イケメンに捕まった
〇喫茶店『ぽすだこ』
天々城はドーナツを探している途中、知り合いのイケメンに捕捉されてしまい、喫茶店『ぽすだこ』で時間を無駄にすることになった。
天々城
「俺、割と急いでるんですけど?」
クアトロドルフ
「そう固いこというなよ。
ボクとキミの仲じゃないか」
天々城
「お前の顔面ホモトピー群に興味はないんですが」
クアトロドルフ
「それはどういう定義だい?」
天々城
「お前の顔面ホモトピー群に興味はないという定義だ」
クアトロドルフ
「意味がわからないね。
意味がわからないといえば、三盤解さんを知ってるかな。
三盤解一十三。
天々城
「解析魔人のアイツか。
真面目に物理や数学やってる学部生なら知らないヤツはいないと思うが」
クアトロドルフ
「一回生の後期はボクと三盤解さんが特待生だったのは覚えてるかい?
それが二回生の時に編入してきたあの子に負けて、今では元特待生さ」
天々城
「線形狂のカミーユさんのことか?」
クアトロドルフ
「そうそう、カミーユ・マチュー。
キミは知ってると思うけど、彼女たち、恐ろしく計算が早くてね。
解答する時間の99%は頭に浮かんだ式を書く時間だっていうから、計算センスが狂ってるとしか言いようがない。
しかも今のテスト範囲は解析と線形が主だろう?」
天々城
「こっちは素手、相手は81連装ハドロン砲みたいな感じか。
しかも2つ搭載されたら勝てないナ」
クアトロドルフ
「意味がわからないけど、気持ちはわかるよ」
天々城
「それで、本題は?」
クアトロドルフ
「特待生は彼女たちに譲ろう。
大学在籍中にあの計算センスを身に着けられそうにないからね。
だからボクは自分の長所を伸ばそうと思うんだ」
天々城
「……整数論か」
クアトロドルフ
「そう、合同算術ならわかるんだ。
式の先の先まで見える」
天々城
「イデアルや加法圏は知ってるか」
クアトロドルフ
「いや、知らないね」
天々城
「初等整数論の範囲内か。
うーん、数論と言っても解析的整数論や数論幾何とかもあるからナ。
ちなみに俺は全然わからない」
クアトロドルフ
「そこをなんとかね、一緒にやるとかできないかい?」
天々城
「時間的に厳しいナ。
さトぅーさんと基礎論をやっているし、自分のやりたい数学もある」
クアトロドルフ
「おや、さトぅーさんは哲学方面だろう?」
天々城
「違うナ。さトぅーさんは基礎論と計算機の二刀流。
あと、数理論理学は数学だぞ」
クアトロドルフ
「ボクには哲学に思えてしかたないんだけどね。
ほら、昔のえらい数学者も言ってたじゃないか。
『数学は科学の女王であり、数論は数学の女王である』ってね」
天々城
「俺は数学史に興味がないし、自分の好きな数学を嫁にしろとしか言いようがない」
クアトロドルフ
「キミのそういう考え方は嫌いじゃないよ。
ああそうだ、その基礎論の勉強会にボクも混ぜてくれないかな。
先生たちの話は行間が多すぎて議論を見失いがちでね」
天々城
「アレを勉強会って言えるかどうか微妙なんだが、正直やめておいたほうがいい」
クアトロドルフ
「さトぅーと二人きりだからかい?」
天々城
「いや、他にもいる。
……違う違う違う、実はいない」(オドオド
クアトロドルフ
「矛盾してるじゃないか。
一体どこが間違ってるんだい?」
天々城
「矛盾からすべての文章がいえる。
つまり、研究室に教授がいる」
クアトロドルフ
「いや、それはないね。
あの研究室の教授は『シェルター』から出てこない。
学生を指導するときも、通信で画面越しじゃないか」
天々城
「研究室の奥の部屋だから合ってる。
俺はウソをついていない」
クアトロドルフ
「あやしいねえ、あやしいなあ。
キミとさトぅーさんはどういう関係なんだい?」
天々城
「数学徒と指関節論理学徒ですが、なにか」
クアトロドルフ
「へー、なるほどね。
よしじゃあ決まりだ」
天々城
「おいやめろ、やめてさしあげてください」
クアトロドルフ
「今度、キミたちの研究室に絶対に、絶対にいかない
約束だよ?」
天々城
「そのときはお前を定数写像で変換してトポロジカるからナ?」
クアトロドルフ
「それは楽しみだ。
もしボクが行きたくなったら絶対に必ず100%伝えるかもしれないから、安心して基礎論を満喫するといいよ。
じゃあ、お先に失礼」
~クアトロドルフ、退出~
天々城
「クソァ……ファンタジーがマズイことになった……」
店員
「お客様、ご注文はいかがいたしましょうか」
天々城
「……トーラスが1ダースほしいです」
店員
「ドーナツですね。お持ち帰りですか?」
天々城
「アッハイ」
店員
「こちらのメニューにございますので、ご自由にお選びください。
お決まりになられましたらいつでもお呼びくださいね」
天々城
「有能な店員さんだ」




