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エルフに数学を装備するだけ  作者: めいぜんおーえす
五章:そして集合へ
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ラッセルのパラドックス


〇健全な研究室



 天々城が研究室に来ると、エーリル、さトぅー、それとどさくさに紛れてクアトロドルフがギャーギャー騒いでいた。



クアトロドルフ

「いやいや、本物のエルフなんているわけがないじゃないか」


エーリル

「付け耳じゃないのに」


クアトロドルフ

「じゃあ証明してみせてよ。

 キミが本物だってことを」


さトぅー

「耳を触らせてあげたら?」


エーリル

「え、コイツはイヤ」


天々城

「……なにやってんだ、お前ら」


クアトロドルフ

「天々城、聞いてくれよ。

 エーリルさんが本物のエルフだっていうんだ。

 故郷が森の中だとか魔物が住んでるとかね、ボクをからかってるんだろう?」


天々城

「そうかそうか、なるほど。

 賢者エルフ、黒魔法って強いよナ」


エーリル

「とても強い」


天々城

「破壊力はあるか?」


エーリル

「とても強い」(暗黒が集まる


クアトロドルフ

「な、なんの冗談……だい?」


天々城

「黒魔法ってすごい破壊力だよナ」


クアトロドルフ

「おい、よすんだ。よしてくれ……」


エーリル

「なんか黒い魔法」(自分を暗黒で包む


天々城

「邪悪な賢者だ」


さトぅー

「……大丈夫なのこれ」


エーリル

「暗黒に包まれるエフェクトをかけた」


さトぅー

「エフェクト」


エーリル

「なにも影響がない暗黒エフェクト」


さトぅー

「暗黒エフェクト」


クアトロドルフ

「い、いや、ただの子供騙しだろう?」


天々城

「じゃあ子供騙しで」


エーリル

「そうそう子供騙し」(暗黒が消える


クアトロドルフ

「なんだ、子供騙しか」


天々城

「賢者エルフ、今日はどうした?」


エーリル

「今まで∪とか{}使ってたけど、なんだかぼんやりしたままだなって」


天々城

「まあ確かにナ」


さトぅー

「集合論の話よね」


エーリル

「集合論ってなに?」


さトぅー

「モノの集まり、『集合(set)』を調べるって言えばいいのかな。

 自然数も使えるし、対象は広いわね。

 一階述語論理の集合論が最近の数学の標準装備ってところかしら」


天々城

「圏論」


さトぅー

「それはそれ、これはこれ。

 どっちも使うけど」


クアトロドルフ

「ボクは集合論のありがたみを感じてないんだけど、どう役に立つんだい?」


天々城

「合同≡を=で扱う方法があるし、そういう世界を集合論なら作れる。

 だから俺はこの前『イデアル』を知ってるかと聞いたんだ」


クアトロドルフ

「定義がわからないからなんとも言えないけど『イデアル』は大事なんだね?」


天々城

「話の()になるからナ」


さトぅー

「そろそろいいかしら」


天々城

「どうぞ」


さトぅー

「まず論理式φが正しくなるようなxの集まりを作れるという公理を考える」


エーリル

「例がほしい」


さトぅー

「『この研究室にいるxは人間』って文章が正しくなるxはどんなのがある?」


エーリル

「えっと、天々城さん、さトぅーさん、金髪イケメン」


クアトロドルフ

「クアトロドルフだよ。金髪イケメンは合ってるけどね」


天々城

「そこは認めるのか」


さトぅー

「はいはい、{天々城、さトぅー、クアトロドルフ}って集まりが作れたわね」


エーリル

「それだけのこと?」


さトぅー

「とりあえず、これだけ。

 公理に自由変数があると∀inがやりにくいから、∀をつけて自由変数を無くした論理式を考える」




■公理にしたい論理式

S,x:変数記号

∈:項数2の関係記号

φ:論理式

y_0,...,y_n:fv(φ)に含まれるS,x以外の変数記号

(∀y_0 ...(∀y_n (∃S (∀x ((x∈S)⇔φ))) )...)




天々城

「ああ、素朴集合論の内包公理か」


エーリル

「∈ははじめて出てきた記号だ」


さトぅー

「(x∈S)は『Sにxが属する』って読む。

 Sって集まりにxが入ってる感じかな」


エーリル

「OK、わかった」


さトぅー

「標準装備の公理系が矛盾してたらマズいわよね。

 すべての論理式が導けたら面白くないでしょ?」


エーリル

「標準装備が自壊する」


さトぅー

「実際、φを(¬(z∈z))に置き換えた集まりを考えると矛盾する」




■thm3.0(ラッセル(Russell)('s )パラドックス(paradox))


{(∃r (∀x ((x∈r)⇔(¬(x∈x)))))} |- ⊥


proof

1 (∃r (∀x ((x∈r)⇔(¬(x∈x))))) [ax]

2 (∀x ((x∈r)⇔(¬(x∈x)))) [ax]

3 ((r∈r)⇔(¬(r∈r))) [∀el 2]

4 (r∈r) [ax]

5 (¬(r∈r)) [⇔elL 4,3]

6 (¬(r∈r)) [¬in 4,5 el 4]

7 (r∈r) [⇔elR 3,6]

8 ⊥ [⊥in 7,6]

9 ((∀x ((x∈r)⇔(¬(x∈x))))⇒⊥) [⇒in 8 el 2]

10 (∀r ((∀x ((x∈r)⇔(¬(x∈x))))⇒⊥)) [∀in 9]

11 ⊥ [∃el 1,10]




エーリル

「凶悪な集合だ」


さトぅー

「{x|(¬(x∈x))}とか書く集合だけど、これがあるせいで公理にしたかった論理式から矛盾が出てしまう。

 でも、論理式が正しくなるようなモノの集まりは欲しい」


エーリル

「この公理を使わないけど、似たような公理を使うってこと?」


さトぅー

「そうね、さっきの公理は、すべての論理式が証明できるくらい()()だったと考える。

 だから、公理を弱くして矛盾が出ないようにする方針を昔の人たちが考えた」


エーリル

「公理の弱体化……だと?」

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