 わーわーぎゃーぎゃー言いながら、熊鍋を完食した。美味しかったぁ~。

 どうでいいけど、この食材はスタッフが美味しく頂きました。のテロップって、正にこの状況のことを言うんだよね。


「もう少し山奥まで行きます?」

「結界ってどの辺までなの?」

「確か山頂まで伸びてるな。年に一回検査する為の小屋がある筈だ。でもそこまで行くと日が暮れちまうぞ」


 さすがに泊まりはめんどくさい。リューナの魔法袋があるから出来なくはないが。

 伯爵様にも泊まりとは言っていないということで、もう少しこの辺で例の少年を探してから、鉱山を降りることに決まった。


「おっ、岩人形」


 先程ガンダルのパーティーが倒した岩人形が現れた。のそのそとこちらに向かっている。

 さっきも思ったけど、おっそ。

 瞬時に距離を詰め刀を一閃。真っ二つになり動かなくなる。


「相変わらずはえーなぁ」

「私は目で追うのがやっと」


 シャルとねねが半ば呆れながらも称賛してくれる。

 ふっふ~ん!素早さは昔から自信があるのよん!


「見つかりませんね。そろそろ下山しましょうか?」


 まぁ所詮は噂か。もうすでにどっか行ってる可能性もあるしね。

 メンバーに反論は出ず、来た道を戻る。

 そろそろ鉱夫一団が居た場所に差し掛かろうとした時、微かな風に乗って臭いが鼻をついた。

 血の臭いだ。

 私とシャルは一目散に、リューナとねねは一歩遅れて走り出す。徐々に魔力も感じてきた。


「うぐうぅぅ!」

「グルゥゥゥ!」


 ガンダルが腕を押さえて呻いている。相対しているのはSランクのマンティコア。

 でかい!三メートルはあるか?


「なんでこんな所に!」


 そんなことは後!最後の止めを刺そうとするマンティコアの、


「はぁ!」


 ──斬!


 尻尾を切り飛ばす。尻尾の痛覚は鈍いのだろうか?平気な感じでこちらを向き、咆哮をあげる。しかし、このメンバーにそんなことは通用しない。

 一切怯まず斬りかかるシャル。

 そのシャルの一閃を爪にて弾き、炎のブレスを吐こうとしている。


「ねね!」

「『水槍(アクアスピア)』!」


 バシュ!


 見事口の中にぶち当てブレスを止める。


「リューナ!ガンダルさんの治療!」


 もがいているマンティコアに私とシャルが攻め立てる。二人の苛烈な連撃は、二本の腕では捌ききれない。尻尾があればまだ捌けただろうが今はもうない。そして、存分に力を乗せた一撃は、私は腕を、シャルは足を、深く同時に傷つける。

 お返しとばかりに無事な腕で、鋭い爪を振りかざすが、身を翻しこれを避ける。

 そんな大振り当たるか!

 私に気をとられてる間に、シャルが先程切った足をさらに狙う。

 怯んだ所に、


「でかいのいく」


 ねねの言葉で後ろに下がる。


「『多重魔法・土千本槍マルチマジック・アースサウザンドスピア』!!」


 マンティコアを囲うように千本の土の槍が現れる。その一本一本がゴブリンキングを倒した土槍だ。

 それらが千本。文字通り視界を埋め尽くし、前後左右上下あらゆる方面からの、逃れられない理不尽がマンティコアを襲う。

 悲鳴を上げる暇も無く、土に埋もれるマンティコア。

 静寂が訪れ、皆が土塊を眺めている。それはさながら土の棺桶を眺める様に。


「ふっ、私の魔力に抱かれて眠りなさい」


 何言ってんの?この子は?


「ガンダルさんは?」


 無言で顔を振るリューナ。間に合わなかったか。

 よく見ると、腕だけでは無く頭や胸からも出血していた。さらに周りには、仲間らしき物が散乱している。


「しかし何だってこんなとこにマンティコアが?」

「シャルでもわかんない?」

「ああ、あの魔物は普通は森の奥に居る筈」

「取り敢えずこれは要報告ですね」


 鉱夫達はガンダルさん達が逃がしたのだろう。ここには居なかった。

 死体をこのままにしておくのは忍びないので、簡単に火葬して土を被せておく。


「では気を付けて下山しましょう」


 そう。ここでマンティコアに襲われたので、下山の道も一気に危険度が上がった。

 暫く行くと、何やら騒がしい集団がこちらにやってくる。


「なんだあれ?」


 先頭には鉱夫達で、よく見るとガンダルさんが護衛していた鉱夫達だ。その後ろには騎士達が連なっている。

 ああ~。助けを呼んで来たのか。なんて義理堅い。でも少なくない?

 五人の騎士では無理じゃないかな?いや、実力分かんないけど。


「お嬢ちゃん!ガンダル達に会わなかったかい?!」

「会うには会ったのですが……。もう手遅れでした……」

「間に合わなかったか……。いきなりデカイ魔物が襲って来てな。何の魔物か分からなかったんだが、ガンダル達が逃がしてくれたんだよ」


 そう言って肩を落とす鉱夫達。

 何も言えない私達。そこに空気を読まず騎士の隊長らしき人が口を挟む。

 金髪で意地の悪そうな顔だ。


「おいお前ら。その魔物を見たのか?」


 態度でかいな。


「あぁ、見たぞ。マンティコアだった。もう倒したがな」

「何?!あぁ、大方ガンダル達が弱らした所を止めだけ刺したのか」


 いや、まぁ、間違ってはないけど……。何か腹立つな。着いた時、多少怪我はあったけど元気ハツラツだったぞ。


「では剥ぎ取った物を出せ」


 は?!何言ってんのこいつ?

 他の騎士もニヤニヤするだけで止めようとはしない。


「意味が分からないな。何故だ?」

「お前達が倒した魔物ではないだろ?では鉱山の所有者である伯爵様の物だ。私から伯爵様に献上する」


 うわ!これって横領?ってやつ?

 腐ってんなぁ。


「ほう。では私達から伯爵様に献上しよう。お前を通す理由も無いしな」

「お前だと?!たかだか冒険者のくせに生意気な!お前らが伯爵様に会えるわけないだろ?!いいから出せ!」


 これ以上は無駄だと感じたシャルは、皆を促し下山しようとする。


「待て!」


 咄嗟に追いかけようとする隊長だが、鉱夫達に止められ渋々山を登って行った。

 当然私達は無視して下山を再開する。


「リューナちゃん」

「何ですか?イチ」

「腐ってるね」

「困ったものです」


 恐らくだが、騎士が伯爵様の権力を笠に着て、冒険者が倒した魔物の素材を横取りしてるのだろう。

 冒険者は立場的に弱い部分がある。領主様には逆らいづらいのだろう。


「これはロストマイン伯爵様の仕事です。報告だけしておきましょう」


 最後が後味悪かったな。何にしても、Sランク魔物が出たことは早急に報告すべきだな。


 領主館に着いた頃には日が暮れかけていて、すぐに領主様への面会をメイドに申請する。

 暫し貴賓室で待つ間に、今日のことを話し合う。


「Sランク魔物ってどれぐらいのレベルなら倒せるの?」

「そうだな。基本的には冒険者のランクに準拠している。例えば、Aランクの冒険者パーティーならAランク魔物はまず倒せる。何事にも例外はあるがな」


 人が一人一人違うと同様に、魔物にも固体差がある。尤も、下のランクの魔物は誤差の範囲内だが。いくら飛び抜けていてもゴブリンはゴブリンだ。Sランク冒険者を倒すことは無い。


「騎士達はどうなってるの?」

「強い奴は冒険者になりがちだな。稼ぎが違う。だが、そこの領主が引き抜きをしたりして、一定のレベルはあるはずだ。領主によって違うがな」


 シャルも冒険者から近衛騎士に引き抜かれたんだっけな。

 コンコンコン。とノックの音がして、伯爵様がやって来た。


「お待たせしました」

「いえ、大丈夫ですよ」


 又、暇をもて余した貴族の方々の会話が始まるのか?!と思ったが今日は早々に本題に入るみたいだ。


「今日鉱山にて、Sランク魔物のマンティコアに遭遇しました」


 一気に顔から笑顔が消える領主様。

 暫し考えて、絞り出すように問い掛ける。


「確かですか?」


 王女様の言を疑うなど普段の伯爵様には考えられない失言だが、この時ばかりは聞きたくもなるだろう。

 いかんせんSランクの魔物など、一冒険者には到底手に負えるものではない。私達が居なければ、軍による討伐隊が組まれる程の事態だ。

 だから伯爵様は聞かずにはいられない、本当に居ましたか?と。


「私達全員が確認しています。無事討伐出来たのでそこは安心して下さい。私は何もしていませんが」


 少し自嘲気味に笑うリューナ。

 そんなことないよ~。リューナとねねは居るだけで癒されるんだよ~。シャル?あれは筋肉だよ。


「何故こんな所にマンティコアが……」

「それはシャルにも分からないみたいです。ですが、何か鉱山で起こっているのではないのでしょうか?」


 伯爵様は口を噤み、暫くしてからこれからの対策を答えた。


「これは看過できない状況ですね。至急騎士団にて鉱山を調べましょう」

「いつになりそうですか?」

「さすがに今日明日では……。ですが、鉱山に何かあればその影響はこの領地だけに留まらず、王国全体に波及します。明後日の朝までには準備致します」


 伯爵様は早速騎士の準備をするのか、すぐに貴賓室から出ていった。

 鉱山の調査だが、騎士でもない私達が居ても邪魔だろうから私達は参加しないことにした。

 伯爵様も王女様の相手をしている暇はないだろうし。


「何か大変なことになったね」

「鉱山の閉鎖はしないの?」

「それはしないと思いますよ。恐らく、閉鎖しようとしても鉱夫達からの反発があるでしょう」

「彼等からしたら飯の種が無くなるってことだからね」


 私の言葉にねねが納得したのか頷いている。

 それにしても、今日の魔物は歯応えあったなぁ。四人だから楽勝に感じたが、私一人だったらどうだろう?

 勝てないとは言わないが、やはり魔法が無いと不安が残るな。特に回復魔法。

 私達勇者のくせに二人共光魔法使えないもんね。

 うん。やはりリューナは必要だ。光魔法もそうだけど、私の癒しにもなっているし。


「騎士団の調査が終わるまで鉱山には入らない方がいいでしょう」

「じゃさ、明日は休みにしない?この街の観光がしたい」

「魔法の店に行きたい」

「ではそうしましょうか。単独行動しないように、イチはネネと一緒に行動して下さいね」

『わかった』


 リューナにお小遣いを貰った。

 小学生か!

 リューナに無駄遣いはダメですよ。と言われた。

 おかんか!

 リューナに特にイチ。と言われた。

 解せぬ。

お読みいただきありがとうございます。

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