あの日の約束
「サラ、桃沢山採れたよ」
カゴいっぱいに桃を入れたルカがサラの方へ歩いてくる。
出逢った時のことを思い出していて、サラは表情が緩んでいたらしい。
「どうした?思い出し笑いでもしてたみたいな顔して」
妙な核心を突いて顔を覗いてくるルカに驚き、拍子に顔が少し熱くなった。
「うん。少しね、初めて逢った時のこと…思い出してたの。あ、おいしそうな匂い」
赤くなった顔を隠すように、サラはルカが手に持ったカゴに向けて俯く。
「あー、あの時は俺もまだガキだったなぁ」
高く青い空を見つめ、ルカは呟いた。
その言葉にサラは声を上げて笑う。
「あ、今だってガキだとか思っただろ?少しは成長してるんだぜー?」
ひねくれた物言いのルカに、少しなんだ!と尚更笑いが込み上げるサラ。
そしてあの日と同じように、桃の木の下に敷物を敷いて座った。
今は8月下旬だから、吹く風が少し冷たい。
ルカは持ってきた肩掛けをサラに掛けてやり、サラは笑顔でお礼を言って採れたての桃の皮を剥いていく。
「そういえば、サラと約束したのもここだったよな」
ルカがふと呟くとサラは一瞬手を止めて微笑み、再び動かした。
「そうだね。ルカのご両親が病気で亡くなって」
「俺がサラの病気を死んでも治してやるって泣き喚いて」
あの時は必死だった。
悲しくて、恐くて、どうしようもなく恋しくて。
ルカはただひたすらに願った。
治ってほしいと。
「私の病気のこと、真剣に考えてくれたんだよね」
「うん。で、約束したんだよな。……俺がサラを守るって」
ルカがサラの瞳を捕らえて言う。
真っ直ぐに、曇りも偽りもなく。
「そ、そんな約束だった?」
サラは慌てて目線をずらした。
最近、こんなことが多い気がする。
「要約すればそういうことだろ?」
なんか違う気もするけどなぁと思うのに、鼓動が早くて上手く言えない。
うーん、困った。
「サラ?」
俯くサラにルカは心配そうに声をかける。
「はぇ!?あ、ごめんね。はい、剥けたよ」
皮の剥けた桃を早急に手渡し、サラは手で顔を仰ぐ。
サラの様子を気にしつつも、ルカは桃の味に目を細めた。
最近、よく目を逸らされる気がする。
俺、サラに何かしたかな…。
高くなっていく太陽の下、鼻をくすぐる桃の匂いに包まれ、穏やかな時間がゆっくりと流れていた。