理不尽な処刑
時を同じくして村の入り口で騒ぎが起きていた。
群がる村人の中央には立て札があり、赤く文字が連なっている。
『クシャナ村のルカを虚言の罪で死刑に処する』
大きな字でそう書かれ、その下に小さな字で委細が書かれていた。
「そんな馬鹿な…」
ドクは立て札を読み、顔から血の気が引くのを感じた。
指先が冷たくなってゆく。
立て札には“本日の日暮れに執行”と書かれている。
ドクは急ぎ役所へ走った。
何かの間違いであってほしい。
そう思う心で、反面、自分を責めていた。
ルカの嘘を止めなかった自分を。
たとえサラとの約束だったとしても、止めるべきだったのだと。
とても老体とは思えない速さで、ドクは森を駆け抜けた。
「ガジェット!」
勢いよく役所の扉を開き、ドクは部屋の中に所長の姿を探す。
役所は2階建てになっており、1階は事務所、2階は所長室になっている。
ドクに驚いた者達が慌てて所長は2階にいると口々に言う。
それを聞いて2階への階段を駆け上がり、所長室の扉をノックして開けた。
「ドク村長…。どうしました、そんなに息を切らせて」
執務の仕事をしていたガジェットはドクを一瞥してそう言い、仕事を続ける。
「どうしたも何も、分かっとるだろう!」
息切れしていることも忘れてドクは叫んだ。
ガジェットは気に留めることもなく、書類を読んではサインをしていく。
「ルカ少年のことですか。私は妥当だと思いますが?」
ドクの額に青筋が浮かび上がった。
何を。
何を言っているんだ、この男は。
「まだ15なんだぞ?子供が嘘をつくなど大したことなかろうが!」
「15にもなれば、良い事と悪いことの判断はそれなりにつくはずですよ。それにルカ少年の虚言は悪質です。村人たちを恐れさせ、噂となって他の村まで広がり、結果、先日の騒ぎを引き起こした。しかし反省の色も見せず、嘘を言い続けている。辞める意思がない以上、被害が出る前に罰せねばなりません。何か問題が?」
ガジェットの冷然な態度にドクの怒りは増すばかりだった。
大方ガランのやつが吹嘘でもして処刑の申請をしたのだろう。
ガジェットは1人息子に弱い節がある。
「だからといってなぜ死刑にする必要がある!?罰するなら他にいくらでもやり方があるだろう!」
ドクがいくら語気を荒げて叫んでも、ガジェットが冷静さを失うことはなかった。
漸く書類から目を離し、サインする手も止めてドクを見つめた目は、冷たい色をしている。
「甘やかしてはつけ上がるだけです。悪は徹底的に排除しなくては」
それ以降ドクの声に耳を向けず、已む無くドクは役所をあとにした。




