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ランドルスの領主館

よろしくお願いします。

 イスルス山脈を一手に仕切るロストマイン領。その領主館があるランドルス。

 街の大きさは其れほどでもないが、何しろ活気がすごい。

 仕事終わりの酒盛りを始める鉱夫達。夕食の準備の為だろうか、早足に家に帰る主婦。今の時間が勝負所と客引きを始める飲み屋の店主。負けじと宿の客引きも声を張り上げる。

 様々な声が喧騒となり、夕陽に染まった茜色の空に吸い込まれていく。

 そんな街の門番は、大陸大蜥蜴に乗っている人物を認めると、大声を張り上げた。


「伯爵様がお戻りになられた!門を開けろ~!」


 この街の門は鉱山から来る魔物対策として頑強に出来ている。

 ふんだんに鉄を使い、又所々にミスリルまで使い魔法で強化している。

 その重厚な門が開門の声に合わせて開かれる。

 ほへ~。でっかい門。

 見上げるほどある大きな門が開く様子は、さながらモーゼのようだった。


「でっかい門だねぇ」

「ここは正門だからね。見栄も入っているけど魔物対策や物流の為だよ」


 確かイスルス山脈が一番魔物出現率が高いんだっけか?

 開かれた門からトカゲに乗り、堂々と入門する。

 伯爵様がいるので当然誰何の声はかからない。

 そのまま私達は大通りを進み領主館にたどり着く。


「旦那様~!」


 先触れがいっていたのか、領主館には迎えのメイドや執事が整列していた。

 その中の一人のメイドが大声で叫んで、「あいた?!」メイド長らしき人にどつかれていた。

 領主館の外観は白を基調とした洋館で、重厚な存在感を示していた。


『お帰りなさいませ。旦那様』


 見事な唱和で寸分の狂いもなく一斉にお辞儀をする。

 伯爵様は手を挙げて答え、メイドが開けた扉から中に入る。


「王女殿下。先に……」

「伯爵様。先日も言いましたが、ここではただの冒険者リューナとして扱って下さい」

「そうもいきません。最低限の礼儀は弁えておりますので」


 リューナも無理を言う。私とねねは異世界人、シャルは脳筋だからタメ口いけるんだよ?後は冒険者もかな?流石に貴族は無理じゃないかな?後でどんな不利益があるか分からないからねぇ。

 困った顔をするリューナ。

 多分困ってるのあっちだから。


「私は喫緊の用件を済ましますので、申し訳ありませんが貴賓室でお待ち下さい。終わり次第直ぐに参りますので」

「わかりました」


 伯爵は側のメイドに案内を頼むと、一礼して去って行った。

 玄関に居たメイド長らしき人に付いていく。

 掃除が行き届いてる廊下を通り、貴賓室へと案内される。

 貴賓室って。リューナが居るから仕方ないとは言え、私には合わない部屋だな。

 一際豪華な扉が見えてきて、メイド長が扉を空け中に入る。


「此方で暫くお待ち下さい」


 真面目そうな顔に、真面目そうなメガネ(あるんだ)で、真面目そうに一礼して部屋を出ていく。

 案内された貴賓室は応接室みたいだった。

 四角い漆黒の色をしたテーブルが中央にあり、四人は優に座れるだろうソファーが対面に二つ。

 その横に書記に使うのだろうか、小さな机と椅子がワンセット置いてあった。

 扉の真正面には大きな窓ガラスがあり、庭に綺麗に咲いてある花畑が見える。右手には、他の部屋に続くであろう扉があった。

 ふぅ。漸く一息つけると思い、私はソファーに身を沈めた。


「リューナ、伯爵様に無茶言っちゃダメだよ」

「無茶?ですか?」


 可愛いらしく小首を傾げ、真ん丸な目で見てくる。

 あぁん!もう!可愛いなぁ!


「そういえば、伯爵様は私とねねが召喚されたと知ってるっぽいね」

「言った訳では無いのですけどね。流石は伯爵様ってところですね」


 メイドがお茶を持って来て四人に配る。

 あっ美味しい。

 この世界に召喚された時、少なくない貴族が居た。しかし、ロストマイン伯爵様は居なかったのは覚えている。あんなキラキラした人忘れようがない。

 この世界でも情報が大事なのだろう。少なくとも、召喚された勇者の容姿と名前は把握していた。

 いきなりちゃん呼びだったが、貴族オーラであまり気にはならなかった。

 それより、この街ではここに泊まることになるのだろうか?だったら、嬉しい反面少し面倒そうだ。気楽に宿屋でもいいけどタダじゃないからなぁ。リューナは結構金使いにうるさいんだよね。

 少しの間四人で談笑していると、扉がノックされた。


「どうぞ」


 当然リューナが答え、扉が開き伯爵様が入って来た。


「御待たせいたしました。王女殿下。この様な粗末な部屋で申し訳ありません」


 優雅に一礼し、伯爵様は私達の対面に座った。


「とても素敵な部屋で、皆で楽しくお喋りしていた所ですよ」

「それは失礼。乙女の語らいに無粋なことをしてしまったようですね」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。伯爵様が無粋など」


 これが貴族の会話!私には無理だ。何言ってんだオメー。って言いたくなる。さすがリューナ。

 私の勝手な敗北感を余所に、貴族の会話は続いている。

 ……。まだ?いい加減終わらないのかな?


「では、そろそろ本題にいきましょうか」


 おっ、やっとか。


「まずはそちらの方々を紹介していただけますか?」

「はい。シャローンは御存じですね?」

「ええ、有名ですから。王国一の剣の使い手。その実力は、畑は違うが彼の帝国首席魔道士に匹敵すると」


 ねねの魔力適正検査の時にもその名前出てきたな。

 シャルが目礼をする。似合わないなぁ。


「そして、こちらも御存じのようですが、王城にて勇者として召喚された剣士イチと魔道士ネネです」

「噂には聞いてますよ。シャローン殿と帝国首席魔道士と同等以上と」

「その帝国首席魔道士とはどのような方なのですか?」


 さすがに気になってきた。

 言ってはなんだが、ねね以上の魔道士は未だ見ていない。

 まずその威力、リューナとねねの風斬(ウインドカッター)一つとっても、込めてる魔力量も違えば威力も違う。そして、段違いな魔力量と魔法適正。

 これは、リューナが劣っているのではなく、ねねが異常なのだ。

 王国首席魔道士でもねねには及ばなかった。


「確か不老不死と噂されている方ですよね?」


 不老不死って。嘘くさいなぁ。

 いや、異世界だからあり得るのか?


「ほとんど噂しか聞かない御仁ですからねぇ。名前は確かリュケイム=マインバッハ。この名は帝国首席魔道士の総称とも言われてますね」


 うん?噂しか聞かないのに何でそんなに評価高いんだ?


「噂だけなのですか?」

「あぁ、その噂がとてつもないものばかりでね」


 曰く、SSSランク魔物の金色の竜(ゴールデンドラゴン)を呪文一発で倒した。

 曰く、ワガル帝国に押し寄せた魔物数千体を単独で倒した。

 曰く、死者の蘇生が出来る。

 曰く、産まれた時にはすでに魔法が使えた。

 曰く、実は魔族だ。


「実際公式の場に出てきたことがないから、王国では存在自体を疑っている方もいるけどね」

「単なるブラフと」

「そういうこと」


 ここスヴァイル王国とワガル帝国は仲が悪い。

 方や人間至上主義、方や共存共栄。さすがに魔族に対しては同じスタンスなのだけど、他種族に対する認識が根本的に違う。

 一触即発とは言わないが、いつ火種が燃え上がってもおかしくない。

 帝国首席魔道士はそれに対する楔の役割を果たしていると。


「その存在が帝国によるブラフと言い張る強硬派も少なくない。それでなくとも、結界が弱まっていると大声で宣伝したようなものだしね」


 そう言い私とねねを見る伯爵様。

 それを私達に言われても……。


「少し意地の悪い言い方だったね」


 そこで、扉がノックされ、給仕のメイドが来訪者を確認する。


「旦那様。お客様方。お食事の用意が整いました」

「ありがと。では続きは食事をしながらにしましょうか?」


 ご・は・ん!ご・は・ん!

 よかった~!あの場面で「リューナ、お腹空いた」とはとても言えなかった。

 色々な絵画が飾ってある中央ホールを横切り、豪華な食堂に着いた。

 縦長のテーブルに様々な料理が並んでいる。何か(何の肉だあれ?)を丸焼きにした肉料理。瑞瑞しい野菜が眩しいサラダ。具沢山のスープ。なんとリゾットのような物まである。どれも美味しそうだ。

 そして、二人の女の人が居た。

 一人は銀髪を長く伸ばした二十代の綺麗な人で、温和な笑顔がとても似合っている。

 もう一人は領主館に入る前に見た。あのメイド長にどつかれていた少女だ。こちらも銀髪で、横の女の人と似た雰囲気をしている。


「では先に紹介させていただきますね。妻のミエルと娘のローラです」


 奥さんと娘さんがスカートの端を摘み軽く会釈する。

 あれ?あの子メイドしてなかった?してたよね?

 私達もそれぞれ自己紹介をして席に着いた。


「ではどうぞご賞味下さい」

『頂きます』


 私達四人の動作に伯爵様達は目をぱちくりとさせる。


「何ですか?それは?」


 特に気を悪くした感じではなく、純粋に気になったようだ。


「これはイチとネネの世界で、ご飯を食べる前の儀式みたいなものです。ねっ?」

「儀式とはちょっと違うけどね。食事をしないと人間は生きていけない。あなたの命を頂いて私の命に代えさせて頂くってこと」


 合ってるかな?まぁいっか。


「ほ~。食事にその様な意味を持たすとは。では、私も。頂きます」『頂きます』


 伯爵様に続いて奥さんと娘さんも真似をする。

 ……うみゅ……

 聞いていいのかな?いいや、気になるから聞こう!


「領主館に入る前に見たのですが、ローラちゃんはメイドをしているのですか?」

「ええ、勉強としてね。恥ずかしながら女性の嗜みがあまり無くてね」


 へぇ~。偉い。のか?周りの人がすっごく気を使いそう。メイド長はしっかりとどついていたけど。

 息子さんが居るかどうかは聞かない方がよさそうだな。この場に居ないってことは、そういうことだろう。


「ねぇねぇ!あなた達冒険者なんでしょう?!今までどんなことしたのか教えて!」


 ローラちゃんが物凄くざっくばらんに話し掛けてきた。あれ?リューナが姫って知らないのかな?


「こら!ローラ!申し訳ありません!王女殿下!いつまでたってもこのような態度が直らず」

「いいのですよ。何度も言いましたが、ここでの私は冒険者のリューナですから」


 苦笑いのロストマイン夫妻。リューナも頑固だなぁ。


「そうですね。では、私達『魔女の尻尾』としての初依頼の話をしましょうか」


 リューナのゴブリン退治の話を、目をキラッキラッさせてローラちゃんは聞いている。可愛いなぁ。十才ぐらいかな?冒険に憧れてるんだろうな。


「すごい!すごい!ネネさん、今度魔法見せて!」


 むっ?私よりねねだと。確かに魔法は派手で見映えもいいからな。くっそ。


「私の刀もすごいのよ。ローラちゃん」

「市、何張り合ってるの?」


 じと目のねね。可愛い。略してじとねね。

 だって悔しいじゃ~ん。

 私も勇者なんだよ?!魔法使えないけど。


「じゃ俺とイチの模擬戦でも見せようぜ!」


 それはあんたがしたいだけだろ。シャル。


「え~!魔法の方がかっこいい!」


 なん……だと……。言ってはいけないことを直で言われた。このがきゃ~!

 魔法の方が目に見える効果があるからかな?剣士の評価が低すぎる。でも実際の評価は分かれる。

 どちらが上かは実際には言えない。当然である。

 近距離なら魔法を使う前に勝負ありだし、遠距離なら剣士の攻撃範囲に入る前に勝負ありだ。当然個々の実力にもよるが。


「市、顔顔。やばい顔してる」

「そんなことないよ~。何時でも何処でも優しい市さんだよ~」

「申し訳ありません。こら!ローラ!ちょっと静かにしてなさい!」

「は~い」


 おっとイケナイイケナイ。ダーク市さんが顔を出したか。スマイルスマイル。

 ニヤッとする私。ビクッとするローラ&ねね。後リューナも。

 ひどい!リューナまで!


「ごほん!最近ルメルス街道で魔物に襲われる商人が増えているみたいですね?」


 そういえばそれが本来の目的だったな。忘れてた。


「よく御存じで。騎士の巡回を増やして対策しております」

「理由はわかりますか?」

「特に思い当たりませんね。理由などあるのでしょうか?」


 そう、それだ。

 魔族がここに居るから増えている。のか、判断がつかない。

 魔物の発生原因はわかっていない。何故産まれるか分からないから、増えてる原因も分からない。

 偶々増えてるだけかもしれない。実際今までに、急に魔物が増えたこともあったそうだ。

 一般的に、動物が魔力を吸って魔物になると言われているが、誰も証明出来ていない。

 よって、増えた魔物を、定期的に狩るしか対処法が無いのだ。


「そうですよね。巡回を増やして注意換気するしかありませんよね」


 重々しく肯定する伯爵様。もどかしいんだろうな。

 理由が分からないから対応が後手になるのは仕方ない。


「しかし、現状大きな問題は起こってませんので」


 そう言うしかない。問題が起こっていないので、これ以上何もできないと。


「わかりました。では私達は暫くの間、この街に滞在しますので」

「でしたら此処にお泊まり下さい」

「そう言っていただけると助かります。お世話になります」

「やった!じゃ冒険の話又聞かせて!」

「構いませんよ」


 リューナはにこやかに微笑んだ。

 やっぱりここに泊まることになったか。


「では今日はこの辺りで失礼させていただきます」

「はい。貴賓室をご自由にお使い下さい。また、何かあれば家の者にお申し付け下さい」


 礼をして食堂を出る。

 今日は疲れたな。フーノ村で色々あったし。ゆっくりお風呂に浸かりたい。

 そんなことを考えていたら貴賓室に着いた。


「では何かありましたら何でも仰って下さい」

「あっ!お風呂に入りたいんですけど」

「用意は整っていますので何時でもお入り下さい。すぐ行かれますか?」

「はい!皆で入ろうよ!」


 着替えを取り、メイドさんの後に続き風呂場に向かう。

 脱衣場に着き皆下着姿だ。こっちの下着もちゃんとした物で、ドロワーズみたいに色気のないものではない。ちゃんと綿の素材で履き心地も悪くない。上の下着は無いので放りっぱなしだが。


「そう言えば余り皆では入りませんでしたよね?」

「たまにはいいよね!仲を深めようよ!」


 風呂は広かった。王城の風呂とまではいかないが、四人には十分過ぎる大きさだ。

 まずは掛け湯っと。


 ザパァン。バチャアン。


 あれ?!ちょっとシャル!


「シャル!ダメだよ!掛け湯してから入らないと!」

「掛け湯ってなんだ?」

「うっそ~!」

「湯を汚さないように湯を体に掛けて埃などを落とすこと」


 あああ!リューナまで!


「いやいや、汚れたら湯を入れ替えるぞ」


 あっそっか。風呂は魔道具だからすぐ湯を入れ換えれるのか。

 あぁ、でも何かモヤモヤするぅ!


「市、その気持ちは分かる」

「だよね!だよね!ねね!」


 しかし、リューナでかいな……。何がとは言わないが、何だ。


「シャルだけが私の味方だよ~」

「何の話してんだ?」

「多分胸の話」

「そんなに良いものじゃありませんよ。重いですし」


 重い……。だと?一体どんな感覚なんだ?と言うか何が詰まっているんだ?あれか?夢や希望か?


「くぅ~。くっそ。揉んでやる!」

「ちょっと!止めてください!あっ、アン!」


 柔らか!弾力が凄い!餅か?!


「何やってんだか」

「シャル!ネネ!見てないで助けて下さい!アッ!そこはダメです!」

「良いではないか!良いではないか!」

「市、エロ親父みたい」

「もう!怒りますよ!」


 全然怖くないよリューナ。ぷく~と膨らませたほっぺが可愛い。取り敢えずツンツンしとこ。

 これで仲が深まったかどうかは分からないが、とても良いお風呂だったのは確かだ。

お読みいただきありがとうございます。

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