帝王は奴隷の立場を羨む
変態注意。
余は今日という日ほど己を悔しく思った日はない。亡き父より帝位を受け継ぎ、国を支え、豊かにする為に手を尽くした。今まで荒れ果てた道の上を通るがために荷が半分使い物にならなくなるほど劣悪であった、主要な道より一つ離れた細かい地方の道を整備し、地方の都市を含めた都市の舗道の整備を行い、流通の速度を早める施策を推奨し、結果比べるまでも無い理想的な結果を経済にもたらした。豊かになった国民は余を「道帝」と崇めるようになった。そうなると、余は望む事を好きなだけすることができるようになった。気に入った女を妾として迎え、王の血筋をその身体に刻み付ける。刹那の快楽に少々耽り過ぎたためか、民からの支持が少し揺らぎ始めようとした頃にそれは起こった。
大進行。理由なく突然に異常に繁殖した多種多様な魔物の群れが人の住まう街に大挙して襲い掛かってくる、数十年に一度有るか無いかの災害である。本来であれば直ぐにでも騎士団を総動員し、都の防衛を行わせなければならない。その時の余も同じように判断し、命令を下した。しかし、その時に余は自身の過ちに気づいてしまった。余が目を離していたその間に、騎士団は腐敗してしまっていたのだ。到底都を守り切れるなどとは思えぬほどに。騎士団を出撃させずに民兵を募るなど捨て駒のように使われていると思われてしまう。それではたとえ守りきれても余の治世は終焉を迎えるであろう。万策尽きた余は藁にもすがる思いで神殿の巫女の元を訪れた。これほどの大進行、もしかしたら神託があるやも知れぬ。
「都の外れの五人の孤児達により災いは散らされるであろう」
神殿の巫女に神託が降りていた。都の外れには一つだけ孤児院が残っていた。かつて道の整備と支出切り捨ての為に支援を打ち切った以降もなお傾かずに営まれる数少ないその孤児院に危機を打破する孤児がいるというのだ。すぐに私は使えぬ兵を出し、孤児を呼び寄せた。数刻立ったのち、余の前には五人の孤児たちが連行されて来た。余を見るその目には怒りが満ち溢れていた。彼女らは全員が思わず身震いしてしまうような魅力を放っていた。一番上のリーナとやらは年頃としてもすぐに余の妾にしてやりたい程であった。他の孤児たちもそれぞれがもう少し育てば余の寵愛を与えても良い。だが、今は大進行だ。この娘たちは魔物の群れをどうにかする事のできる者達なのだ。そこに彼女らの意思など含める余裕など無い。余は彼女らを人数分の武具と共に城門の外に追いやるよう命を出した。
それからしばらくして、城門の外から爆音が響いた。音に続いて、伝令が余の元に急いでやってきた。
「報告致します! 神託の孤児達が魔物共を一網打尽にしております!」
そこから先は耳を疑うような内容ばかりであった。魔法による爆発で雑魚を一網打尽にし、強者を剣で斬り捨て、戦況を容易く押し返してしまったというのだ。それからまた数刻、大進行は魔物の全滅を以って終わりを告げた。
一難去ってまた一難。余は次の難題に追いつかれてしまった。この大進行を沈めた孤児達である。彼女らにはこの功績に則した褒賞を与えねばなるまい。その上、余は孤児達を強制的に死地へと送り込んだのだ。最悪、反乱を招きかねない。余は彼女らがここに来るまで、再び神に祈るしかなかった。
「今後私達の邪魔をしないということならば、何も致しません」
戦勝の謁見にて、リーナ、先程余によってテリングワースの姓を与えられた彼女は、余だけに聞こえるように言ってきた。余のメンツのためにも、ここは素直に頷く事以外できなかった。
それから後、余は今までの分を取り戻すように軍備に力を入れた。腐敗の始まった騎士団を一掃し、新たに実力のある者を筆頭に団を編成した。半ばまで差し掛かった頃合にもう一つ事件が起きた。一地方の都市において、『勇者』リーナ・テリングワースが領主を斬り捨てたというのだ。あの時、確かに余は関わらないと約束はしたが、いくら『勇者』といえども領主を殺されて余が何もしないという訳にはいかない。急ぎ『英雄』全員に対し、招集命令を下した。それが昨日の話。今日、余は謁見のために玉座に座り、内心では戦々恐々としつつ彼女たちを待った。
「申し上げます! 『英雄』の皆様がいらっしゃいました!」
一人の兵が『英雄』の到着を告げた。通すように命令し、開門を待つ。大きな扉が音を立てて動き、向こうから五人がこちらに向かってくる。こちらまで歩いて近づき、段の前で形ばかりに膝をつき頭を下げる。……一人だけ様子がおかしい。『賢者』シンシアの隣でうつむいている小さい子供を余は見たことがなかった。『英雄』達に簡単に言葉をかけ、子供に誰何してみた。言葉に応じ、顔をあげた子供の姿を見た瞬間、衝撃が走った。
――この女は余の妻となるに相応しい。
可愛らしい、綺麗、美しい、それらの言葉よりも早く結論が出ていた。この少女の全てを余のモノにしてやりたい、その純粋を余で染め上げてやりたい。頭の中を欲望が渦巻いていた。
「僕、わ、私はレンと申します」
少女の姿に相応しい優しく高い声が彼女の口から発せられる。声まで素晴らしいというのか。ますます余のお気に入りに加えてやりたくなった。『英雄』がいるにも関わらず、彼女達が少女を連れて来たという事すらもその時は忘れ、余は持てる限りの威厳を込め、少女に向かって名を告げる。
「余が帝王、チェリボイ九世である」
そこから数分後、余の獣は生まれて以来の重大な選択の時を迎えることとなった。その口火となったのは『勇者』に経緯を問いただした際の言葉であった。
「領主殿は私達の命よりも大切なお兄様を辱め、弄んでいたので、その場で処断したしました」
聞けばそのお兄様とやらは孤児院で『英雄』達の兄代りの存在で、『勇者』の実の兄であるらしい。しかし、いくら大切な兄といえど、一件の原因の兄を連れて来ていないのは完璧に近い『英雄』達にしては珍しい失態だ。それを聞いた『勇者』は、余が妙な事を言ったかのような反応を取り、すぐに口を開いた。
「こちらにいらっしゃいます方がレンお兄様ですが」
……嘘、だろう?
横を見ると宰相も口を開けたまま硬直している。前を見ると『英雄』が全員頷いている。そして恐らく余も長く固まったままだったであろう。目の前の理想の少女が、『英雄』の兄で、それはつまり、彼女は男で。つまり余は男を自分の色に染めようとしていたと言う事になる訳で。余はもう一度少女、いや、少年を見た。彼は一瞬こちらと目が会い、恥ずかしそうに顔を俯けてしまった。その一瞬に見えた顔はやはりどう見ても少女のもので、緊張のためか、その体は小刻みに震え、小さな手がさりげなく隣の『賢者』の服の端をしっかりと掴んでいた。 余の一大決心の時はこの瞬間に訪れ、その瞬間には答えが決まってしまった。だがそれはまさしく余の未来を大きく変えるものであった。男であっても、余は彼を自分のモノにしてやりたかった。直感に嘘は吐けなかったのだ。
それからの話は何の意味も成さない些事に過ぎなかった。こう言ってしまうと死んだ領主には悪いが、最初から彼女達を罰する事は出来なかったのだ。それよりも重大な問題は愛しのレンの事である。ここで何もせずに逃してしまえば、この先彼は最強の護衛達により護られ、二度と手出しできなくなるだろう。ここで、彼を余に括り付けなければならない。そこで、彼に城仕えの提案をすることにした。そこで余は向けられる殺気と共に、この間で『英雄』と交わした約束を思い出してしまった。
「レン君が困っていますのでお戯れは其処までにお願い致します」
冷たい声と共に『賢者』が告げる。このまま続けてしまえば殺される。再び余は従順を誓うこととなった。
「レン君にはもう既にお仕事がありますので」
顔に笑みを浮かべ、『賢者』はレンの小柄な身体を持ち上げ、自身の胸の膨らみの中にレンの頭を後ろからを埋めてしまった。
「し、シア? 何を」
困惑するレン。その問いに答えるものは無く、伸ばし切った足には『勇者』の顔が張り付き、親指を丹念に舐めていた。反り返ったソレの先端から根元までに舌を這わせ、返しのように膨らんだ部分の付け根をぐるりと一周し、口を大きく開けて全てを口に含み、上下にふりたくる。時折見せつけるようにこちらを覗く『勇者』の顔は快楽に歪み、足からの快感に肉に挟まれた少年は口を閉じれずに熱に浮かされた様に熱い目でこちら側を向いている。その淫らな顔をさせているのが余ではない。見ているだけしか出来ない屈辱と、何処からか湧く奇妙な興奮が身体中を巡る。
「にぃに、“しっぽぉ、しっぽ、にぎにぎ、にぎにぎしてぇ”」
『勇者』に追従して『風姫』ミリアもレンの右手に自らの尻を当てて擦りつけ始めた。そのままレンの右手が彼女の茶色く染まった尻尾を鷲掴みにしてしまった。途端に潤んだ瞳と共に嬌声が響く。尻尾を持つ獣人にとって、己の尻尾は例え自分の番であろうとも容易には触らせない非常に繊細な場所。それを自分から望んで強請り、さらには今目の前で起こっている様に上下に扱かせるなど、考えられない。それこそ、番よりも深い関係で、絶対服従を自ら課すような信頼がなければ起こらない程の出来事を余は目の当たりにしたのだ。自分の妾にしてやろうと思った『英雄』が、穢したい程に愛おしい奴隷に心からの隷属の証を示すその行為の中に余は混ざっていない。口惜しいが、それとは別にある感情をうまく説明ができない。
「兄さん、姉さん、お待たせしました」
自らの感情の理解に囚われて扉の先からやってきた人物に気付くのが遅れてしまった。目をやると、そこにいたのはここにいなかった『英雄』の一人である『剣姫』、いや、『剣鬼』レオン・テリングワースだった。『英雄』の中では唯一の男であり、余が『英雄』の名を授けるまでそれに気付かなかった程の女顔の持ち主。その彼が手に持っていたのは、五つの首輪! 余はこれから起こるであろう出来事に身震いをしていた。
「帝王、失礼いたしました」
遅参を軽く詫びた『剣鬼』が残りの『英雄』達の元へと歩みより、目配せをすると全員が頷き、レンの身体から一斉に離れた。一歩、先程から動かなかった『聖女』エリス・テリングワースが前に出て来る。
「帝王、本日はもう一つお伝えする事がございますの」
不敵な笑みを浮かべ『聖女』が余に背を向け、『剣鬼』から首輪を一つ受け取り、レンの手元に差し出した。
「さぁ、兄様。“私に首輪をつけて、滅茶苦茶にしてください”」
その時、レンの顔が悲痛に染まった。やだ、やめてと拒否の言葉が口から出るレンの言葉と裏腹に、体は正直に『聖女』の首に輪を付け、次の瞬間には彼女の服を無理矢理破き、下着を露出させてしまった。それだけでは済まず、彼は彼女を突き飛ばし、その豊満な胸を『勇者』の唾液に塗れた足で強く踏みつけてしまった! それでも穢された『聖女』の口からは許容と歓喜の喘ぎ声しか聞こえてこない。首輪の紐を強く引かれても、太股の間を捻るように足蹴にされても、物足りないかの様に彼に目一杯媚びる。感謝の言葉を述べ続ける。余の口はいつの間にか閉じることを忘れ、目は痴態に釘付けられていた。
「今日はぁ、『英雄』全員が兄様の奴隷でありぃ、玩具でありぃっ、所有物である事をぉ、お伝えに参りましたのっ」
床に染みを作りながら汗ばむ『聖女』が胡乱な雰囲気を放ちつつ、それでいて確固たる強さを持った言葉を世に向けた。余は返事が出来たのかどうかすらわからなくなっていた。レンはその間に次々と目の前にやってくる『英雄』達に首輪をつけている。『勇者』も、『風姫』も、『賢者』も、『剣鬼』さえも、歓喜の感情をその顔に浮かべ誇らしげに首輪を撫でている。その間にも聖女は尻に泣きそうなレンから蹴りを受けている。クラクラするような匂いが余の鼻にまで突き刺さるようだ。まともな判断ができていない。
「あらあら、王城で粗相をしてしまうなどと、エリスは仕方がないですね。申し訳ございません、帝王。ここは私共が連帯で責任を負いますので、ご容赦をお願いいたします」
『勇者』の言葉が引き金となり、『英雄』が一列に並び、四つん這いになった。その尻が向けられるのは、先程からついに泣き始めてしまったレン。
「お兄様。お兄様の顔を汚してしまった私達に“お仕置きをくださいませ”」
ビクリと体を強張らせたレンが獣の姿勢をとった『勇者』に向かう。拒否の言葉を滝のように涙を流し呟く彼は、悲劇的な事にとても美しかった。彼のたおやかな左手が5人分の紐を一気に手前に引っ張り、右手が勢いを付けて『勇者』の尻へと叩きつけられた。
「ひはぁっ! あ、ありがとうございますぅっ!!」
破裂音と共に叩きつけられる度に響く感謝にこの場にいた者全てがもはやまともに動く事すらできなくなっていた。見る事しか出来なかった。余は手篭めにしようとしていた女達が次々と少年に奴隷のように、家畜のように扱われてゆく様を眺めさせられ、ひどい喪失感に襲われていた。彼女達の心は一人の少年に身動き一つ取れない程に絡めとられてしまっていた。一人のオスとしての悔しさが溢れてくると共に、何故か余にはその情景が微笑ましく感じられた。先程から感じていた別の感情の正体が徐々に鮮明になり、『英雄』が全員四つん這いを崩し、恍惚の表情で痙攣する頃にようやくその感情を捉える事が出来た。
――妾同士が絡み合っている姿に興奮しない訳が無いではないか。
そうだ、レンを含めて全員を余のモノにすれば良いのだ。そうすれば目の前の光景は全て余のもの。素晴らしいではないか。そう考えると、余は何か振り切ったような清々しささえ感じた。そう言えば先程『英雄』全員がレンの奴隷となると言っていた。認めてやろうではないか。全て余の元に置けるのならば、些事に過ぎない。
「それでは、帝王、失礼いたします」
四つん這いの『勇者』の一声で『英雄』が扉へと向かう。レンは這いずる『聖女』の上に跨り、全員分の紐を持ちながら放心していた。とても嗜虐心をそそられる光景が広がっている。全員がいなくなった後、止まった時間が動き出したかのように謁見の間がざわめく。
「よ、よろしいのですか帝王、あのような事に何も咎めも無しに見過ごすなど!!」
宰相が口煩く話しかけてくるが、それを手で払いのけ不問にするよう命令する。冷静さを戻した余の頭の中では既に如何にしてレンを手中に収めるかを考えていた。個人的な感情を抜きにしても、強大な『英雄』を従える彼を扱える者がこれからの世で覇権を握る事は明らかだ。余の身体は、久しく感じていなかった歓喜で燃え上がり、熱く滾っていた。
どうていちぇりぼいくせい。




