サラの病気
とりあえず話をしようとドクが言い出し、3人は桃の木の下に敷物を敷いて座った。
6月の少し湿っぽい風が暖かい陽射しの中、吹き抜けていく。
「ルカ、立て札がないとはいえ、ここの桃はサラの家のだ。人様のものを勝手に取るのは悪いことだ。分かるよな?」
ドクが優しく諭すように話すが、当事者は耳に入っていない様子だった。
「なぁなぁ、どこに住んでるんだ?俺な、ルカっていうんだ。サラって呼んでいい?」
ルカは体ごとサラに向かって話しており、ドクの存在自体忘れかけている。
年下の男の子に迫られているサラは、少し苦笑しながらも応対していた。
人の話を聞け、とドクが右手を上げた時、ルカが言った。
「サラ、その包帯どうしたんだ?ケガでもしたのか?」
聞かれた本人とドクは一瞬だけ動きが止まった。
そしてドクの瞳が揺らいだ。
言うか、言わないか。
「あのね、病気なの、私。左腕はもう…だめなの」
ドクが言い惑っていると、サラが自らそう言った。
急に悲しげな表情になったサラに、ルカは明るい声を出す。
「病気ならいつか治るって母ちゃんが言ってたぜ?今、母ちゃん風邪引いてるけど、すぐ治るって父ちゃんも言ってたし!」
満面の笑みで力いっぱい励ましたつもりだったが、サラの表情は暗いままだった。
「だめなの。…治らないの。私の病気は風邪じゃないから。生まれてから死ぬまでずっと続くから」
一体何の病気なのかルカには想像もできなかったが、悲しい表情をさせていたくなかった。
「そんな暗い顔してたらダメだ。簡単に諦めちゃダメだって、父ちゃんも言ってたぞ」
ルカの言葉にドクは、まったく分かっとらんな…と溜め息をついた。
「あのなルカ、お前が思っているより深刻なんだ。お前の母さんの病気よりずっと思い病なんだよ」
ドクの真剣な表情に、ルカは眉根を寄せた。
「俺…。そうだサラ、友達になろう!」
ルカの突然の言葉に、サラは目を見開いた。
「病気のこと、よく分からないけどさ、俺毎日サラが良くなりますようにってお祈りする!他にもできることがあったらなんでもするからさ!な!」
それはもう、零れんばかりの大きな瞳をキラキラ輝かせて言うもんだから、サラは思わず吹き出して言った。
「うん。ありがとう」
サラの言葉と、やっと見せてくれた笑顔にルカは顔が熱くなるのを感じながらも、言葉通り飛び跳ねて喜んだ。
ドクは2人を見て内心ほっとしていた。
サラには年頃の近い友達がほとんどいなかったため、これで少しは元気になるかもしれないと。
サロメの反応は大方予想つくが。