一階述語論理で使う記号
〇健全な研究室
天々城はトーラスを買いに出て行ったので現在不在。
残ったエーリルはさトぅーから一階述語論理を伝授してもらうことになった。
さトぅー
「一階述語論理G1は命題論理G0の表現力を高めた言語になってるの」
エーリル
「表現力を高める?
つまり強力な兵器が超強力な兵器になるってこと?」
さトぅー
「まあ大体そんな感じ。例えば、
『エーリルさんはエルフで耳が長い』って文章を、
『エーリルさんはエルフ』と『エーリルさんは耳が長い』って文章に分けられるわよね。
これは命題論理の論理式(p∧q)をpとqに分けるのと同じようなことをしているの」
エーリル
「確かに自然言語だと多少省略してるけど、∧でバラバラにできてる」
さトぅー
「でも命題論理の表現力では『エーリルさんはエルフ』って文章を『エーリルさん』と『エルフ』に分けられない。
『エーリルさん』は単語で、文章じゃないから」
エーリル
「え、命題論理は単語まで分けられないの?
あんまりそんな感じがしないけど」
さトぅー
「『エーリルさんはエルフ』って正しい? 間違い?」
エーリル
「疑ってるの? そんなの正しいに決まって……」
さトぅー
「単語の『エルフ』は正しい? 間違い?」
エーリル
「えっと、単語でってこと?」
さトぅー
「前後の文脈関係なく単語で」
エーリル
「それだと──あれ。
なんかこう、さトぅーさんの言ってることがよくわからない」
さトぅー
「それでいいわ。
だって正しい、間違いを考えられるのは文章じゃないといけないから。
単語は文章じゃないでしょ?」
エーリル
「ああ、なるほど。
『エルフ』は文章じゃないから、正しい、間違いを考えるのは文法ミスだったのか」
さトぅー
「『長い耳』は『長い』と『耳』に分けられる。
『長い』は『耳』を『長い耳』ってモノに変化させたわよね」
エーリル
「そういう考え方もできるのか、ふむふむ」
さトぅー
「『エーリルさんが笑った』は『エーリルさん』と『笑った』に分けられる。
『笑った』は『エーリルさん』を『エーリルさんが笑った』って文章に変化させたわよね。
ちゃんと正しい、間違いを考えられそうでしょ?」
エーリル
「……あ、ホントだ」
さトぅー
「これで例が揃ったし、一階述語論理で使う記号を紹介できるわね」
■一階述語論理G1で使える記号
nを1以上の自然数(1,...)とする。
・定数記号(自分で決められる)
・項数nの関数記号(自分で決められる)
・項数nの関係記号(自分で決められる)
・変数記号(自分で決められる)
・¬,⇒,∀:繋げる記号(無定義)
・(,):かっこ(無定義)
エーリル
「自分で決められる?」
さトぅー
「命題論理なら命題変数みたいな感じ。
φ,ψ,ρの3つで必要な話はできてたけど、別にαやβを命題変数だと言ってしまえば使っても良かったわよね」
エーリル
「そんな話もあったような気がする」
さトぅー
「例えばこんな感じ」
■記号を決める例
エーリル,耳:定数記号
長い:項数1の関数記号
笑った:項数1の関係記号
x:変数記号
エーリル
「もしかして、最低限の言葉だけで話ができるようにしてるの?」
さトぅー
「そういう考え方もあると思う。
私たちの世界には20万くらいの単語を一覧にした本があるけど、ここで私とエーリルさんが話すために必要な言葉は、そんなにいらない」
エーリル
「その英知の結集ほしい」
さトぅー
「機会があったらね。
あともう一つ、この方法のいいところがある。
それは単語の意味を考えなくても話ができるの」
エーリル
「そういえば、命題論理もφやψの意味を考えなくて大丈夫だった」
さトぅー
「だから私たちがするのは記号を並び替えたり、加えたり、消したりすることだけ。
もちろん意味を考えたら嬉しいときもあるけどね」
エーリル
「あと、∀は『すべて』か。変数記号って自然言語だとどんなのがあるんだろう」
さトぅー
「変数記号は単語を入れる箱みたいな感じだけど、自然言語にそれっぽい役割の言葉って思いつかないのよね。
『あれ』『これ』なんかは近いかもしれないけど、これだって感じのはないかな。
まあエーリルさんは論理的公理みたいな式に代入するような証明を理解してたから大丈夫じゃない?」
エーリル
「代入に使うのか」
さトぅー
「えっと……はい、そうですね」
エーリル
「やった、予知能力に目覚めた」
さトぅー
「はいはい、ソウデスネ」