狼騒動
2人でいくつか桃を食べた後、丘を降りてサラの家に戻ろうとした。
すると村の中がなにやら騒がしい。
村の中央に位置する十字路に人だかりができている。
「何かしら?」
サラが人だかりに近づこうとした時。
「近づかない方がいいぞ、サラ。巻き込まれちまう」
いつの間にかルカとサラの間に男が立っていた。
大柄で髭を生やし、村人とは違う役職の制服を着ている。
「ガランさん…。何があったんですか?」
サラが振り仰ぎ、ガランと呼ばれた男はクシャナ村の警備隊長をしている。
ガランは35歳で未だ結婚もしていない。
「他の村から来た奴が騒ぎを起こしてるらしいんだ。なんでもこの村にいる狼をやっつけにきたとか叫んでたな」
警備隊長のくせにやる気を見せないガランは、ルカの顔を横目で見ながら話した。
暗にお前のせいだと目が語っている。
サラは1人、胸の内がざわつくのを感じていた。
「狼はどこだ!この村にいるんだろう!?俺の村をめちゃくちゃにしやがったんだ!!」
人だかりの中心から男の叫び声が聞こえる。
男は狼族が争いをしていた当時、被害を受けた村の者だった。
「ガラン隊長、何とかして下さい!そんなとこで見てないで!」
警備隊の若い隊員がガランを見つけて駆け寄ってくる。
「周りの人が狼の話は嘘だって言うのに、聞かないんです!このままじゃ被害が出ますよ!」
若い隊員に言い寄られ、ガランは仕方ねぇなぁと溜め息をついた。
「小僧、来い」
ガランは横に立つルカの腕を掴み、人だかりへ歩き出す。
突然の事にルカは引っ張られるまま歩くしかない。
「な、なんだよ!離せ!」
「ルカ!」
サラが後を追おうとするが、若い隊員に止められた。
「行っちゃダメだ、危ないから!」
肩を押さえられて動けなくなったサラは、必死に抵抗するルカを見送る事しかできなかった。
「ルカ…」
嫌な予感がする。
胸騒ぎが、収まらない。
ルカはガランに引っ張られたまま、人だかりの中心まで連れてこられた。
他の村から来た男は興奮冷め遣らぬ様子で、村人達を威嚇するように睨んでいる。
「よぉ、ちょっとお邪魔するぜ」
ガランはそう言って男の前にルカを引っぱり出した。
「な、なんだお前ら!さっさと狼を出しやがれ!」
冷静さを失っている男の目は血走り、手には薙刀が握られている。
それを振り下ろされるのではと、村人は近づけずにいたのだ。
「そのガキが狼の居場所、知ってるらしいぜ?なんせ噂の言い出しっぺだからな」
ガランはニヤニヤと楽しそうに男に告げた。
ルカは冷や汗をかきながらも、真っ直ぐに男を見上げている。
ガランにとってこれほどの好都合はなかった。