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手紙は奴隷と魔王を繋ぐ

 レオがチンピラ達の股間を潰してから数日、僕は家から出ずにずっと考えを巡らせていた。


――妹達と一度、距離を離した方がよいのかもしれない。


 リーナが僕を見つけ出してから数日、みんなと会ってから今までの行動を見て、彼女たちの動きは明らかに常軌を逸していた。謁見での宣言のほか、命令まで使用して僕に徹底服従しようとし、そして過剰なまでに僕を守ろうとする妹達。どう考えても僕の存在が悪い影響を彼女達に与えてしまっている。

 このままで良い訳が無い。このままいけばいつか必ず取り返しのつかない事が起こる。妹達に会えた事は嬉しい。もう二度と会えない事を覚悟した上で身売りをしたからには、これ以上ない幸せであっただろう。でも、その所為で妹達が誤った道に進もうとしているのであれば、僕は兄として、何としてでもそれを阻止しなければならない。


 ふと、その時に僕は数日前に見た幻の様な手紙を思い出した。数日後に再度連絡を送ると書かれた手紙を思い出し、今の状況を再度振りかえる。


――一度話を聞いた方が良いかもしれない。


 手紙に書いてある事はまさしく今自分自身が思っている事と全く同じ。どの道彼女達がすんなりと僕から距離を置いてくれるとは考えられない。ただ、僕の身元が割れてしまっている中、『英雄』である弟妹達を操るべく、人質として僕を誘拐する計画である可能性は……かなり高い。

 僕は数日、妹達の過剰な保護を受けつつも、常にその事を考え続けていた。そして今日、手紙に数日後と書かれていた通り、僕が一人きりの時を狙ったかのように手紙が寝室のチェストの上にひっそりと置かれている事に気づいた。

 決心は固まっていた。手紙を読んで、提案を受けよう。もし人質になるような事があれば、その際は大事になる前に……片づける。唾をゆっくりと飲み込み、封筒から紙を取り出して、書かれている文章を読み上げた。



『レン様へ


 お元気でしょうか?

 妹様方の過剰な対応と、ご自身のお考えに疲れてはいらっしゃらないでしょうか。


 数日のお時間が経ちましたので、改めてのご提案をさせていただきます。もし、レン様が妹様方より離れる事を望まれるのであれば、私共がお手伝いをさせていただきます。お決めになり次第、直ぐにこちらへのご案内をさせていただきます。

 その前に一つだけお伝えいたします。私は縛られているレン様を開放すべくご提案をさせていただいております。その私がレン様を人質に取り、『英雄』達を脅迫する等といった愚かな真似をする事は御座いません。首輪につきましてはお越しいただいた後、直ぐに外す事をお約束いたします。また、こちらでは何も強制することは御座いません。


 私を信じていただけるのでしたら、この手紙を二つに引き裂いてください。私の下に直ぐお連れいたします。

 誠に残念ですが、信じていただけない場合は引き裂かずに床にお捨てください。


 レン様に信用いただき、こちらへお越しいただける事をお祈りしております。』



 手紙には僕の葛藤を見透かしたように、脅迫を行わない事を約束する文面が書かれていた。此処に書かれているからと言って本当にないとは言い切れない。そうではあるが、他に頼れるような人も奴隷の僕にはいなかった。それに、これ以上僕は妹達が僕の所為で狂っていくのを見たくはなかった。



 僕は一呼吸おいて、紙を一気に引き裂いた。



 その途端、僕の周りに青い光が奔り、複雑な文様が浮かび始めた! 魔法に詳しいシンシアであれば、どのような魔法なのかわかったのかも知れないけれど、彼女は今この家から丁度出払っていた。そんな事を考えている間に円が徐々に僕に迫り、丁度僕の身体の横幅と同じになった頃、目の前が真っ白になった。



 次に目を開けた時、僕は荘厳な雰囲気の漂う調度品に囲まれており、黄色い線の入った真っ赤なカーペットの上に立っていた。一度、謁見の間に入った時と同じ様な感覚。目の前には予想通り、玉座が二つ見えた。片方は空席、もう片方には、一人の女性がいた。

 真っ白に輝いて灰色に影が落ちる銀の髪に漆黒そのものの巻角。つり上がった目尻に燃え上がるように真っ赤な瞳。白と黒に、所々赤が見える、露出の多いドレスにはつい最近まで見ていた拘束具のようなベルトが所々巻きつくように装飾され、真っ白な肌を強調していた。

 玉座から立ち上がった銀髪の女性は、段を降り、僕の目の前まで近づいてきた。

「よくぞ参られた、レン様」

彼女が僕をまっすぐに見ながら、そう告げる。

「妾は魔女王アーデルハイト・デリュジオン。魔人族を束ねる唯一無二の女王」

そこまで言葉が続いた後、彼女は僕に目線を合わせ、一気に抱きついてきた。僕の顔が挟まれて、優しい匂いが鼻に届いた。

「今までよく頑張ったのぅ……もう大丈夫じゃ。妾が汝を何者からも守り通して見せるからな……」


 頭の後ろを撫でられつつ、僕はカーペットの上にカシャリと何か落ちる音を聞いた。

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