日本語再入門講座【音声・音韻】 「紙」 と「神」 ~高低アクセント~
見渡す限りの真っ白な空間。
青年の前に威厳がある老人が立っていた。
「わしは『かみ』 じゃ」
老人は青年にこう告げた。
「かみ……紙?」
素なのか冗談なのか青年は老人の言葉を繰り返した。
「違う、『紙』 ではない! 『神』 じゃ」
老人の悲哀に満ちた叫び声が響いた。
◆◆◆
読者の皆さん、こんばんは。
私が即興で(適当に) 作った異世界物系小説の出だしはいかがだろうか。
まあ、お世辞にも面白いとは言えないだろうが、この際それは脇に置いておこう。
私に小説執筆の才能がないこと位は、分かっているつもりだ。
さて、なぜこのような小説家の様な真似ごとをしたかだが、2人の会話に注目してもらいたいからだ。
「紙」 と「神」。
どちらも平仮名で書けば「かみ」 であり、同じ音だ。
しかし、私達日本人は「紙」 と「神」 を聞き分け、また言い分けることができている。
近くに日本人の家族や友人がいるのなら、「紙」 と「神」 のどちらを発音したかクイズしてみるといいだろう。生まれも育ちも同じ日本人同士なら、おそらく百発百中で正解できるだろう。
さて、ここでひとつ疑問ができる。
なぜ表記上は同じ発音である「かみ」 なのに、我々日本人は使い分けることができるのだろうか?
このような言語の「音」 に関する学問を「音声学・音韻論」 という。
まず結論から言うと、「音の高さ」、つまりアクセントが違う。
日本語では言葉を「音の高さ」 で区別しているのだ。
と言っても、いきなりではイメージしにくいだろう。
そこで音楽の「ド」 と「ミ」 の音で考えてみよう。
「ド・ミ」 の音階で「かみ」 と言うと「紙」 の発音になる。
「ミ・ド」 の音階で「かみ」 というと「神」 の発音になる。
実は日本語は全ての単語や文章が「高低アクセント」 で出来ている。
例えば以下の文章の高低はどうなるか。
「私は学生です」
読者の皆さんも音の高さに注意して発音してみてもらいたい。
正解は以下の通りだ。
わ(ド) た(ミ) し(ミ) は(ミ) が(ド) く(ミ) せ(ミ) い(ミ) で(ミ) す(ド)
いかがだろうか?
正しい音階で発音出来ただろうか?
このように日本語の特徴のひとつとして、「高低アクセント」 がある。
2015年9月13日訂正