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熱の手  作者: 壬哉
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第1話

 


 よく見る夢は、炎に囲まれ、周りには誰もいない。たった一人で 「どうしてこんなことをしてんだろ……」 と、自分が炎を点けたかのような感想を持っていた。

 周りは赤と黒しかなく、それが逆に不気味な気分にさせている。

 他には特に変わったことはなかった。

 今までは。

 生まれてきてから、何の根拠もなく考えてしまうことがある。自分への問い掛け。「どうして生まれてきてしまったのだろう」と、「生まれていてはいけない」だ。

 一つは問い掛けだが、もう一つの感情だけは、自分には理解ができなかった。どうして自分には理解できないことを、自分に言い聞かせる呪文のように、グルグルと頭の中を彷徨い続けているのだろうかと。

なぎさっ。今日どっか寄っていくだろう?」

「あたりめぇじゃん? 学校帰りは、騒ぐ遊ぶ叫ぶだろ?」

 疑問に追われながらも、必死に高校生活をエンジョイしているつもりだ。

 友達も不自由なくできたし、友達を大事にしないでなにをするんだという性格な俺は、自分がしてやれることは頼まれればするなり、手伝うなりした。それしか自分にできることはないと思ったからだ。

 小さい頃から、特別何かができるわけも、アプローチ出来る何かもなかった。

 一つ言うなら、他人よりも、左手が熱をこみやすいことだった。

 利き手ならば少しは納得できたものの、期待を外すこと利き手は右で、投げ手も右だ。

「ば・あ・か。こんな雨のなかどうやって寄り道する気だよ」

 寄り道に誘った相澤の後ろから、思いっきり遠慮を知らずに、頭を狙って前の席の相澤の筆箱を振り下ろした。

 相澤の席は、窓の外を眺めていたおれらにとって、かなりの死角となっていた。

「バカはお前だ杵島きしま! 筆入れで殴るなら、こいつの筆入れを使えっ」

 問題はそこなのだろうか。

 雨が降っていることを忘れるためにも、こうやってばか騒ぎの話をしていたそこに、雨の話を持ち出すなと。そこに怒るつもりでいた俺は、話のすれ違いに素直に驚いた。

 相澤の筆入れよりも、俺の筆入れのほうが、素材的にも中身的にもやわらかく、殴られても普通の筆入れで殴られるよか、よっぽど痛くはなかった。比べればの話だ。

「だって丁度近場にあったのがお前のだったんだ。筆入れにしつけがなっていないな」

「お前は天才的なバカだな。筆入れに躾なんてできるものか」

 基本的には俺を入れたこの三人で行動することがおおい。

 杵島と相澤はよくこういった怒り場所が理解できない内容の喧嘩をする仲良しだ。

 最初顔を会わせたときからこんな感じだったから、昔からの友達なのかと思って聞いたが、 「昔も今もこんなやつとあったのは今が初めてだ」 と、二人息をあわせていった。

 しかし、これは二人の言葉を混ぜていっただけであって、二人は少々違うようで同じようなことをいっていたかもしれない。

 初対面にしては凄く馴々しい気がした。そんな二人が羨ましいと思い出したのは、いつからだろうか。

 ちみっちゃいことで口論し、プイッと顔をそらし、相手が謝ってくるまで俺は知らないぞと言うような空気を二人して醸し出されている。

 相澤は杵島が俺の近くにいないとき。杵島は相澤が俺の近くにいないとき。どうしてか俺に相談まがいなことをしてくる。どちらかといえば愚痴なのだが、やっぱり二人が怒っているところを理解するのは、至極困難だ。だから共感も慰めることすらない。

「どうすればそこで怒ることができるんだ?」

 と言いそうになるのを毎度も息を止め、笑いを堪えてしまう。

 何せ二人は本気で口論をするのだ。

「女子ってすごいよな」

「……何をいきなり」

 口論中、空気をぷっつり切るかのように体をひねって教室内にむかせ、雨に動揺しない女子を遠目に見ながらもそういった。

 二人は口論を一旦休止した。

「だってさ、雨降ったって女子は折り畳みいっつも常備だからさ」

「だったらお前も持ってくればいいと思う……」

 杵島は少し呆れるような口調で言う。

 確かにとも思えるけれども、凄く女々しいイメージがあるため、どうしてもためらってしまう。それに何より、今日の朝は雨なんか降るような天気ではなかった。

 よく当たると評判の天気予報だって、今日一日快晴で、洗濯日和だといっていた。

 母は洗濯物を干す準備をし、登校中には、鼻歌を歌いながらも愉快に洗濯物を干す主婦も見た。

 きっと今頃、急いで力強い雨に当たった洗濯物を引っ張り取っているだろう。そして天気予報にブツブツ文句を言いながら、再び洗濯機にそれを放り投げていることだろう。

「杵島は持ってきたの?」

「んな女々しいもの持ってくるもんか」

 同意見だ。

 そう思わない人もいるのだろうが、少なくともおれらは思う側だった。

「そうか。なら俺は先帰るかな」

 言いだしたのは相澤だ。

 いきなり立ち上がり、にやりと微笑んでいる。

「もしかしてお前」と俺が。

「女々しいものを持ってきていると!?」 と杵島が言った。

「おぅよ。おまえら曰く女々しい女々ちゃんをもってきているさ」

 誇らしげに相澤が言う。

「相澤様どうか一緒に入れてくれないでしょうか??」

 ギュッと相澤をつかみ、助けを求めるように、じっと見つめる。

「ふっ……キスしてくれたら入れてやってもいいかもな」

 なんて、軽く格好つけて言う相澤に、俺はたちあがり杵島と回れ右をして、教室から出ようとしながら言う。

「購買で傘買ってこよー」

「割勘して相合しねぇ?」

「杵島ナイスアイディア」

「いや冗談だから! 退くな! 俺なしで話をすすめないでくれ」

 ガシッとオレらの肩をつかみ食い止めてきた。




 もちろんのこと土砂降りの雨は、放課後までも弛むことなく降り続けた。

 玄関には傘を開き、いまにでも校外にでる人や、もうすでに出た人。傘がなくて笑いながらもどうしようかといっている男子たちが見えた。

 校内にいる必要もないし、いつもの勢いのまま、杵島と相合傘をし、右手に相澤と挟まれながらもいつもの道程を、何気なく意味を成さない会話をしながら帰っていった。

 三人とも別々の地区だからこそ、途中の交差点で三人ばらばらになる。朝は、そこで三人バッタリ会う。

 特に前からそこで会おうなどという計画や、約束なんてものはしていない。ただ、たまたま登校時間が重なっただけなのだ。

 ジャンケンで負けたため、杵島と買った傘は杵島行き。土砂降りのなか濡れて帰るという運命を背負った自分。ジャンケンの存在を恨んだ瞬間かもしれない。

 じゃぁなと手を軽く振りながらも、相澤は右手の信号が青になったその時歩きだした。

「信号が青になるまで一緒にいてやるよ」

杵島はくすっと微笑みながらも、真っすぐの道を行くため、目の前の信号が青になるまで待つ俺を、信号なんて関係の無い左側に歩いていく杵島は待っていてくれた。

「悪いね」

「いえいえ。ハイシャさんが余計な時間まで雨に当たり風邪を引かないためにね」

「歯医者さん?」

 首を傾げながらも俺は杵島を見上げた。

「敗者復活戦の敗者。要はジャンケンの敗者だ」

「あぁ。なるほど。勝者さんはいいですね、信号なんて七面倒な物を利用しなくって」

「良いだろ。場所は譲らねぇぞ」

「いいよ。学校帰りに斜面を上るだなんて、余計に疲れるような道はゴメンだ」

 杵島の方向は、少しだけ斜面であり、それが帰りに上り坂になるという疲れるような道程だ。

 それならば、信号をじっくり待つなり、信号無視をするなりしたほうが、平和に生きていけれるような気がした。

「確かにな。まぁ、風邪引かねぇようにこれを貸してやろう。ちょっと傘持って」

 すっと傘を差しだしてくるものだから、受け取りながらもボソボソっと質問をする。

「傘を譲ってくれるの?」

「ちゃうわボケェィ」

 笑いながらもそういいながら、学生服の上を脱ぎワイシャツのみになる。

 脱いだ上着を俺のうえにぼさっとかけ、ポンポンッと二度ほどたたき、傘を取り上げられた。

「えっこれじゃぁ杵島が風邪引くぞ?」

「引いたとしてもお前よりはひどくはないだろう」

「だとしてもっ」

「いいから。そういうときはありがとうっていうんだよ!」

「……ありがとう」

「よく言えました。ほら青だぞ」

「うん。じゃぁまた明日ね」

「おう」

 青なのを確認し、走りだした。

 フッと後ろを振り向くと、見えなくなるまで待っていてくれるつもりなのか、まだわかんないや杵島の姿が見えた。

 何だかそれが、杵島達をみる、最期な気がした。

 そんな気がするのは今日だけのことじゃない。

 スッと熱の籠もりはじめた左手の甲を右手で軽く擦りながらも、雨の中を走り抜けた。

 自分だけが、みんなの流れから逆らっているような気がした。

 それはただ俺の家の方向に、通っている学校よりもレベルが高く、近い高校があるため、そこから下校してくる生徒でまみれるから。

 水飛沫を作るように走り去る学生や、傘をさしてのんきに歩く学生。みんながみんな、一点だけを見つめ、自分とは違うところに消え去ってしまうのではないだろうかと。曇りの日になると特に不安になる。

 住宅が並んでいるとおりに出ると、自宅が見える。

 いつもは人通りがないというわけではないのだが、雨だからか、人が歩いている様子も、窓から外を眺める人もいなさそうだ。

 辛気臭い町中にでも来たかのようだ。

 土砂降りで、暗いせいなのか、家に近づいていくなり家の前に人影がある。ただぼんやりと、家を眺めるだけのように。

 でも近づいていくと、2つの異変に気付いた。


(熱い……)


 近づくにつれて、左手が燃えるかのように熱くなっていく気がした。

 もう一つの異変は、そのつっ立っている男の人だろうの異変だ。

 男の人は雨のなか、傘をさすわけでも、雨宿りができるような位置にいるわけでもないのに、雨に濡れる様子が無い。その人の周りが、見えない何かに包まれているかのようだ。

 いつのまにか俺は足を止めていた。

 杵島の学ランから、雨がしみ込んできているのを、俺は頭に感じられる。

雨は確かに降り続けている。

 地面を叩き、周りの音をも叩き消すかのように力強く降り続く。

 近づいていくべきか、ここでこの人が去ってくれるのを、じっくりと待つべきか。今の俺には、ただぼんやりと悩み続けるしかないのだろうか。

 雨は止んでくれない。

 ジワジワと俺をびしょぬれにしていく。

 退いてくれる様子はないが、俺の存在に気付いてくれたのか、ゆっくりとだが、首をむかせてきた。

 怖いのか、肩がびくっと力強く跳ねてしまう。

「あの……ウチになにか?」

 かなりの勇気を振り絞り、口がようやく開いた。

 本当は自分の家ではなく、隣家をみていたのかもしれない。少しそれは恥ずかしい気もするのだが、そうだということを期待してもいた。

「君……気を付けたほうがいいよ」

「えっ……?」

 スラッとした、透き通るような声だった。

 今にでも消えてしまうのではないだろうかというようなこえを、俺は確かに聞いていた。

 こんな土砂降りのなか、数歩はなれている人の声を、すぐ耳元で聞き取っていた。

 一瞬にして体中に鳥肌がたった。

「君には守れる? 人を……大事な人を」

 言っている内容が唐突過ぎて、うまく理解できずに、瞬きをした瞬間、数歩離れていたはずの男の人が。

 本当に一瞬だけの瞬きだったのに。

 その間にこんな。今にでもぶつかるかのような位置に、男の人が変わらぬ表情で立っていた。

 声を出して驚く暇さえなく、俺の意識は遠退いていた。






 


滅多に書かないファンタジーものです。

更新がすごく遅かったりすることもありますが、最後まで付き合ってくださるととても嬉しいです。

これからよろしくお願いします。

時代は現代ものと一応してもらっていますが、不安なところです。一応希望として現代とさせていただきます。

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