騎士は奴隷に命を懸ける
結局、エリスは最後まで崩れなかった。
僕の両手はエリスの尻を叩きながらテーブルの上にあった縄を引っ張り上げる事に夢中で、そのせいでミリアが僕に御飯を食べさせてきた。最初はスプーンを持って口をあけさせては料理を運ぶ流れが出来ていたけれども、エリスの尻を叩くたびに彼女が痙攣するかの様に震え、スプーンの軌道がずれてしまい、料理が零れてしまった。それをみてからミリアは自分の口にスプーンを運び、それを僕の口に直接移してきた。妹分の唾液がしみたそれを押し込まれ、少し戻しそうになりながらも、どこか甘く感じるそれを飲み込むと、彼女はスプーンを口に入れた時よりもさらに顔を赤くさせ、さらに一口、もう一口と唇を押しつけてきた。少しペースが速くなってきたので、飲み込みが間に合わず、舌でミリアの舌を圧し返してしまった時、彼女の口から振動が伝わり、唇が離され、彼女の顔に咀嚼された料理が降りかかった。
「ふにゃあぁん、にゃぁ、にゃぁん、にゃ〜ぁ」
とても甘い鳴き声をうわごとのように発しながらミリアはうずくまってしまった。その顔はとても幸せそうに笑顔を浮かべ、開きっぱなしの口の中では舌が空を彷徨っていた。
「兄様ぁ……兄様ぁぁぁぁぁ……」
ミリアが給仕をやめると、今度は下から甘い声が聞こえてきた。無意識で尻をたたき続けていたエリスも僕を呼ぶ声を何度も繰り返していた。体を動かして下を見ようとしたところで、束縛が解けている事に気がついた。急いでエリスの背中から降り、彼女の目の前にかがみこんだ。
彼女の顔も、ミリアと同じくひどく気持ちのよさそうな表情をしていた。ただ、瞳はさっき運ばれていったリーナと同じように虚空を彷徨っており、時たま思い出したかのように僕の方を見つめる。四つん這いになった彼女の下を見ると、水たまりが2か所に出来ていた。一つは彼女の目の前にある机に置かれた犬の餌を置くような皿の中。もう一つは彼女の下半身、足と足の間の床に出来た大きなもの。どちらもまだ規模が大きくなっている。片方は彼女の口から、もう片方は、僕の左手にべったりと付いているくらくらする匂いの液体から察しがつく。辺り一面からむせるような同様の匂いがする、エリスの股から、ミリアの口から、リーナがいた所から。その匂いのせいで考えがうまくまとまらないような感じがしていた。
立ちあがってからしばらくすると、エリスが崩れ落ちた。狂ったかのように僕を呼んだあとはとぎれとぎれに笑い声を出してリーナと同じように体を痙攣させてうつ伏せになってしまっている。豊かな双球がそれにより圧し潰され、なんとも言えない感情にさいなまれる。彼女を見ていてようやく僕は気付いた。今、リーナ、ミリア、エリスの三人ともが気絶してしまっている。この状況をこの屋敷にさえ詳しくない僕が一人で何とかしなければいけない。特にエリスは体が濡れてしまっていて、早く着替えをしないと風邪をひいてしまいそうだ。
「姉さん、ただ今戻りました」
少し高めの声が屋敷の中に響いた。続いて食堂の扉がゆっくりと開く音がした。
「姉さん、こちらにおいでですかッ……!?」
僕の眼の前に現れたのは僕より少し背の高い、ちょうどミリアと同じくらいの背の、銀髪緋眼の華奢な少女だった。いや、違う、少女じゃない。僕はこの目の前の少年を知っている。彼の名前が自然と記憶から口を通し漏れ出る。
「兄さんっ……!!」
扉をあけっぱなしにし、手荷物を放り投げ、痙攣している自分の姉二人も眼中に入らない勢いで駆けてくる銀色。強めの衝撃と共に体にまとわりつく気配を感じる。
「兄さんっ、目が覚めたのですね!! ボクは兄さんともう一度お話しできて幸せです!!」
涙を溜めながら膝立ちになりこちらを見上げてくるレオ、僕の唯一の弟分のレオンは僕に言葉の雨あられを投げかけてくる。僕も話したい事はいっぱいあるけれども、まずはここで力尽きている二人を何とかすることが先決だったので、彼をひとまず落ち着ける。
「兄さんはすごいですっ! もうミリィとエリス姉さんをヒンヒン喘がせて肉欲の虜にしたんですね!!」
……絶句してしまった。一番下の弟分として姉から可愛がられていた、大人しかったレオンから出てきたとは思えない言葉の数々を耳にしてしまったから。その上にその緋色の眼をキラキラ輝かせて僕を見上げているのだ。
「そういえばリーナ姉さんも見当たりませんね……もしかして、もう絶頂の渦で気絶させてしまったんですか? ボクが帰ってくる前にもう調教を始めていたんですね!! 兄さんかっこいいです!!」
どうしよう、弟の中で僕が妹たちを快楽の奴隷に貶める鬼畜な存在になろうとしている。慌てて否定するが全く聞いてくれない。
「わかってます。姉さんたちは兄さんに滅茶苦茶に犯されて本望で幸せの絶頂だと思いますけど、そのままでいたら風邪をひいてしまいますものね。後始末はボク達にお任せください!」
そう言ってさまざまな液体で汚れた姉達を呼びだしたメイドを使い適切な処置をしていくレオン。その手際はなぜだかとてもよかった。
一通りの処理が済んだ後、レオンはこちらに振り返り、真剣な顔をして僕をまっすぐ見つめた。先程の空気とは打って変わって、緊張感のある雰囲気が辺りを覆う。
「改めまして、兄さん。お久しぶりです。ボク達はずっと兄さんに会える日を心待ちにしていました。あの日、兄さんがいなくなってからボク達は、特にリーナ姉さんはとてもひどい有様でした」
その当時の事を思い出しているのか、レオンは顔を軽く伏せ、少しの間何も喋らなかった。僕には挟む言葉はなかった。
「兄さん、誓ってください。もう二度とボク達から離れないでください。ボク達にはもう十分なお金があります、離れないための十全な権利があります、それを守り抜くための力も身につけました。だから、もう二度と、ボク達の為にボク達を見捨てたりしないでください。もう、次に兄さんがいなくなったらきっとボク達は耐えきれません」
体に衝撃が走り、何も言えなくなってしまう。僕が昔した事はレオンに、そして妹達にはそう捉えられてしまっていたのか。僕のした事は確かに彼らの為だった。ただ、彼らにとってはある日突然僕が奴隷になり、金だけが残ったという事実はそれだけのショックを与えてしまった。それこそ、彼らの為に彼らを見捨てたと言われても言い返せない。その後の彼らの未来を全く考えていなかったのだから。
「兄さん、気に病む必要はありません。兄さんはボク達の為に犠牲になる選択をして、それがあの時のボク達にはどうしてもなくてはならないことだったのもわかっています。だから、この先の約束だけでいいんです。ボク達が今度は兄さんを護ります。兄さんの人生にこれ以上の苦痛をもたらさせはしません。だから、ですから、ボク達とずっと、ずっと一緒にいてください」
もう何も言える事はなかった。強制の言葉も必要なかった。僕の選択肢は首肯し意を伝えるのみだったから。レオンの眼から先程の比ではない程の涙が流れ、泣き崩れてしまった。彼のそばに寄り添い、落ち着くまでしっかりと肩を支える。その時だけ、彼の方は昔の幼いままの、あの頃の少年のままのように感じた。
「ありがとうございます、兄さん。ボクは、『剣鬼』レオン・テリングワースは兄さんの手足となり、生涯を兄さんの為に捧げる事を誓います。どうか、ずっとお傍に侍る事をお許しください」
「良かったじゃない、レオ。お兄様の騎士になれるなんて、少し妬けちゃうわ」
其処にはいつからいたのか、最初に気絶して部屋に運ばれた妹が微笑を浮かべながら食堂の扉に体重を預けていた。
「姉さんこそ、兄さんからもうかなり愛されているようで……。」
「え、ええ。お兄様からのお仕置きは最高でしたわ。私のイヤらしい液体と穢い汁を厭わずに淫らな私に足で愛のお仕置きをいただいたのよ」
「姉さん、いくら気持ちよかったからと言って兄さんの足を小水で穢すのはどうかと思いますよ……?」
……僕は少しだけ頭が痛くなってきた気がした。