表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

3回目ではまだ諦めなかった ②

15/6/24 デュサークの紹介に関して一部加筆修正致しました。

「あーっ、もう! また死んだ! ていうかヒロインは何やってんのよ。ヒロイン仕事しろぉぉーー!!」


 これは3回目の覚醒時に私が叫んだ言葉である。

 聞いていた周囲は目が点になったのは言うまでもない。

 その後も私はヒロインの愚痴をぶつぶつ呟いていたのだけれど、大人たちは気にせず儀式を進めていった。

 大人のスルースキルすげぇ。

 さすがにエリオリスは引き気味だった。

 それどころか「お前ちょっとうるさい」と睨まれた。

 そうよね、電波な婚約者は嫌よね。


 それよりもヒロインだ。

 1回目も2回目も私はゲーム同様、学園に15歳から3年間通っていた。

 しかし、ヒロインには1回も会ってない。

 イジメてると誤解されないよう、私が避けていたというのもあるが、ちゃんとヒロインらしく攻略対象と恋愛していたのならば、何かと噂になり注目を浴びそうなのにそれすらなかった。


 というか、恋愛以前に攻略対象に会っているのか!?

 登場人物紹介で真っ先に載ってるエリオリスの前にすら現れないってどういうこと?

 乙女ゲームの本質って乙女ヒロインがイケメンと恋愛して両思いになるなり結婚するなりすることなんじゃないのか?

 もしかしてヒロインが恋愛してない乙女ゲーム世界だからループしてんじゃないの?!

 いや、まぁ、私も悪役令嬢って役すっぽかして3回目って、人のこと言えた義理ではないですけどねっ!


 よーし、決めた!

 3回目はヒロインの恋を応援しよう!

 出来ればエリオリスに恋してもらって大団円が良いけれど、他の攻略対象者でもヒロインが好きになった相手なら誰でも全力で応援しよう。

 もし、その過程で悪役が必要ならやってやろうじゃない、悪役令嬢をっ!


「よーし、頑張るぞーっ!」


 思わず声に出てしまい、隣のエリオリスにめっちゃドン引きされた。


 とは言うものの、ヒロインが登場するのは学園に入学してからなので、それまで恋の応援をすることはできない。

 学園が始まるまでの間どうするべきか。


 私は隣のエリオリスを見た。

 金糸の髪が陽光に反射しキラキラと輝いていて眩しい。

 王子様然としたその輝きはエリオリス自身の内側から溢れ出す可能性の光でもあるかのようだ。

 大人びてはいるが、まだあどけなさも残る8歳の少年が不思議そうにこちらを見る。


 前回、前々回。

 2回ともエリオリスの性格が違ったように、他の攻略対象者も性格が違っていた場合、ヒロインとサポートキャラだけで対応出来ていたのだろうか。

 もし対応出来ておらず、デッドエンドとはいかないまでも、バッドエンドになっているのであれば、これは私が事前に攻略対象をリサーチしておいたほうがいいのかもしれない。


 攻略対象者をリサーチか、それは面白そうだな。


 儀式や社交界用の仮面笑顔じゃない笑みがフフッと溢れた。

 訝しんで私のほうを向いたエリオリスにも、ついでに目を合わせ微笑む。

 するとエリオリスは目を大きく見開き、口は半開きにして固まってしまった。


 おいおい、ドン引きするのは仕方ないだろうけど、そんな珍獣を発見したみたいに見ないでおくれよ。


 私がそのままじっと伺うように微笑んでいると、目を逸らされた。

 再び目を合わせようと覗き込んでも目が泳いで逃げていく。


 むむ、珍獣扱いは不服だけど、これはこれで失礼じゃない?


 しかしそれ以降、儀式が終わるまでエリオリスと私の目が合うことはなく、私は攻略対象者のデータを調べ上げヒロインをサポートすることを心に決め、3回目の人生は始まった。




◇◆◇


 私がループしている乙女ゲームにはエリオリスを筆頭に攻略対象者が総勢8名いる。

 うん……いた気がする、いたはずだ、いた……よね?


 ごめんなさい。このあたりの記憶って曖昧なんだよね。

 私の記憶力チートが始まったのはループ2回目からなので、それ以前の記憶力は一般人と変わらない。

 いや、時間が経過しているため忘れている部分は多く、むしろ劣っているかもしれない。

 なのでヒロインのサポートと言っても、よくあるネット小説の乙女ゲーム転生のように「シナリオ知ってるから楽勝だぜ! ヒャッハーッ!」なチートはできない。

 「なんとなく~こうだった、かな~」というあやふやな知識の元、行動しなければならない。

 それでも攻略の分岐点になるようなイベントは覚えているので無いよりはマシだろう。


 さて、攻略対象者8人についてだ。


○●○


 まずはエリオリス=シュテインガルド。

 彼についてはもう、紹介する必要なんてない気もするけど一応。


 ファミリーネームの通りシュテインガルド王家、現国王唯一の実子だ。

 今のところ王位継承第一位。

 ゲームシナリオでは聡明で正義感溢れる爽やか王子、ということになっている。

 聡明な〜とか、正義感溢れる〜とか、爽やかな〜とか、そんなエリオリスを私は一回も見たことないけどねっ。

 学園のクラスは特別クラスでエンディングは3つ。

 友達止まりのハッピーエンド。

 思いは通じるが付き合ってます止まりのトゥルーエンド。

 そして、主人公のパラメーターもエリオリスの好感度もマックスでやっと迎えられるロイヤルエンドだ。

 ロイヤルの内容は、エリオリスの戴冠&結婚になる。ロイヤルなのでスチルも豪華だ。

 だけど私はこのエンドがあまり好きではない。

 エリオリスを戴冠させないとならないため、国王暗殺を見過ごさなくてはならないからだ。

 みんなハッピーではないため後味はあまり良くない。

 出来ればこのエンドは避けたいなぁ。


○●○


 続いてエリオリスの親友にして従兄弟、ウィルフ=ゼルカローズ。

 こいつは笑顔がステキな公式認定の腹黒です。

 ウィルフもエリオリス同様、学園のクラスは特別クラスだ。

 艶やかな黒髪に切れ長な目。それでも笑うと柔らかな表情になる。

 エリオリスが太陽なら、ウィルフは月だった。

 容姿だけで言ったら私はエリオリスよりもウィルフのほうが好みである。

 そして極めつけはその声!

 妙に色気のある声で何人の令嬢が腰砕けになったことか!

 舞踏会開催の折には必ず失神する娘を見かける。

 私も超好きな声優さんだったもんな!

 だけどなぁー……シナリオがなぁ……。


 彼の家系は少し複雑である。

 父親は前国王、母親はその側室である。

 ここであれっ? と思った人も多いだろう。

 そう、現国王は従兄弟であるエリオリスの父親である。ウィルフにとっては叔父にあたる。

 普通なら前国王が崩御した時点で次の国王は息子のウィルフになるが、そうはならなかった。

 ウィルフの母親が元メイドで身分が低く後ろ盾がなかったため。そして崩御した時、ウィルフはまだ1歳にも満たない乳幼児だったからだ。

 王権は前国王の弟に渡り、王位継承順位もエリオリスの方が上になってしまった。

 ウィルフは王位継承第二位である。


 はいはい! ここで前世、乙女ゲームだけでなく女性向けラノベ、特に王宮ロマンスを愛読していたリディシアさんから意見を述べさせてもらいますよっ。


 国王……二代、しかも兄弟そろって息子一人しか残してないってどういうことよ。

 有事があったらどうするつもりだよ。

 てか定期的に魔族と戦ってるのに、もしもの時、後継者いなかったらどうするつもりだよ。

 子作りも立派な王家の務めでしょ。

 特に先代! メイドとの間に、ってそれ、うっかり過ぎだから!

 困るのはあんたらの代じゃなくて子供の代なのよ?

 しかも同い年で継承権争うとか性格歪むしかないじゃないか!


 製作陣の立場から言ったらエリオリスを王道に据え置き、ウィルフを影のある対のヒーローにしたかったのだろう。

 この二人は他の攻略対象者よりスチルが多かったし、ウィルフもエンディングは3つだ。

 まずエリオリス同様友達エンドのハッピーエンド。

 それから、思いが通じヒロインの内助の功で王国の宰相にまで登りつめるトゥルーエンド。

 ここまでは良い。

 腹黒くもしっかり周りが見えているし、ヒロインへの愛も感じられるシナリオだった。

 が、しかし問題なのは3つ目のエンド、王位簒奪エンドだ。

 何故作った製作スタッフ!

 このエンドは国王暗殺後、ヒロインの選択、如何いかんにより開かれるルートだ。

 もちろん国王暗殺を見過ごさなければ発生しない。

 そしてウィルフは彼を王にしようと目論む派閥にそそのかされ、闇魔法でエリオリスを傀儡化、王位継承権を無理やり放棄させ国王になるという……。

 ヒロインもその時傀儡化されてしまう。

「永遠に君は僕のものだ」というセリフと共に玉座の間で交わされるキスのスチルは昏くも美しく描かれていた。

 たぶん、この乙女ゲーム最大のヤンデレエンドだ。

 ……うん、これ、バッドエンドだよね?

 スタッフの中に絶対ヤンデレ好き、いたよね?


○●○


 3人目はクリフォード=アロルズ公爵令息。

 この乙女ゲームにおけるショタ枠!

 貴族でも珍しい砂色の髪と冷めた紅玉色の瞳がクール可愛いうえに表情筋がないんじゃないかと疑ってしまうような無表情な男の子だ。


 アロルズ家はシュテインガルド屈指の大貴族だ。その歴史は王家を除けば最古の一族で、こう言うとうちのパパなんかは怒るが、同じ公爵家の私の家、グランベルノよりも政治的権力はある。

 そして何かとグランベルノ家と対立する家でもある。


 ライバル家、クリフォードの現状リサーチは難しいかもなぁ。


 歳はヒロインよりも6歳下で、学園に飛び級で2年目から特別クラスに転入してくる。

 いわゆる神童だ。


 エンディングを迎えるのがヒロイン18歳、クリフォード12歳なので、ショタ好きじゃない者としては戸惑うところもあるが、仲良くなるにつれクリフォード君のガチガチに固まった表情筋と心が次第に蕩けていく様にはニヤニヤが止まらなかった。

 後半イベントのスチルで満面の笑みのクリフォード君が出たときは思わず「っしゃー! ショタクーデレ万歳!」と叫んでしまったほどである。私にショタという新たなジャンルを提示してくれた神シナリオだ。


 クリフォードルートの美味しいところはこれだけではないよ!

 先に紹介した二人よりエンディングが1つ少ないけど、なんとトゥルーエンドでは5年後のクールイケメンに育ったクリフォード君が見れちゃうんです!

 「っしゃー! 一度で二度美味しい!」と叫ばずにはいられない。


○●○


 4人目はデュサーク=ロイワルド。

 青みがかった銀髪にアイスブルーの瞳は一見美麗な貴公子だけど、口を開けば毒しか出てこない毒舌キャラだ。

 ファンの子たちにとってはそのギャップが良いみたいだけれど。

 ロイワルド侯爵家は代々、シュテインガルド王国王立騎士団団長を輩出している武の名門だ。

 当代も騎士団団長はデュサークの父親だし、主力部隊には長男がすでに騎士として入隊していた。

 デュサークには兄弟が多い。

 兄が1人、姉が2人、弟が3人、妹が1人。

 当主は何故その閨の妙技を王家に教えなかったのか、問い正したい人数だ。


 デュサークは騎士科の学生なので同じクラスにはならない。

 確かデュサークとの出会いは、彼が朝早くに森で剣術の稽古をしているところにヒロインが偶然散歩で通りかかるというものだったはずだ。

 出会ってからは森が二人の逢瀬の舞台となる。行けば好感度に関わらず会える、的な?

 デュサークルートは他のルートより難易度は低かった。


 ただし、18歳の夏に行われる魔族討伐遠征イベントまでにヒロインの魔力パラメーターを一定の基準値よりも育て上げ、遠征に行くデュサークに魔力を込めた護符を渡さないとデュサークは帰らぬ人となってしまう。

 まぁ、逆にそこさえ気をつければ何もしなくても学園卒業後、即結婚のトゥルーエンドが見れてしまったりするんだけれど……。

 そういえば、とある掲示板では彼のことをツンデレでちょろいからツンデレチョロイン呼ばわりしていたなぁ。

 で、ヒーローなんだからツンデレチョーローなのではとか、いやいや、ツンデレチョロヒーだろ、とか一部火種が燻っていた。

 しまいにはツンデレチョーローから、デュサークの髪色と掛けてツンデレ長老呼ばわりされてもいた。原型どこ行った。

 たぶん弄りやすいキャラだったんだろうな。


 彼の場合、エンディングは他に友達エンドがない代わりにデッドエンドがあるといった感じだ。

 ちょっと親近感。

 こいつ、デッドエンド仲間か。

 ヒロインがもしデュサークを好きになったら、護符をあげることをメインにサポートしていけば大丈夫そうかな。


○●○


 5人目はターロス=オルフィート。

 彼は私やヒロインよりも3つ年上のエルフだ。

 新緑色の長い髪に淡いラベンダー色の瞳の、優しそうなお兄さんだ。

 サポートキャラのユミファ=オルフィートとは実の兄妹である。

 15歳の時、エルフが統治している隣国ソルバードから留学目的でシュテインガルドにやって来て、ゲーム開始時には学園の研究所でシュテインガルドの植物に関する研究をすることになる。


 デュサークと同様に同じクラスになることはないので、ユミファ経由で知り合う。

 ちょっと天然でエルフという他種族のターロスさんとのシナリオは、ほのぼの日常系でヒロインと二人でいると、後半は「熟年夫婦かっ!」とツッコミたくなる漫才会話が交わされて微笑ましいものだった。

 特に敵もいなかった……あ、エンディング手前でターロスさんが母国に帰る帰らないでちょっと揉めてたかなぁ。

 トゥルーエンドだとヒロインも一緒にソルバードに帰るのよね。

 で、ハッピーエンドでは「お互い自国で頑張ろうね」ということで文通友達になる。



 以上がメイン5人の主なシナリオだ。

 色々と説明してしまったけれど、一言でそれぞれを表すなら『王子』、『腹黒』、『ショタ』、『毒舌長老』、『天然エルフ』で事足りてしまうかもしれない。


 他にキャラクターは3人いる。

 ただ、隠しキャラというか、特殊条件下でフラグを立てないとエンディングは見れないし、学園入学前に情報を集めるのが困難なキャラたちなので15歳前に出来ることは少ない。

 ちなみに特殊キャラ3人とは『真面目教師』、『むっつり神殿騎士』、『鬼畜魔王』というカテゴリーだったりする。


 教師は学園の寮で生活している庶民出身者だから家柄から調べることはできないし、学園は生徒ではない部外者が入るのは難しい。

 魔力を司る神殿関係の機関はさらに厳しく立ち入りを制限しているのでなおさら無理だ。

 魔王は論外! 国も違う、ましてや魔物の巣窟に貴族とはいえ一介の小娘が単騎突入なんて死ににいくようなものだ。私の前世が超魔王で記憶持ちとかでない限り無理無理!


 というわけで、私は学園に入学するまでの7年間、メインキャラ達の情報収集中心の生活を送った。

 前世では全然興味がなかったからやっていなかったけど、アイドルの追っかけってこんな感じだったのかな?

 公爵令嬢の権力でキャラ達の出席する茶会や舞踏会の情報を収集し、自分も参加。

 その際着ていた服装や持ち物からそのキャラの趣向を分析。

 好きな食べ物を割り出すのなんて序の口だ。

 あ、これは乙女ゲーム公式プロフィールにも乗っていたから、覚えている範囲で整合性も取らないといけない。

 会が終わったら馬車に乗り込む時を見計らって出待ちしてみたり、特定の付き合っている娘がすでにいるか確認することも忘れちゃ駄目ね。

 

 あれ? 私の行動を反芻してみると、アイドルの追っかけというよりはストーっ……いやいや、探偵の素行調査みたい? 

 命かかっているんだから何だっていいわっ!


 ちなみに、風の噂で私の行動を知ったエリオリスが

「あんな奴が、婚約者なんて……」

 と、苦汁を舐めたような顔で舌打ちをしたとかしないとか、耳に入ってきた。


 あら、これは本格的にエリオリスに嫌われちゃったかしら?

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ