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聖女は奴隷に邪念を抱く

 赤く染まった女物の衣服を手に持ったミリアちゃんに連れられ向かった部屋には、リーナお姉様が待っていた。



 その腕には、私達が待ち焦がれていたレン兄様が横たわっていらっしゃいました。



 私は自分の体を抑える事が出来なかった。目からは涙があふれ、足は意図せずともレン兄様の元へと急ぐ。リーナ姉様の腕の中にすっぽり収まっていらっしゃる兄様は、下着のみ残された状態でほぼ裸でいらっしゃいました。ミリアちゃんの持つ服がそうなのでしょう。そのせいで、お兄様に刻まれてしまった非道な傷跡がくっきりとお見えになっている。

「……殺してやる」

 ただ殺してやるだけでは生ぬるい。この世に生まれてきた事を何度も後悔させながら生かし続けてもまだ足りない。

「姉様、誰が?」

「もっと穢されると思ったから、とっさに殺してしまったわ。ごめんなさいね。……話は最後まで聞きなさい」

 私は途中からリーナ姉様の胸ぐらにつかみかかっていた。兄様にこれだけの行いをした輩を殺してしまったですって? そう思ったが、リーナ姉様の話には続きがあるらしい。

「私の殺したブタはお兄様に服を着せて無理矢理に犯そうとしていたし、あっさり殺してしまったのは良くなかったと思うわ。ただ、目の前でお兄様のお顔が穢されるのを見て私は黙っていられなかったわ。少しでも早くブタから引き剥がそうと思った。四肢を切ってなぶり殺しにしようとも考えたけど、そんなことを街中でしたらせっかくの私達が手に入れたお兄様のための力を手放してしまうわ。まだその時ではないでしょう?」

 まだ不満は残るが、姉様の言っている事を察すると最善の判断のように思えた。国法では無礼者の殺害は認められているが、だからと言って街中で拷問を始めたり、捕獲してからなぶり殺しにしていいという訳ではない。孤児であった私達が手に入れた兄様と離れないための身分はここでまだ失ってはいけない。

「お兄様に傷を付けた奴らはまだいるわ。そいつらの時はもちろんしっかり処理するつもりよ。今はそれよりもお兄様の傷を癒して頂戴。エリス、貴方なら出来るでしょう?」

 愚問だわ。こんな傷、私にかかればすぐに治療できるし、兄様のお怪我を放置するなんて真似は死んでもしない。すぐに兄様の前に立ち、治癒の文言を唱える。私達各々に師匠がくれた力。この力で私は『聖女』などとこれから呼ばれ続ける事になる。そんなことはどうでもいい。私は今この力で兄様のお力になれる事に強烈な幸福感を抱いている。私は兄様の使い勝手の良い道具。兄様のお好きなようにお使いいただいて、兄様からお手入れをしていただければいつまでもお傍でお役に立ち続ける。それが私、エリス・テリングワースの意義。この治療はその始まりなのです。




 私の素晴らしい、兄様のモノとしての一日が今日から始まる。心を弾ませながら夜着を脱ぎ去り、下着のみとなる。黒いレースで彩られたそれは兄様にお座りいただいたときにより劣情を抱いてくださるように、そして心地よくご褒美を私にお与えになれるように、淫猥で、且つ破れそうなモノを選びました。しかし、まだ足りない。今日は兄様の椅子として最高級のモノにならなければならないのです。少し考えて、私は黒いソックスを履くことにした。以前どこかでこう言ったものが好きな人がいるものだと小耳にはさんだ事がありました。もし兄様がそうでいらっしゃったなら、履いていなければ最高級の椅子になれるはずがない。危ない所でした。

 下着までの確認が済んだ後、次に身につける縄を取り出し、食堂へと足を進めます。縛り方は昨日のうちにミリアちゃんから聞いた通りのものにします。聞くところによると、さながら服のように縄がまとわりつき、それでいて手足の自由は奪われ、なおかつ女性にひどく羞恥を与えるように局部を縛れるのです。さすがはミリアちゃんです、師匠から教わった斥候の術が光っています。ただ、ミリアちゃんは兄様から直接縛ってほしいらしく、私が自分で縛ると言うと首を傾げられました。

 椅子を兄様の席の位置からどかし、四つん這いになる。食堂の入口からお入りなさる時に淫靡に見えるようお尻と胸の角度を調整します。そしてそこから縄を持ち、教えてもらった通りに縄を縛ります。一応私も治癒術の使い手、シンシア姉様には遠く及びませんが、縄を動かすくらいならどうということもありません。意識を込め、しっかりと縛っていきます。


 ……これはいいです。癖になっちゃいそうです。


 下着の上から食いこむ縄は私の胸を圧し潰さず、絞り上げるように根元から抑え込み、股間には縦に2本縄が通り、その縄の間を広げれば、兄様の眼にはレースの下着の先まで見えてしまうでしょう。そしてなんといっても、最後に縄が手綱のように首の後ろから伸び、テーブルの端にちょうど届くくらいの長さになった事は素晴らしいです。兄様の椅子としての責務を果たし、私の体を堪能していただいて心から楽しくご褒美をお与えくださった後、もし気分が満足なさらなければ、その場でお兄様の玩具として馬のように手綱をお取りいただき、満足なさるまでお相手させていただく事が出来ます。

 自分の息が荒くなっている事がよくわかります。道具としてあるまじきことです。兄様の前では完璧な椅子としての責務を果たさなければいけません。ですが、私には兄様にお座りいただいた瞬間に、快楽と幸福に染まり足が震える自分自身が容易に想像できるのです。しかしそれで体を崩してしまえば私は椅子失格。兄様からどのような罰をいただいても仕方がありません。気を持ち直し、全力を出して耐えねばなりません。



 ――罰として、お兄様に殴られても、蹴られても、犯されても、どんな事をされても仕方のない状況。



 とてつもない魅力を持つそれを振り切って、椅子としての役割を果たす。膨大な苦痛を伴う行為。ただ、それも兄様から賜る苦痛なのです。どちらになったとしても、イイです。最高です。



 そんな事を考え、私は自分の表情が今、とても『聖女』なんて呼べない程幸せに染まっている事を実感していました。

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