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熱の手  作者: 壬哉
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第21話

 あれから学校には行っていない。

 怪しまれないように、一応家を出て、いつもの帰宅時間には家に帰る。でも、私服で歩き回る。

 そんな日が続いた。

 学校に行くと、あの女に会うから。という理由ではない。学校自体違うから、会うことはないのだが。

 歩き回っていれば、何かが分かるかもしれないなんて、甘い考え。

 滅多に行かない道や、確実道に迷っているだろうと自覚しても、焦ることなく思うがまま足をすすめる。

 そんなある日、丁度変な空気の場面に出くわした。といっても、当事者たちには気付かれてはいないのは運がよかった。

 少しだけ立派な家の前で、男二人が言い合っている。

 ついつい身を隠せれる場所に隠れてしまう自分の気の弱さ。

「どこにつれていったの?」

 と睨み付けるように、背の低い、黒髪で、色々なところに友達いっぱいいますといわんばかりな、友達には困らないだろうタイプの男の子。いや、少なくとも俺よりは年上だろう。

「どうして疑うんだよ」

 と、比べれば身長が高いほうで、少なくともいじめられるタイプではない、チャラチャラしていてもおかしくない容姿の男性。

 高校生だろう。睨み付けてきている背の低いほうの2、3歳上だろう。

「だって、最近の相澤おかしすぎる」

「どんな風に?」

「前みたいな楽しさが消えて、すごくピリピリしてる。なにかに追い込まれてるみたいに」

「ピリピリなんか……」

「じゃぁ言い方を変えるよ。最近の相澤は、あからさまに隠し事をしているって顔してる」

「なっ……」

「ねぇ相澤。杵島になんかあったら、ただじゃおかないよ?」

 きっと、話的に、背の高いほうが相澤で、つれて行っただか連れていかれただかした人は、杵島というのだろう。

「そっ……そうやっていっつも俺をのけ者にするのか?」

「あ?」

「いっつもお前は杵島贔屓だよな」

「なにいって……」

「いっつもそうやって杵島杵島って……。そうなったのも、おまえがどっか遠くに行ってからだ!」

「あれは!」

「しかも、二人で電話で相談して言いたい放題言いやがって……」

「相澤……確かに杵島とは電話をした。でもなんでそれを知っている?そういえば、最近の杵島と二人で話すことが多かったよなお前……お前だって人のこと言えるのかよ」

「何で知っているのか? 忘れたのか? 俺は水を操れるんだぜ?」


(操れる!? どういうことだ)


「忘れてはいないけど……それとこれと何が関係して……」

「あの日は雨が降った。杵島が飲み物を飲んだ。それを言えばわかるか?」

「え……」

「……でもあれは、相澤も知らなかったって……じゃぁその前のは故意的に……?」

「どっちも故意的にやったさ。最初は、朝から降らせるつまりだったから持ってきた。でも、

電話の日はあいつが遅れてきた。そこでこそこそ話してるのがきになって、その時雨を降らせることを決めた。だから傘なんて準備はしなかった。とりあえず、その雨におまえらをあてたかったからな」

「でも、雨にあたってどうやって会話を?」

「雨を通じて盗聴。簡単なことさ。でも、水には流れがある。乾いてしまったら終わり。だから、杵島の準備した飲み物に寄生した。杵島に付着した雨の水滴を落として飲み物に増幅。わかるか?」

「そんなことまで……」


(もしかして、こいつも渉みたいに……?)


 水を操るだとか寄生だとか、なにを現実離れしたことを行っているのか。

 もしかしたら、この人たちなら渉の力のこともわかるのではないか。渉が帰ってくる、その理由を。

「裏切ったの……?」

「裏切った? ……まぁ、裏切ったことになるのか」

「じゃぁ、杵島とふたりっきりで話してた理由は? 俺に内緒で」

「特にない。目的は、お前を一人にすることかな」

「杵島をどこかに連れていったのも……おまえが?」

「まぁね……」

「杵島をどうするつもり?」

「さぁ? どうしようかはこっちの勝手。教える義務はない」

「連れていってよ。杵島のところに」

「……それはできない」

「どうして?」

「どうしてもだ」

「……明日、学校には来るんだよね」

「さぁな」

「どうして? なんでそんなんなっちゃったの!? 相澤、誰かに頼まれたの? 首謀者はだれ」

「知る必要はない」


(あれ? 途中から、目を見てない……)


 いつからかは気付かなかったが、すごく苦しそうな表情をして、必死に言葉をつないでいるように見えてきた。

 相澤という男のほうが。

 強気でいた頃は、目線をあまり外さずに話していたというのに、なにかきまづい会話になったかのようだ。

「必要はないって……知る必要があるから聞いてるんだ! 俺のダチ連れていかれて、はいそうですかっておとなしくしてると思う!?」

「おとなしくしているのが懸命だ」

「俺さー、常識とかー力のこととか……、相澤や杵島達よりも知識がないのは自覚してる。でも、それに親友を助けることとは関係ないと思わないか? 今大事な人が、自分の知らない場所で、どんなことをされていてどんなことを考えているのかすごく気になる。俺たちが尋常じゃないのは自覚した。だからこそ、俺もかかわりたい」

「かかわってどうするつもりだ? 力を使うことのできないお前は、ただの杵島のお荷物にしかならないかもしれないぞ?」

「力がないものは力がないなりに。力がないからこそできることを探すことだろう?」


(違う……)


 力がないなら、引っ込んでいるのがいい。

 もし、渉とこの人たちが言っている力が同じであれば、力がないものは無理をする意味はない。

 無理をすれば、力あるものが、力無き者をかばい、失ってしまうかもしれない。

 渉のように……。

「頼むから……」

 相澤という男が、弱々しい声を出したあと、小さい人のほうに足をすすめてきては、両肩をやさしく捕み、ピタッと体がくっつく。

 小さい人との身長差で、額がかるく相澤の右肩に触れている。


(耳元で何かをしゃべった?)


 さすがに何をしゃべったのかまではまったく聞こえなかったが、確かに何か話した気がする。

 それを確認した瞬間、相澤の片腕が、ずしりとした衝撃をかけるように小さい人の腹に食い込むように見えた。

 衝撃で気絶したのか、グラリと体は揺れた身体は、ガシッとしっかりした相澤の腕に納まった。

 その時の、相澤という男の表情は、すごく苦しそうで、なにか悔やんでいるようにも見えた。

 そっとお姫さま抱っこをするなり、どこかへ連れていこうとしている。

 会話を聞いてしまった手前、このまま家に帰ることはできず、気付けばその男を尾行していた。

 男一人担いで、街中を歩けるわけではない。

 できるだけ人通りがないところを歩こうとしているのか、もともと、人通りのないところに目的地があるのか。人通りが少ないというよりも、人とすれ違うことなく、相澤はある一つの店に入って行った。

 目立つ飾りもなく、近くまで行かなければ店だとは分からないじみなお店だった。

 少しだけ中を覗いてみると、じみな割にお客さんだけは豊富らしい。この中に雑ざってしまえば、探すのは一苦労。

 喫茶店ではなく、クラブみたいな作りで、座るような椅子はなく、丸い背丈にあうような小さめのテーブルが等間隔に並べられている。

 さすがに、中に入る勇気はなかった。

 ただでさえ、俺の容姿は中学生。入りにくいことこのうえない。

「帰るか」

 特に助けてやれそうもない。

 深追いしすぎて、自分が危ない目に会うのもいやだ。それに、もしかしたら助けてほしいとは思ってもいないし、助けられないほうがいいと思っているのかもしれない。

 へたに手を出して、ゴメンナサイで済まされる雰囲気でもなかった。

 回れ右をして、来た道を戻ろうかと振り向いた瞬間。

「わっと……ごめんなさい」

 真後ろに人が居たことに気付かず、ぶつかるところだった。

 女の人。

 髪は長くて、軽くパーマが入っているようだった。クルクルというイメージを持つ。

 顔もくっきり二重で、真ん丸な瞳に見える。

 身長は高くも低くもない、160cmを超えているだろう程度で、この店に来慣れている様子だった。

「いいえ。中に入らないの?」

「あっ……はい。すみません」

 こんなドア口で話し込むわけにも、不思議がられるわけにもいかなかった。

 すっと、女の人を横切り、自宅だろう方向でも、迷うだろう違う方向でもどちらでもよかったから、とりあえずその場から離れることだけに集中した。

 その女の人が、その後どうしたのかは分からない。中に入ったのか、その場に離れたのかは。






「こ……怖かったぁ〜」

 家に無事着くと、玄関で座り込んでしまい、今まで言うに言えなかったことを口にした。

 別にそんな特別なことをしたわけではないのに、何かに緊張していて爆発しそうだったのを必死に抑えていたけれど。

「もう限界……」


(何で関わりそうだったんだろう……)


『関わらなければ楽なのに』

「え?」

 不意にやさしい声が耳元。いや、頭のなかに直接響いてきた。

 姿の見えない何かが。

 でも、俺の声に似ていた。

「渉……?」

『ワタル……? あぁ、おまえの片割れか』

「誰だよおまえ…どこにいる…?」


 辺りを見回したが、どこかにいるという気配はしなかった。

「やべぇ……俺相当きてるな」

 額に手を当て、熱があるのかと不安になってみる。

『おまえ意外とバカなのな』

「あーハイハイバカですよ。やばいよ俺、ついにおかしくなってきたのか……自分の声が自分に話し掛けてきてる」

 あまりにも自分の声。いや、正確に言えば渉の声。

 俺と渉の声は、特別違うところがない。だから、自分の声か渉の声かは、録音しただけでは違いが分からない。それくらいわからない。

 何も考えないようにしながら、上着を脱いで放り投げ、自室へ入ってベッドにダイブした。


(明日もこんな感じだったら病院行こう)


 目を瞑り、そのまま夢の中へと落ちていく。





「わた……る?」

『だったらうれしかった?』

「……微妙」

『へえ、意外』

「さっきから意外意外うるさい」

 声の持ち主は、俺の夢にまで現れた。まったく、不謹慎この上ない。

 姿は、渉そのものだった。声から姿まで渉だなんて。

 ただニコニコとほほえむ姿の渉。

『怒りやすいっぽいのは知っていたけどな』

「だからうるさいって! 姿や声は渉でも、性格はまったく違ってありがたい」

『感謝しろよ』

「でも、姿や声が似てるのは許せれないな」

『知っている』

「なに? 知ってる知ってるってさっきから! 俺の何を知ってるっていうんだよ」

『すべてだよ』

 ただ微笑んでいた渉の顔が、少しだけゆるみ、なにかを企んでいるような意味ありげなほほ笑みへとかわった。

 そのほほ笑みは、背筋をゾクッと寒気で震わせ、一歩退わせた。

「どうして?」

『ずっと一緒だったからだよ』

「……そう」

『驚かないんだ?』

 驚くべきなのだろうけれど、なぜか納得させられた。

 あと一つ理由を述べよというならば。

「所詮夢だ。夢なんかに驚いてたまるか。どうせ目が覚めたら全部忘れてる」

『それは悲しいことで』

「泣いても胸は貸してやらねぇぜ?」

『違うよ?』

「……は?」

 にっこり笑顔で首を振る。

 何がどう違うのかと、ついに思考が停止した。

『悲しいのは君だよ』

「はぁ? てめぇなにいって……おい!?」

 渉の姿が、どんどん遠くに離れていく。

 足は重たくて動かない。

 必死に右腕をのばしても、伸ばし切れていないような間隔に囚われ、もっともっと奥にと、必死に伸ばす。

「いやだ……いやだわたるー!」




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