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わたし  作者: 星野月美
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リョーマの青春

父は坂本龍馬が大好きで、尊敬していた。愛車には坂本龍馬のステッカーを貼り「リョーマ号」と呼んだ。ここから父のことを語るうえで彼を「リョーマ」と呼ぶことにする。


リョーマは野球が好きで、複数の高校から野球推薦での入学の誘いがくるほど打ち込んでいた。


運動神経がよく、リョーマの実家にはたくさんの賞状が飾ってある。

「相撲 県大会・中学の部 優勝」「100m走 地域大会 優勝」「柔道 県大会・中学の部 優勝」

中には準優勝のものもあるが、どちらにせよ輝かしい功績だ。


高校からの誘いは、甲子園出場の常連校からも来ていたが、甲子園出場経験が過去に1度きりでそれ以降はなかなか実績を出せずにいたA高を選んだ。

リョーマは阪神タイガースが好きだった。強者ぞろいの巨人より、最下位常連の阪神が勝ち上がっていく姿が好きなようだった。


甲子園の常連校に入学すれば、甲子園出場への夢は近くなる。しかしその中で行われる熾烈なレギュラー争いは免れない。


甲子園出場がほぼ確実とされている高校でレギュラー争いをするか、レギュラーとして僅かな甲子園出場の枠を目指して戦うか、その決断をするのにリョーマは迷わなかった。


リョーマの高校時代の同級生は「もの凄い早い球を投げとったよ」と彼を褒める。

エース候補として入部したリョーマは、持ち前のセンスを発揮した。監督にも期待されていた。リョーマの求める「下剋上」物語が始まろうとしていた。


が、リョーマはメンタルが弱かった。



4人兄弟の末っ子として生まれたリョーマと一番上の姉とは10も年の差がある。それ以降3人は男の子で、賢い長男と変わり者の二男に加え、お調子者でお転婆の三男ときたら、親からは放任されるが、祖父母、親戚からは多大な愛情をそそがれ、甘やかされる。


同じ県内ではあるが、A高は家から1時間半の距離にあり、田舎であることから交通機関も充実していないため通学は不可能ということになり、入学と同時に寮に入った。

そこで、「野球部恒例」とでも言うべきなのか、「いじめ」がそれほど問題視されていなかった当時、先輩からの過剰な生活指導を受けた。


例えば、お風呂は1年から入る。高温に熱された湯船に水を加えず入るように命令される。「自分達が入る時のために良い温度に調整しとけよ」というのが先輩の言い分らしい。逆らう事は許されない。


これが「狭い世界で生まれる、絶対支配」。


先輩に逆らうよりも、高温の湯船に浸かる方がよっぽどマシだと判断する。


限られた睡眠時間を削ってまで先輩のユニフォームの洗濯をさせられる。

洗濯機や洗剤が発達していなかった当時、真っ黒に染まったユニフォームの泥を落とすのに朝までかかることもあった。



―ただ純粋に、野球がしたかった―



リョーマはエース候補として入部し、監督からも手厚く指導を受けていた。お調子者のことも手伝って、野球部だけでなくクラスでも目立つ存在となっていた。


そんなリョーマが先輩に目を付けられることに、それ程時間はかからない。


本当のお調子者であれば先輩に取り入って仲良くなってしまうなんてパターンも存在するのだが、気の弱さをお調子で隠しているようなリョーマにそんな選択肢は存在しない。


野球の練習よりも、先輩への服従が重要視されるようになっていった頃、お腹を壊した。

練習中だけでなく試合中も、腹痛にやられトイレに駆け込むようになった。


大好きだった野球を続ける事が苦痛になっていることに気付いた時、野球部を退部した。



―はじめての大きな挫折―



リョーマの通っていたA高は、県内有数の進学校で、リョーマの学力では到底入学出来ない高校だった。野球推薦で入学したリョーマには高校生活において「学力」は必要なかったが、野球部を辞めたとなれば話は違う。進級するためにはある程度の「点数」が必要とされる。


野球一筋の生活を送ってきた、いわゆる「野球馬鹿」のリョーマの学力はひどいもので、アルファベットの「A~Z」までを書く事すら出来ない。野球の知識なら誰にも負けない程インプットされているのに、ここでは何の役にも立たない「雑学」でしか無かった。


今までは、授業中の居眠りも「朝練が大変だから」と考慮されていたが、状況は一変した。


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