魔女は奴隷の姉を称する
僕の一言で、レオンが突然泣き始めた事にはとても驚いた。リーナ曰く、嬉しくて涙を流しているらしい。泣くほどの事を言ったわけでもないが、長い間会えなかったことが相まって感極まったのだろうと、僕はそれ以上何も聞かなかった。
レオが泣きやんだ後はゆっくりと食事が進み、二人が食べ終わり、メイドさんが全ての後片付けを終えた後、気絶していたエリスとミリアが戻ってきた。……エリスは先程とは違う下着に変えてきていたが、面積が少ない上に、横のひもを引っ張るとたちまち落ちてしまうようなものだった。せめてもう少し隠してほしいなと思うが、多分聞かないのでそのままにさせておいた。
少し時間が経ち、もう少しでお昼と言った頃合いになると、レオンが「そろそろ、シア姉さんにも起きていただかないといけませんね」と少し浮かない顔をしていた。シンシアは朝にとても弱く、起こそうとするととても不機嫌になり痛い目に遭うのだとレオンは言う。当時の記憶を思い返してみるが、シンシアを起こしに行った時、確かに彼女は寝起きが良くはなかったが、それでも痛い目に遭ったことはなかった筈である。つまり、弟であるレオンが起こしに行くから彼女は不機嫌なのだろう。なら、一番年長である僕が起こしに行けば問題ないだろう。その旨を皆に伝える。
「確かに兄さんに起こしていただけるとシア姉さんも喜ぶはずです」
「お兄様にそんなお手数をかけさせるわけにはいきませんわ!」
「にぃにが、やらなくてもいいこと、だよ? そのうちシア姉も、起きてくる、と思う」
「あぁ、兄様はお優しいですわっ! でも私はもう少し乱暴に使っていただいた方が……」
賛成はレオンのみ、リーナ、ミリアが反対、エリスは中立的な返答を返してくる。昨日リーナから聞いた話だと、シンシアは意識の無かった僕にエリスとともに手当をしてくれていたらしい。いつもより長く休んでいるのだってその所為もあるだろうし、そこまでしてもらっていて朝起こす位の事もしないというのは身内であっても失礼だ。そう思ってリーナ達に僕自身が起こしに行くことを告げる。
「とても助かります、兄さん!」
「お兄様のなさる事に反論などいたしませんわ」
「にぃにが、したいなら、ミィはいい、よ?」
「兄様の仰せのままに、あぁ、命令する兄様はやっぱり素敵ですわ……」
エリスは若干気になってしまうが、皆納得してくれたようだ。言ってくると皆に一声かけ、食堂から出る。リーナがその際シンシアの寝室の場所を教えてくれる。本当に気がきく妹になった。でも、妹を起こしに行くだけで全員を納得させる必要があるというのもどこかおかしな話だよなぁ、と思う。
シンシアの部屋は階段を登り、西側の通路の角部屋だった。僕の部屋のちょうど二つ隣、北側にある。食堂ほどではないが、少し大きな扉をノックする。返事はないので、声をかけながら入室する。広い部屋に、部屋の壁に配置された本棚と書物。簡単なテーブルに小物入れの引き出し。そのすぐ横、本棚と正反対に設置されたベッドには布団の山が作られていた。部屋の中は昼間の為若干明るく、足場に困ることはなかった。ゆっくりとベッドに近づき、そっと覗きこんでみる。毛布の間からは緑色の髪と、先端の尖った長耳が突き出ていた。眩しかったのか、顔と眼が毛布に覆われている。このままでは起きるのは結構先になりそうだ。毛布をゆすり、声をかけてシンシアを起こす。少し低めのうめき声が毛布の中からする。続けて動かしつつ声をかけると、毛布の中から不機嫌そうな顔が出てきて、緑の瞳が僕の目と合った。彼女よく知った人でなければ怜悧な印象を与えてしまうその顔が僕を捉えると、そのきつさが若干緩和された。それと同時に僕が暖かい布団の中に引きずり込まれ、がっちりと四肢によって絡めとられてしまった。シンシアの身長は僕よりも頭二つ分は高く、彼女が僕をすっぽりと包みこむと、頭が彼女の豊かな胸の中に半分以上埋まってしまった。
「レン君、お帰り」
その言葉を聞いて、いつもシンシアは僕のことを兄さんとは呼ばなかった事を思い出した。何故かはわからないが、彼女は僕を年下の存在のように扱っている節がある。少しだけ複雑な思いを当時は感じていた。背中にまわされた腕がぽんぽんと僕の背中を叩いている辺り、今もそのように思っているのだろう。ただいま、とシンシアに告げると、彼女は穏やかに笑みを返してくれる。かすかにその目尻は光っていた。
「おかえり、レン君。私達を置いて勝手に行っちゃうなんて、もうやっちゃダメだからね?」
僕の頭を優しく撫でながら、諭すようにゆっくりと語りかけてくる妹。徐々にその言葉が僕の心の中に浸透してくる。何と言えばいいのだろうか? 彼女に包まれ、優しく撫でてもらう事がとても心地よく、ずっとこうしてもらいたい気分になる。小さい時に院長先生たちに一緒に寝てもらった時の様な、安心感に包まれている感覚を久しぶりに享受している事に思いついた。
「レン君は、今までず〜っとイタイイタイしてきたんだよね? もう大丈夫、ここには怖い事は何にもないからね? お姉ちゃんのナカにいれば安心だよ。ほら、暖かいでしょう?」
頭の中が大分ぼんやりとしてきた。暖かくて、いい匂いがして、とっても気持ちいい。お姉ちゃんの躰がとても気持ちよくて、顔をもっと近付ける。
「いいこいいこ、レン君はとってもあまえんぼさんだね。そのままもーっとお姉ちゃんに甘えてもいいよ? ほら、“吸いつい”ちゃおうね?」
僕の体がゆっくりと動き始め、口に含み、舌を使ってゆっくりと喉を動かし始める。本能の赴くままに、ずっと、一心不乱に吸い続ける。一吸いする度に安心感で自分が満たされていく。多幸感が身を襲い、体が自分の意志から切り離されていくような感覚がする。自分の体が、今でも妹達よりも小さいそれがさらに小さくなり、消えてしまいそうな気がした。何を考えているかもわからなくなりそうな予感がする。徐々に確信に近づいていくその感覚に恐怖心が増大していく。
「こわがらなくてもいいの。何も考えないで、ゆーっくりちゅっちゅしようね。ねーねがいっしょだからね?」
ねーねの声が聞こえてきた時、僕は考えるのをやめた。
もしかしたら指の可能性があります。