イチジクの呪い
○エルフの村――エーリルの家の前
拷問のような圧倒的賢者力。
エルフの村人が称える伝説が、玄関のドアに頭を突き抜けてくたばっていた。
男エルフ
「エーリル様! お気を確かに! エーリル様!」
エーリル
「死にそう」
男エルフ
「木の実を採ってきたんですよ!
エーリル様が大好きなイチジクです!
だから死なないでください!」
エーリル
「生きる」
_人人人人人人人_
> ドア爆発四散 <
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男エルフ
「すごい賢者だ。
しかしなんで玄関のドアに頭を突き抜けてくたばられていたんですか?」
エーリル
「石を割ったらたまに魔石出てくるでしょ。
適当にパカパカ割ってたら魔力を沢山増やす魔石が出てきて興奮のあまり『んぁああああああ!』って叫びながら出てきた魔石を握り砕いた。
悲壮感とショックで家から飛び出したら頭がドアから突き抜けてつらい」
男エルフ
「ご愁傷さまです。かける言葉もないので集めたばかりの木の実を差し上げます」
エーリル
「今日はこれだけ?」
男エルフ「木が弱っていて、どのくらい採ればいいかわかりませんでした」
エーリル
「ああ……」
男エルフ
「特にイチジクの木でしょうか。
『水が足りない。水が欲しい』と言ってたのです」
エーリル
「最近は雨降ってないからね」
男エルフ
「はい。良かれと思ってイチジクの木に魔法で水を与えました。
実が少ないのは水が少ないからだろうと思い、たくさん水を与えたのです」
エーリル
「うん。嫌な予感がする」
男エルフ
「イチジクの木が苦しそうにしていました。
水の与えすぎだと気づいたのはその後です」
エーリル
「やると思った」
男エルフ
「大事には至らず許して頂きましたが、悪いことをしてしまいました」
エーリル
「無事なら何より。
昔の私なんかもっとヤバかったから」
男エルフ
「意外ですね。
エーリル様もですか?」
エーリル
「魔法で濁流を流して根っこごと持っていった……」
男エルフ
「神よ、罪深き者をお許しください」
エーリル
「悪気は無かった。
その時は私もバカで、単純に水をあげたら実ができると思ってたの。
そしたら大惨事。ちゃんと元に戻して謝ったけど」
男エルフ
「ちなみに何の木が大惨事になったんですか?」
エーリル
「イチジクの木」
男エルフ
「神よ、罪深き者たちをお許しください」
エーリル
「好きな木の実だっただけにショックだった」
男エルフ
「丁度これイチジクですね。どうぞ」
エーリルはイチジクの実を受け取った。
手の平ほどの赤紫の木の実である。
エーリル
「他の木の実は?」
男エルフ
「すみません。他の者が先に持っていったので」
エーリル
「気にしないで。
ちょっと食べなかったくらいで死ぬ訳じゃないし」
エーリルの手元を黒い影が通り過ぎた。
ぽかんとして、空になった手を握る。
カラス
「かぁ」
男エルフ
「あっ」
カラスがイチジクの実を口に咥えていた。
棒のような細い足で助走。
羽音をさせて森の中へと消えていった。
エーリル
「きききき、気にしないで。
ちょっと食べなかったくらいで死ぬ訳じゃないし。
死ぬ訳じゃないし……ううっ」
男エルフ
「お待ちを。
新しい実を用意します」
エーリル
「自分で採りに行く。
今はそんな気分なの」
男エルフ
「すみません。
あのカラス、次に会ったらドワーフの食卓に並べるので」
エーリル
「私は優れたエルフだから、このくらいどうってことはないわ。
カラスの命を奪うなんて雑念は捨てるべきよ。
まずは焼き鳥にしてドワーフの食卓に並べる」
男エルフ
「雑念は捨てましょう。
悩みの種です」
エーリルは崩れるように地面に膝を付いた。
いい感じの雑草があったので引きちぎる。
エーリル
「私、草食べる」むしゃぁ
男エルフ
「せめて味を付けてください。
光ってますよ」
エーリル
「…………へ?」
――――エーリルは光に包まれた――――
◆人物紹介
エーリル:女エルフ 魔力が力
男エルフ:男エルフ