日本語で日本語を教える ~直接法と間接法~
――日本語学校で外国人に日本語を教えています。――
このように自己紹介すると、必ず聞かれることがある。
「へえ、英語で日本語を教えているの?」 と。
読者の皆さんも、同じように考えているだろうか?
残念ながら答えは「ノー」 だ。
日本語で日本語を教えている。
こう答えるともうひとつの疑問が出てくるだろう。
――日本語が分からない外国人に、どうやって日本語だけで教えるのだろうか?――
方法は色々とある。ジェスチャーを使ったり、絵カードや実物 を見せたりして、授業を行う。
例えば「私は○○です」 という文型がある。
この文型は教科書の最初に登場する文型で、○○に名前や職業等の名詞が入る。
これを日本語だけでどのようにして教えるのか簡単に紹介しよう。
まず、教師や学生、会社員等の絵を見せる。
教師が「学生」「会社員」等と発音し、学生が教師のあとに同じ言葉を繰り返す。
絵があるので、それが学生にも何の職業であるかが分かる。
ある程度繰り返して、学生が職業の名前を覚えたら教師自身を指し「教師」 の絵を見せながら、「私は教師です」 と言う。
次に学生を指し「皆さんは学生です」 と言う。
また教科書に登場する人物を見ながら「○○さんは会社員です」 など、順番に入れ替えていく。
このようにして授業を進めていくのだ。
さて、このような「日本語で日本語を教える」 方法を「直接法」 という。直接法では目標言語(この場合は日本語) 以外は一切使わない。
一方で学習者が分かる言語で解説をしながら教える方法を「間接法」という。
例としては日本の中学・高校での英語がこれにあたる。
英語を勉強する時に教師や学習者が分かる日本語(媒介語) を使い勉強する方法だ。
つまり言語学習では「直接法」 と「間接法」 の2種類に大きく分けられる。
では、それぞれの特徴は何か?
直接法の特徴は、学習者の出身国に左右されない利点がある。
日本語を教えるのに、中国語やベトナム語、ネパール語が分からなくても問題ない。
短所は、媒介語が使えない為、学習者が言いたいことを言えなかったり、教師も説明に苦労したりすることもある。
例えば「~ないでください」「~なければなりません」 は同じ課で学習するが、直接法の場合以下のように説明する。
前者は、まずカメラの絵カードを用意して
「私は昨日美術館へ行きました。写真を撮りました」
従業員等の絵とカメラ禁止マークを見せて
「美術館の人です。美術館の人が言いました。『ここで写真を撮らないでください』」
後者の説明では、
「皆さんは毎日宿題があります。毎日宿題をします。ルールです。『毎日宿題をしなければなりません』」
簡単だが上記のように説明する。
これが直接法の教え方の一例だが、これでも分からない学生もいる。
英語の媒介語が使えるのなら、前者は “Don’t ~” 後者は “must” だと説明すれば一発である。
間接法の利点は、これに集約されるだろう。
だがもちろん短所もある。
ひとつは、学習者全員が媒介語(この場合は英語) を理解できるかどうかだ。
多国籍クラスの場合、媒介語が分からない学生がいたら不公平となってしまう。
また、学生が「先生は英語ができる」 と分かってしまうと、授業中でも質問を英語でしてくる様になる。これが間接法の問題点だ。
このように直接法と間接法の違いがあるが、日本語学校では「複数の国籍の学生がいること」 や「授業中に学生が媒介語を使わないようにするため」 等の点から「直接法」 を採用しているところが多い。
このように、私は日本語で日本語を教えている。
初めまして。
首都圏にある民間の日本語学校で働いています。
日本語学校や日本語のあれこれについて、書いていきたいと考えています。
筆者からすれば日常の内容ですが、以前大学の友人達に話したら面白がってくれましたので、書いてみようと思います。
不定期更新ですが、あたたかく見守って頂ければと思います。
宜しくお願いします。