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熱の手  作者: 壬哉
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第12話〜スタート地点



 恐れと恐怖が交ざりこみ、一気に何もかもを胸のどこかに入り込んできたような感覚が、ずっとしているのだ。

 さっきの杵島の言葉に、嘘はまったくないだろう。

「あいつを“怖い”って言っちゃうと、自分のこの力まで“怖い”ってことになるんじゃねぇかな?」

「……杵島の言ってることはわかるよ。わかりすぎて怖い。……、相澤は、相澤はオレらと三人で居たいっておもう?」

 杵島と肩をぶつけるように座って、俺とは向かい合っている状態で、いきなり話を振られて、少しばかりキョトンとしていた。でもそんな間抜けな顔はすぐに戻り、にやりと口元をあげて話に入る。

「俺が思わないとでも思うか?」

「この先どんな障害があったとしても?」

「障害なら乗り越えるなり耐えるなりできるだろ?」

「どれだけよじ登ったって、乗り越えられない壁なら?!」

 色々と出てくる想像と妄想で、相澤を攻めていく。

 相澤に麻紀を会わせなければいい。ただそれだけ。“それだけ”が“こんなに”に。“ただ”が消え語尾の“も”になったとしても、どうにか耐え、どうにかして生きていこうとするそれがないかぎり、一緒に居ては危ないから。

 今はまだ、“ただそれだけ”で済む話。でも、相澤のことも杵島のことも話していないからこそ、色々事情があってこっちにあの二人が会いに来てくれたら? “こんなにも”大変なことはないと思ってしまうかもしれない。


(こんなことになるなら、話しておくんだっただろうか……でも)


 でも、キョウダイと二人が会うということは、もちろんその場に俺がいるかもしれない。

 ということは、互いが互いに危ない状況に追い込まれる。

 はっきりはまだしていないが、炎だろう俺の力と、キョウダイの兄の炎はきっと同じだ。

 もし、会うときに俺が力を手に入れていたら?

 相澤を失い兄を失う。

 麻紀は、大事な人を失うのを体験してしまい、同時に違う近くの人も失う。同じく、俺は一気に大事な人を二人失うことになる。

 そうなると決まったことではないだろうが、いつかはなってしまうというのが怖かった。

 もしそうなったとすれば、麻紀は大事な人を失い、一人にさせてしまう。

 そうなった場合、麻紀はどうなるのだろう。


(でも、まだ俺が炎だと。証を持っているとははっきり言えないよね?)


 あれからあの人が夢に出てこない。

 というか、夢自体を見なくなっていた。

「んーまぁ、そん時はそん時考えるしかないんだろうけど、良い方向にもってくよう努力でもチャレンジだって、なんだって命かけて頑張って乗り越えてみせるさ」

 にっこり笑って、優しく。でも、どこかに力を入れて語っていた。

 強い。


(やっぱ二人にはかなわないなぁ)


 つられたかのように、俺もにっこり笑って言う。

「うん。二人はやっぱり強いなぁ。俺も置いてかれたくない。俺だって、二人みたいな力ないかもしれないけど、ないなりに頑張れることは人一倍頑張るよ」

 まだ俺に力があるなんて決まったわけじゃない。

 と言い張りたいのだが、いつだかに見た夢で俺は力が本当にあるんだろうという確信を持たされる夢をみていた。

 俺じゃない“沚”が、必死に力ほしさにしがみついていた。

 でもあれも、きっと俺のどこかの心なんだろう。

『うん』

 杵島も相澤も、にっこりと笑って頷いた。

「……って何でこいつと息ぴったりに一つ返事してんだろう俺……」

「ったく。この空気でそれを言うか? 少しは場の空気を読んで、グッと我慢しろ。俺だっておまえと息が合うなんて最悪な気分なんだよ」

 ケッと文句を遠慮なしに言う相澤と、冷静にそれを同意しながらも、いやそうな口を叩く杵島。

 相変わらずで少しホッとした。







(そっか……。俺ももう覚悟を決めなきゃなんだな)


 心のどこかで何度も思っていたことも、もう最後になってしまう。

 家に着いた俺は、暗くなっていた部屋に電気を着けて、上着を脱いでベッドにダイブした。

仰向けになって左手を見る。

 熱くなることが、たまにある。ということから、しょっちゅうあるようになり、いまに至っては熱くないときの体温を忘れるくらいだ。

 だからこそ余計に、異変というものを感じてこなくなっていた。

 でもわかる。

 頬に手を乗せると、左手だけが異様に熱い。手の中で発火しているかのように、あたたかいのだ。

「手の中で……」

 ソッと離して両手を見つめる。

 外側は、誰と大きな違いもない、細胞と筋肉、骨と皮でできた、やわらかいとも言い難い男の手。

「うん……わかった。今の俺には何もできない。自分を知ることからがスタート地点だったんだ」

 きっとそれを知るために、キャンプに行き、突発的に旅に出た。

 この変哲もない“沚”という皮を羽織った自分を、より良く知るために。

 でも俺はその機会を見失っていた。すぐそこにある答えすら、見つけだせないほど、視界を自分で縮めていたんだ。

 そしてきっと最後の猶予を、神だか仏さんだかが与えてくれて、漸く見つけることが出来た。

 杵島や相澤によって出来た、俺のスタート地点。

 

 

 

 

 


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