表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/23

プロローグ

初投稿です。

よろしくお願いします。


 東京のとある剣術道場。鹿威しが鳴り、綺麗に整えられた松の木の葉が揺れる中、一人の十代半ばの少女が居た。

 艶やかな黒髪をポニーテールにして、日課の素振りをしている。回数などは決めていない。なぜなら自分が納得できるまで続けるから。


「ふう」


 一息つき、朝日に輝く汗が眉毛を伝い整った顔に張り付く。


「お嬢様、朝食の用意ができました」


 長年少女の家に仕える執事から、丁度いいタイミングで声が掛かる。


「ありがとう朝倉。汗を流したらすぐ行くよ」


 自室に赴き学校指定のセーラー服を取り、離れのシャワー室に向かう。


「気持ちいい~」


 シャワーを浴びながら最近ハマってる妄想に思いを馳せる。漫画やアニメのような異世界転移。


(自分にも起きないかなぁ。もし異世界転移するなら、魔法で身体能力上げて魔法剣使って……)


 引き締まった体に着いた水滴を、お気に入りのアニメのタオルで拭う。下着を着けセーラー服を手に取った。


「うん?」


 ふと足下を見ると何かが光を放っていた。俗に言う魔方陣と呼ばれる六芒星だ。


「うそ!これって!」


 その瞬間少女の姿は光に飲まれ掻き消える。




 後には鳥の囀りの中、アニメのタオルだけがユラユラと優雅に漂っていた。



 ☆★☆



 都内の高校の放課後。運動部の掛け声が聞こえる中、図書室に少女がいた。

 腰まで綺麗に伸ばした黒髪が夕陽に照らされている。

 実年齢よりいつも幼く見られる顔は真剣そのもので、一心不乱に本のページを捲っていた。

 少女の好きなジャンルはファンタジーで、王道ファンタジーからライトノベルまでを好んで読んでいた。

 少女は妄想する。ライトノベルの主人公のように、異世界転移して魔道士になることを。

 これは、誰にも言えない少女の趣味だ。


「そろそろ閉めますよ」

「あっ、はい」


 今日も日暮れまで読書に明け暮れた少女は、司書に言われ帰る用意をする。


「本が本当に好きなんですね」


 司書が知っている限り、ほぼ毎日少女は図書室に来ている。


「ライトノベルが一番好き」

「そうなんですか。アニメとかも?」

「うん好き」


 帰る準備をしながらなので、お互いの顔は見えていない。


「何か光ってる?」


 呟いた少女の足下、ライトノベルが乱雑に積まれた机の下。そこに、いつの間にか光る魔方陣があった。


「キャ?!」


 魔方陣から光が溢れ少女を包み込む。


「何か言いました?」


 司書が顔をあげ少女の方を向いた時には、鞄と積み上げられたライトノベルしかなかった。


「あれ?どこ行ったんだろ?トイレかな?早く帰りたいのに」


 帰る準備が終わった司書は、眉を顰めながらいつまでも帰らない少女を待っていた……。



 ☆★☆



 光が収まると目の前に金髪碧眼の少女がいた。

 軽くウェーブがかかっている髪に純粋そのものな瞳が印象的。

 ……胸でかいなおい。

 でもこれってもしかして?!異世界召喚ですか?!

 横を見ると私の他に、一人の少女が周りを伺っていた。


「成功だ」

「さすが聖女と呼ばれるリューナ様」


 口々に賛辞を述べる騎士らしき面々。奥の玉座には王様らしき人物。

 意外と若いな。もっとおっさんかと思ったが。他に貴族らしき人達。皆興味深そうにこちらを見ている。うん?私を見ている?ほとんどの男が何故か私を見ている。何でだ?

 私を見ている男達に目線を向けるとサッと目を逸らすが、チラチラと私を伺う。何人かは残念そうな、どこか慈愛を持った顔を向けている。


「あなた」


 黒髪ロングの可愛らしいチビッ子が横から私に話し掛ける。そちらを見やると、何故か少女は困惑していた。


「あなた……。なんで下着姿?」


 えっ?!あっそうだ!お風呂から上がったとこだった!


「うえ?!きゃー!」


 持っていた制服を体に当て慌ててしゃがむ。


「皆さん後ろを向くのです!早く!」


 ざっと音を立てて男共が後ろを向いた。


「さぁ、ゆっくりで大丈夫ですよ。幸い服をお持ちになっているので、落ち着いて服を着てください」


 うぉー。いい子だぁ!


「ぺったんこだな」

「あぁ、まさにまな板だな」

「王女様と比べるとよりな」

「でも、あれぐらいの方がよくないか?」


 おいこら騎士共。聞こえてるからな。騎士なのに王女様にそんな目を向けていいのか?後最後の騎士。お前は分かっている。


「あなた達!なんて失礼なことを!女性の魅力は胸だけではありません!」


 貴方が言っても説得力ないよ~。でも私そんなに気にしてないし?動きやすいから小さい方が楽だし?全然羨ましくなんてないし?ぶつぶつ言いながら私はセーラー服を着た。


「ふむ。そろそろいいか?」


 あっ、王様もちゃんと後ろ向いていたんだ。悠然としながらこちらを向き王様が話し始める。


「ようこそおいでくださった。勇者諸君よ。まずは状況説明がしたいのだがよろしいか?」


 無言で頷く私達。

 いやーでもよかった。この感じなら国家が支援してくれるタイプのやつだな。しかも言語解読付き。いきなり荒野に放り出されるタイプじゃなくてよかった。


「まずは自己紹介からじゃな。儂はこのスヴァイル王国を治める王。トリスタンⅢ世じゃ。以後よしなに」


 じいさん臭い話し片だけど誠意を感じるね。次いでおっぱいちゃんが一歩前に出る。


「私はこの王国の王女で、リューナ=エル=テスラ=スヴァイルと言います。上に三人の兄姉がいて次女です。以後よしなにお願いします」

「騎士や貴族は追々でいいじゃろ。お主等の名を教えてはくれぬか?」


 チビッ子から自己紹介を始める。

 胸は私の方が小さいか……。くっそ。


「小谷ねね。よろしくお願いします」


 狼狽えてないね。意外とすぐ受け入れるものなのかな?私は望んでいたからだけど。


「私は賤岳市といいます」

「儂が言うのもなんだが、二人とも落ち着いておるのう。さすがは勇者といったところか。ではなぜお主等を召喚したのかじゃが……。メーデル」

「はっ!ではここからは私が」


 王様の横に居た真面目そうなお兄さんが一歩前に出る。できる人って感じだな。宰相とかかな?


「端的に言います。勇者様方には魔王を倒して頂きたいのです」


 テンプレだぁ。今時魔王(笑)って!チビッ子もちょっと苦笑いだ。私達の表情に厭わず宰相は続ける。


「ではまずは周辺国の話から、陛下が治める国がここスヴァイル王国になります」


 私達を召喚した国スヴァイル王国は、始まりの神とされるメンデルスを唯一神とする一神教。本殿のあるここ王都スヴァイルでは約九割がその信徒になっている。

 宗教国家かぁ。多神教の日本人としては些か住みづらそうだ。

 こっちを値踏みするように見ているのが教皇のトリス=メンデルス=ランドマルク。長い髭を携え、愛想笑いを浮かべ大仰に挨拶をした厄介そうなじいさんだ。

 西と南に海、北にイスルス山脈があり、産物・鉱物に恵まれた豊かな国。


「そして南西にローエン王国。ラクスス国王陛下が治めています」


 言い方はマイルドだけど、スヴァイル王国と同じ人間至上主義の封建国家。

 メンデルス教って人間至上主義なの?いやな予感しかしない。


「北西にはルーンザール皇帝陛下のワガル帝国」


 大体帝国って侵略行為とかしてくるんですよねー。ここは大丈夫なのかな?


「亜人はここより遥か西方にあるナルクス大森林及び、その先のスリュース大草原を支配しています。魔族はそのさらに西方を支配しています」


 言い方からしたら結構遠いんだね。それより……。『亜人』かぁ。


「国のことや亜人及び魔族に関しては、今後座学の機会を設けるのでそちらでお願いいたします。ではお疲れでなければ、これより勇者様方の能力を測りたいと思います」


 きた!異世界転移定番イベント!さぁ行くぞ!


「ステータスオープン!」


 私は右手を思いっきり左から右に振った。しかし何も起こらなかった!


「……大丈夫そうですね。ではこれより訓練所に参ります」


 シーンとした空気の中、無かったことにされた私は顔を真っ赤にして俯いた。あると思うじゃん!

 陛下と王女様に一礼をして、宰相に続き謁見の間を後にした。


 訓練所に向かう道すがら、私とチビッ子はキョロキョロと周りを見渡していた。

 やっぱり中世ヨーロッパみたい。テンプレだね。科学技術はあまり発展していないが、魔法技術があるのでそれなりに不便はなさそう。ランプとかも火じゃないしね。お風呂に関しても毎日用意してくれるみたいだ。

 メーデルさんに質問しながら歩いていたら、ほどなく訓練所に到着した。


「ではまず近衛騎士隊長殿と模擬戦をしていただきます。その後魔法適正を調べたいと思います」

「いきなり模擬戦?私一度も戦ったことない」


 チビッ子がちょっと抗議する。そりゃそうだわな。普通の学生さんは物騒なことしないよね。


「大丈夫ですよ。まずは動きを見るだけで、騎士隊長殿は手を出さないことになっていますので。伝承によりますと、異世界の方々は皆途方もない魔力を持ってこちらに来ています。詳しくは後々訓練で教わるでしょうが、己の内にある魔力を使い身体能力を高める感じで動いてみてください」


 なるほど。さっきから感じていた体の違和感はそれか。使いたい部位に力を込める感じかな?


「では始めましょうか、シャローン殿よろしくお願いします」

「俺は近衛騎士の隊長を任されているシャローンだ!シャルって呼んでくれ!勇者殿との手合わせ楽しみにしてたぜ!」


 女性なんだ。こっちは女性差別あんまりないのかな?

 年は三十代前半かな?騎士なのに鎧を着ていない。スピードタイプって感じにも見えない。それは、はち切れんばかりの筋肉を見ればわかる。まさに脳筋っぽい。

 まぁそれは置いといて、すぐわかった。私と同類だぁ。

 戦うのが好きなんだろう。見るからにウキウキしてこちらを見ている。強いんだろうなぁ。私も楽しみだ。


「順番は先程自己紹介した順でよろしいですかね?ではネネ殿からお願いします」


 チビッ子が騎士から木剣を受け取り構える。少し隊長が残念そうな顔をした。わかるよー。隙だらけだもんね。


「何処からでもかかって来ていいぜ!俺は手を出さないから!」

「わかった」


 チビッ子が一直線に飛び出した。

 なかなか早い!目で追うのがやっとか?!気付いたら隊長の目の前で鍔迫り合いをしている。なんであんなチビッ子が?チビッ子自身もびっくりしてるね。

 その後何合か打ち合いチビッ子の模擬戦は終了した。


「身体能力はまぁまぁだな!」


 なかなか正直なお方のようだ。勇者相手にまぁまぁって。

 目に魔力を込めたら動体視力も上がったらようで、よく視れるようになった。こりゃ便利だ。


「では私の番ですね」


 木刀ではないが何時ものように賤岳流でいいでしょ。ここでは秘密にする必要なんてないのだし。

 私が構えたら隊長は目を細め僅かに口角を上げる。そういう表情は隠さないとダメだよ隊長さん。気持ちはわかるけどね。

 無言で地を這うように隊長に突っ込む。まずはこの体に慣れないと。

 いつもの感覚より遥かに早く隊長の足下に着き、下から上に木剣を振る。紙一重で見切る隊長、この初手は避けられる前提で、すぐさま手首を返し木剣を振り下ろす。隊長は微かに驚愕し木剣を受ける。弾かれたその力を利用し、後ろに下がる。

 楽しい!あれを受けられたのは父様以来だよ!


「何故下がるんだ?」

「いつもの癖ですね。反撃ありきで動いてしまいました」


 模擬戦なんていつぶりだろうか。しかも反撃無しなんて。


「では続けて行きます」


 元の世界での絶好調時を遥かに上回る速度で隊長に打ち込む。

 やばいこれ!スタミナも上がってる?!

 徐々に上がる剣速に隊長が捌ききれなくなる。

 僅かに見えた隙──そう、隙と言うには些か無理のある隙。

 もらった!隊長の木剣が反応できない足下に打ち込む。いくら木剣でも骨折ぐらいはするだろう。だが、それに構わず木剣を振り切った。

 ──つもりだった。


 バキィ!


 鉄にでも打ち込んだ感覚で手が止まり、唖然とした私は動きを止めてしまう。

 ヤバい!思わず見上げた隊長の顔は渾身のドヤ顔で、物凄くイラッとした。


「ここまでだな」

「最後のは何?」

「動きは素晴らしい!しかし、まだまだ覚えることがあるということだな!」


 くっそー!なんであんな堅いんだよ?!魔力のおかげか?!


「勇者様方、次は魔力適正に移りたいと思います」


 憮然とした表情の私に構わずメーデルが先を促す。訓練所の壁際に豪華なローブを着た老人がいた。

 うわ、気付かなかった。夢中になりすぎたな。


「こちらが首席宮廷魔道士のウラバロス殿です」

「勇者様方よろしく」


 メーデルさんに紹介されたお爺ちゃんが一礼をする。

 白髪頭のなかなか渋い印象を受ける。


「早速始めよう。『解析(アナライズ)』」


 私とチビッ子に魔法をかける宮廷魔道士。

 初めて見た魔法が解析(アナライズ)かぁ。地味だな。いやでも、転移の魔法が初めてになるのか?魔法と認識してなかったからやはりノーカンか?

 どうでもいいことを考えてる内に適正検査は終わったようだった。


 結果

 チビッ子──闇、火、風、水、土

 私──なし


 うそん?!まじで?!適正ないの私?!こういうのってすごい才能が発揮されるんじゃないの?!というか、チビッ子がすごい。

 帝国の首席魔道士に匹敵する才能らしい(属性魔法は四元素と光と闇の六種類)。

 無属性魔法だけ、適正検査でわからないらしいからそっちに期待かなぁ……。


「ハハ!そんな顔をするなよ!あんたには二人といない剣術の才能があるじゃないか!」


 何笑とんねん。


「いや、別に……」

「ほう。シャローン殿がそこまで言うとは。見た限り儂にはさっぱりじゃったが」


 凹む私を余所に盛り上がる隊長と宮廷魔道士。


「では本日はここまでにしましょう。食事と湯浴みの用意は整っていますので」


 ご飯美味しいのかな?っとか考えていると。


「あの、一つ質問が」


 チビッ子が手を上げていた。


「はい、何ですか?」

「元の世界って帰れるの?」


 あっそっか?!忘れてた!

 大体帰れないよね。こういうのは。


「帰還の魔法はあるにはあるのですが……。伝承のみで伝わっている代物でして。実は今回の召喚も、成功するかどうかわからなかったのですよ」


 あぁ、そういうことか。


「召喚の魔法は王女様が使えたのですが、帰還の魔法は一か八かに……」

「そうですか」

「申し訳ございません。ですが、勇者様方はこのスヴァイル王国が国を挙げて援助いたしますので、何卒……」


 あまり悲壮感のないチビッ子と悲壮感たっぷりの宰相。

 私が言うのもなんだけど、これ誘拐だよ。確信犯の。

 もっと怒っていいと思うけど……。


 食堂は学食みたいなとこじゃなく高級レストランばりのとこだった。


「すごっ!」

「これより一ヶ月間、御二方にはここで食事をとっていただきます」

「外には出れるの?」


 一ヶ月間缶詰めはキツイ。


「ええ。護衛の騎士を付け、貴族に偽装させていただきますが」


 護衛という名の見張りか……。当然決められた範囲内だけなんだろうな。

 まぁ私の当分の目標は、あの隊長に勝つことだからいいけど。


 食事を終えて──想像よりおいしかった──与えられた部屋に向かう。

 個室で風呂付きだ。しかも、メイドが一人につき一人着いている。至れり尽くせりだな。


「さて」


 お風呂に入り、寝る前に少し考えを纏める。

 魔王を倒す勇者として召喚された。今のところ国は全面的に私達の味方。キチンと教育プログラムもありそうだ。元の世界には……。戻らなくていいだろう。あんな生活は……。

 さすがに疲れていたのか、考えてる内に夢の世界へと旅立っていた。

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ