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狼少年の話  作者: 美橘
3/17

10歳による、ありがちな一目惚れ

ルカとサラは朝食を食べ終え、さっそく北の丘に向かった。

そこはサラのためにサロメが植えた桃の木が沢山ある場所だ。

まだ朝の涼しさが残る中、ルカは右手に籠、左手にサラの手を取って丘を登った。

丘の上まで来ると村が一望でき、周りを囲む森が深いことも知れる。

そして何より、桃の仄かにいい香りが風に運ばれてくる。


「いい匂いだー!」


サラの手を引いたままルカは嬉しそうに桃園へ向かう。

手を引かれながらくすくす笑うサラ。


「ここはいつ来ても心地が良いわ。ルカと出逢ったのも、ちょうど桃の収穫の時だったね」


ルカが木で作られた脚立に乗り、桃を採る様を見ながらサラが言った。

2人の出逢いはこの桃園だった。

それは今から5年前―



「たぁ!はぁっ!ていっ!とぉ!…はぁ、はぁ…くそっ」


小さな男の子が北の丘山頂の桃園で桃を採ろうと奮闘していた。

背が低い男の子には、どう頑張ってジャンプしても頭上の桃には手が届かない。

それでも諦め切れずに何度も挑戦してみるが、やはり届かない。

そうしてしばらく木を睨んでいると、ある事に気がついた。


「登ればいいじゃん」


枝先の桃と格闘し始めて数時間、やっとそこに思い至った。

さっそく桃の木に登ろうと足をかけた時。


「こら!何しとるんだね!」


少しかすれた男の叫び声が聞こえ、それに驚いた男の子は木にかけた足を滑らせ後ろにすっ転んだ。


「いっててて…。誰だよ……げ」


今しがた打ちつけた尻をさすりながら振り返ると、見知った男と見知らぬ少女が立っていた。


「お前…ルカじゃないか。こんな所で何をしているんだ」


「ドクじいちゃん…」


見知った男はクシャナ村の村長で、名をドクといった。

だがルカはドク村長よりも、隣に立っている少女の方に気を取られていた。

背中まであるサラサラの髪に白いワンピース。

そして左腕の指先まで巻かれた包帯。

年上だという事はすぐに分かった。

10歳のルカには少女は大人っぽくて清楚で、可憐で、物腰柔らかそうで、おしとやかそうで、色鮮やかな花が似合う…。

この前女好きの兄ちゃんが、女の子はこうあるべきだと話していたものをとにかく思い浮かべて、ルカは胸が熱くなるのを感じた。

これが兄ちゃんが言ってた情熱ってやつか?

1人で勝手に熱くなり、驚き衝撃に満ちた目で少女を見つめるルカに少女は一言言い放った。


「それ、うちの桃…」


―それが2人の出逢いだった―

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