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勇者は奴隷の足がお好き

注意:この話にはいたいけな少年が汚いおっさんやおばさんに悲惨な目にあわせられる描写がございます。ご注意ください。

「レンお兄様、おやめください!」


 鳥も未だ鳴かぬ朝。日が輝くよりも早くにその声が響いた。ある少女が少年の後ろからしがみ付き、目に涙を溜めながら懇願していた。

「お兄様、お兄様はそのようなことなさらなくても良いのです」

 幼い少年は己が腰にしがみ付く女を見つめ、はぁ、と溜息をつき、一呼吸置いてからその口を開いた。

「リーナ、そうはいかないよ。これは本来僕がやらなければならないことだよ。いつまでも君に甘えているわけにはいかないさ」

 彼はそう言って彼女に再び背を向ける。目の前に広がるモノたちに一つずつ目を通し、どのように手をつけるか考えるかのように人差し指をこめかみに添える。彼女はさらに気が昂ったのか、声の大きさを少し上げて再び懇願する。

「お兄様、お兄様はそのようなことをなさってはいけません!! そのようなことはすべて私がいたします! お兄様は私のそばにいてくださればそれでリーナは幸せなのです!! ですから、そのようなことはおやめください!!」

 彼の人差し指にこもる力と、ついた溜息の長さが先ほどより強く、そして長くなった。少しの間、二人の間に沈黙が流れたが、ゆっくりと、兄と呼ばれた彼の口が開き始める。


「……ご主人様、僕は君の奴隷なんだよ? 仕事をさせるわけでもない、家事をさせるわけでもない、それじゃあ僕はなにをしたらいいんだい?」

「お兄様っ! そんな風に呼ばないでください!! お兄様は私のそばにいてくださるだけで値千金の価値があるのですわ! ですから、メイドの仕事を奪ってまでそのようなことはなさらないでくださいませ!!」


 調理場の台の手前、食材の置かれた前で奴隷である少年とご主人様の少女はそんな問答を鳥たちが鳴くまで続けていた。






 朝起きて、今日こそはと思い調理場に音を立てずにやってきたのだが、今日もリーナに気づかれてしまっていた。食材を取り出し、ナイフを手に持ち、いざ調理を始めようとしたところで後ろから軽い衝撃を感じ、振り返ると腰の辺りに黒くて丸い何かがしがみ付いていた。

 リーナ、彼女の今の名前は僕の知っているそれよりも少し長くなっている。リーナ・テリングワース。僕の住むこの国の、貴族にしかつかない姓が付いたのだ。



 彼女は、いわゆる勇者と呼ばれるものであった。



 僕たちは、孤児であった。運が良かったのか悪かったのか、僕たちを保護してくれた孤児院の人たちは優しく僕らを育ててくれていた。僕が最年長で、そのすぐ下にリーナ、そしてその下に数人の子供たち。僕はみんなの兄貴分として(一番体は小さかったが)、彼らの事を可愛がり、家族のように暮らしていた。孤児院の人たちも含め、僕らはかたく結束していた。

 しかし、その生活は長く続かなかった。ある日、院長先生が体調を崩し、矢のごとくこの世を去って行ってしまったのだ。そこから先は厳しい話が続いた。国との繋がりを長く持っていた院長先生がいなくなったことで、孤児院の維持費が尽きてしまった。最年長である僕と孤児院の残された職員さんはこれから先の事を話し合い、結論として、僕が出稼ぎに出るという話で決着がついた。


 ただし、出稼ぎという名の身売りであったことは最後まで僕の心のうちにとどめた。優しいみんながその事を知ったら必ず反対し、全員共倒れになってしまう。それだけは避けたかった。


 そこから先はあまり思い出したくはない。

 朝起きると隣で衰弱死している奴隷仲間、与えられる糞尿のような食事、日の出から日の入りまで休むことなく続く肉体労働。僕の場合はそれに加え、性的なものまで含まれた。下卑た笑みを浮かべながらのしかかってくる豚のような男たち、狐のような目を向けて品定めをする小太りの女達を前に、その直前に小奇麗にされ、薬を飲まされている僕は何の抵抗もすることは許されなかった。




 苦痛の始まりから数年。その時の僕はそれまでと変わらずに日々を過ごしていた。幸か不幸か、成長すらも変わらずにいたため、肉体労働で酷使されることは少しだけ減ったが、代わりにお相手をすることは多くなっていった。

 その日の相手は貴族の中年当主だった。彼は自身の妻よりも僕にかける費用のほうが多くかかるほどご執心のようだった。趣味はたいそう悪く、日中に女物の服を大量に買いこみ、夜中に屋敷の中でその服を僕に着せ、追いかけまわし、服を破き捨て、襲いかかるのだ。

 その日も中年貴族のなめるような視線を受け、着せ替えをさせられているうちに覚悟を決めている所で、彼女と出会った。



 その時の彼女の眼は僕をはっきり捉え、体はわなわなと震えていた。

 そんな中、彼女に気づかない中年貴族が僕の前に現れ、頬をベロリと一舐してきた。




 次の瞬間、中年貴族の首が体と別れを告げていた。




「お兄様、お兄様、お兄様、あぁ、お兄様ぁ! リーナは、お会いしとうございましたっ!!」

 僕としてはこんな姿をリーナには見せたくはなかった。特に、彼女の身にまとう鎧、服、武具はしっかりとしたもので、対する僕はぼろ布か、今つけているような慰み者になる前につける女物の服くらいしか着ていない。穢れきってしまった僕を、見せたくはなかったのに。

 血しぶきを上げて倒れる貴族を見て駆けつけた外警の騎士団が僕らを取り囲む中、心労が祟ったのか、僕は眠ってしまった。




 次に起きた時、僕が目にしたのは立派な天井と、寝かされていたベッドと、跪いて僕の足をなめているリーナの姿だった。

「れるっ、ちゅっ、おはようございます、お兄様ぁ」

 恍惚としているリーナを急いで引き剥がした僕は、彼女から事情を聴くことにした。

 彼女は僕と別れた後、職員さんが立派に育ててくれていた。そんな中、国の神殿に仕える巫女の占術がとんでもないことを告げたらしい。曰く、孤児院の孤児たちが全員、未曾有の災厄を防ぐ者であると。そんな胡散臭いお告げが災厄のほうから現実になったのがそれから数日後、魔物の大進行が起こったのだそうだ。その時国が下した判断は孤児院の孤児を全員前線に放り出すという狂ったものだったという。それを聞いた時怒りに身が沸き立ちそうになったが、皆無事であることを聞いて落ち着くことができた。戦いの中で徐々に彼女たちは異常な強さと成長を見せ始め、ついには群れ全滅をさせてしまったそうだ。その数日後、彼女たちは王に謁見し、貴族の身分と多くの金を与えたという。

 そのお金で彼女たちは全員が僕を探していたらしく。そして今日、リーナが僕を見つけたということらしい。




 ちなみに、中年貴族の殺害の件は不問となったそうだ。底知れぬ力を見せつけられた勇者の怒りのとばっちりを食らっては国が滅ぶと王は考えたのだろう。

 そこまで考えて、ふと視線を下ろすと、リーナはまた僕の足をなめていた。

「リーナ! 汚いことはやめなさい!!」

「お兄様に汚い所なんてございません! ああ、お兄様、お兄様、リーナはお慕い申し上げます……」

 リーナが聞く耳を持たない。昔はこんな人の話を聞かない子じゃなかったはず。

「リーナは悪い子です。お兄様が身の毛もよだつような恐ろしい、苦しい辱めに耐えていらっしゃった時に私達はのうのうと生活を続けていたのです。今の私たちがあるのはすべてお兄様のおかげです。リーナはお兄様に一生を捧げ、お兄様の心の傷を癒さなくては私自身が許せないのです。私の残りの人生はお兄様の所有物として過ごしたいのです! どうか、このリーナを、どんな扱いでもかまいませぬ。おそばにおいてはいただけないでしょうか?」

 そう言ってリーナはその黒い瞳を僕に向けてきた。年上である僕の身長を軽く上回ってしまった彼女は、それでも僕を不安げに見つめている。

「……わかったよ、リーナ。でもリーナは僕の家族だ、決して所有物なんかじゃない。ほかのみんなもそう。大切な家族だ」

 穢れてしまった僕の精いっぱいの気持ち、それで彼女に答える。彼女はしばらく微笑みながら、僕の言葉に応える。






「皆、それでは満足できませんわ。私達はお兄様の奴隷になりたいのですもの、ね」

「は?」

「やはり、お兄様の身分は奴隷のままにして置いて正解でしたわ。勇者の特権もたまには役に立つものですわね?」

「ちょっと、リーナ」

「申し訳ございませんが、お兄様には命令をさせていただきます。“私達のご主人様になりなさい”」

「……!!」

「奴隷の首輪って便利ですわね。命令には絶対服従になるんですもの。ああ、申し訳ございませんでした、お兄様。お願いを聞いていただくためとはいえ、無理強いをしてしまうなんて……! 私に罰をくださいませっ」

「……あっ、手足が勝手に!!」

「あんっ、申し訳ございません!! お兄様ぁ!! リーナは悪い子です!! もっともっと罰をくださいませぇ!!」



 体が勝手に動き、リーナを足蹴にしてしまっている。彼女の顔はとても恍惚としていて、僕を見る目は崇拝する神でも見つめているようだ。足蹴にされている相手に向けていいものではないはず。

「あぁぁ! そんな目を向けられたら!! ごめんなさいぃ! 悪い妹でごめんなさいぃ!!」

 僕の体は止まらず、実の妹の顔を踏み続けている。それに対して妹は僕への謝罪と足をなめる行為を繰り返す。




「お兄様ぁ、リーナは、幸せですぅ……」

 どうして間違ったのだろう、どこが間違ったのだろうか。悩む僕にリーナが止めを刺してくる。

「みんな、先にリーナだけお兄様に可愛がってもらっちゃいましたぁ、ごめんなさぁい……」



 その言葉には恐怖しか覚えなかった。まさか全員なのか。全員だというのか。

 国の勇者全員のご主人様にさせられ、これから彼女たちにお仕置き(ごほうび)を無理矢理与えてしまうことになるお兄様(ぼく)はこれからの将来に頭を悩ませるしかなかった。

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